
多発性筋炎のリハビリ方法について記載しています。
多発性筋炎・皮膚筋炎とは
多発性筋炎(PM:polymyositis)とは、骨格筋の炎症性の変化を特徴とする自己免疫疾患で、主に、
- 四肢近位筋
- 頸部筋群
- 顔面筋
- 咬筋
- 咽頭筋
などの両側対称性の筋萎縮と筋力低下、自発痛を認める突発性炎症疾患です。
男女比は、1:3で、女性に多く、発症年齢は、
- 15歳以下が3%
- 60歳以上25%
となっており、中年発症が最も多いです。
症状によっては筋肉だけでなく皮膚にも特徴的な症状が現れ、その場合は皮膚筋炎(DM:dermatomyositis)と呼ばれたりします。
自己免疫疾患と言うと膠原病が有名で、その中でもリウマチが認知度が高いですが、この多発性筋炎・皮膚炎も同じ膠原病の一種です。原因はいまのところ不明とされています。
多発性筋炎・皮膚筋炎の症状
筋炎というぐらいなので、多くの患者は
- 倦怠感・疲れやすい
- 筋力の低下
の訴えがあります。
頸部筋が侵され、朝起きたときに頸部を枕から上げることができない、などの症状が出現します。
他には、
- 筋痛
- 関節痛
- 皮膚症状(色素沈着・脱色、萎縮)
- レイノー現象
- 心症状
- 間質性肺炎
- 関節炎
- 悪性腫瘍
- その他膠原病(自己免疫疾患)の症状
が出現します。

レイノー現象では、手指などの末梢部の血管が発作的に攣縮し、虚血状態になります。寒冷刺激により、白くなり、しびれる症状が出ることを言います。
重症例になると、心筋や呼吸筋、嚥下筋も侵されるため、
- 誤嚥性肺炎
- 呼吸不全
- 心不全
- 間質性肺炎(約半数の症例に認められる。)
などを合併すると生命にも関わりかねません。心病変と肺病変は直接的死因の70%を占めます。
悪性腫瘍などの合併症がない場合の多発性筋炎の予後は5年生存率90%、10年生存率80%と生命予後は良好とされています。
重症度分類
厚生労働省により重症度基準が設定されています。この基準では、以下の4項目のうち最低1つが該当すれば重症と判定されます。
1. 筋疾患(PM/DM)に由来する筋力低下がある
体幹・四肢近位筋群のうち、
- 頸部屈筋
- 三角筋
- 上腕二頭筋
- 上腕三頭筋
- 腸腰筋
- 大腿四頭筋
- 大腿屈筋群
の7つの筋(群)の筋力を評価し、次の2項のいずれかに該当すれば、本項目を満たしたものとする。
- 7筋(群)の平均MMTが4+以下
- 7筋(群)のうち、いずれか1つの筋(群)のMMTが4以下
※)この7筋(群)はPM/DMで筋力低下をきたす頻度が高く、検者は筋力の評価に習熟していなくてはならない。
筋力評価スケールはMMT (Manual Muscle Testing)による5段階評価を用いる。2. 原疾患に由来する CK 値もしくはアルドラーゼ値(ALD)上昇がある
3. 活動性の皮疹(皮膚筋炎に特徴的な丘疹、浮腫性あるは角化性の紅斑、脂肪織炎が複数部位に認めら れるもの)がある
4. 活動性の間質性肺炎を合併している(その治療中を含む)

皮膚症状について

- 顔面
- 胸部
などに、
- 紫紅色の腫れぼったい紅斑(上部眼瞼部に多い=ヘリオトロープ疹と呼ばれます。)
- 手指関節背面の皮がはげた紅色の皮疹(ゴットロン徴候)
- 毛細血管の拡張
- 色素沈着・脱失
が出現します。
治療
治療はステロイド療法が中心となります。自己免疫疾患による過剰な免疫反応を抑え、炎症反応を沈めます。
治療期間は長期間になる場合が多いです。よって、リハビリテーションを行い、廃用症候群や身体機能の維持に努めることも大切となります。
多発性筋炎・皮膚炎のリハビリ
過用製症候群に注意して進めることが大原則となります。全身性の慢性炎症疾患であることに常に留意し、筋だけでなく、心肺系やステロイド長期服用の副作用(易感染など)にも注意します。
評価
まず、発症からの経過や期間を把握しておくことが重要です。筋痛などがある場合は、部位や程度、性質をまず問診と評価して把握します。
過用症候群が禁忌となるため、血液検査のCK(クレアチン・キナーゼ)の値は筋崩壊の程度を示すものとして把握しておきます。

酵素の一種で、筋肉細胞におけるエネルギーの代謝に関連する重要なはたらきをしています。心筋や骨格筋、平滑筋などに多く含まれているほか、脳細胞にも含まれています。よって、CKP値に異常がある場合は、筋肉や脳に異常がある、ということになります。
- 正常値・・男性…40~200IU/l、女性…30~120IU/l
CKは筋肉量に比例して多くなるため、男性の方がやや高値となります。
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日常生活動作(ADL)練習
体幹や四肢近位筋が侵され、関節痛や筋痛が出現するため、ADLが障害されることが多いです。
上肢では肩関節の可動性が低下することによる能力低下、体幹・下肢では移動動作、起居動作が障害されます。「しているADL」が既に過負荷になっている場合もあるので、その場合は効率的な動作方法を練習したり、一時的に福祉用具や装具を使用することも視野に入れます。
また、病状の変化に対応するために、基本動作などの遂行時間などの実用性を把握しておくと変化に対応しやすくなります。
ROM・運動療法
長期間のリハビリを要することが多いため、急性期と回復期に分けてリハビリ内容をご紹介します。
急性期
筋痛や関節痛が強い場合や、末梢循環障害があり、レイノー現象がみられる場合は、ホットパックなどを併用しながら、関節拘縮予防のためのROMを行います。拘束性呼吸障害を併発している場合は胸郭のストレッチと可動域訓練も合わせて実施します。
筋の石灰化や線維化がみられる場合には、超音波療法が有効な場合もあります。
体幹筋力の低下するケースが多いため、体幹筋を鍛える運動も行います。
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回復期
回復期では筋疲労に充分注意しながら運動療法を行います。低負荷高頻度が原則です。翌日に疲労が残るような運動負荷は避けます。
体幹筋と上下肢筋を一緒に鍛えられる、ダイアゴナルなどの運動が行いやすいです。
回復期以降は、運動機能の回復はもちろん必要ですが、長期的な臨床経過を辿ることも多いため、心理的・社会的支援を行うこともリハビリの目的として重要です。
まとめ
多発性筋炎・皮膚炎は、その名前から筋や皮膚の機能ばかりに注目してしまいがちですが、全身性の疾患なので、心肺機能や嚥下機能など広範囲に障害が出現することが多いです。また、疾患の症状の幅が広く、個別性が高いことも特徴として挙げられます。
特に、
- 誤嚥性肺炎
- 呼吸不全
- 心不全
- 間質性肺炎
の併発・合併に注意が必要です。
また、長期的な経過を辿るため、焦らずじっくりとリハビリに取り組んでいくことが重要となります。
運動療法では翌日に疲労が残るような過負荷の運動は禁忌で、あくまで機能維持と廃用症候群の予防、ADL動作の維持・向上を図る目的で行います。