
疥癬は、以前ご紹介した白癬と同じように、直接人の身体に触れる仕事である医療従事者にとって感染のリスクが高い感染症です。予防するためにどういったことに気を付ければ良いのでしょうか。
私はリハビリの現場で約6年働いていますが、疥癬に感染しているの患者さんを、臨床経験2年目の頃に一度だけリハビリしたことがあります。
当時私は無知だったので、周りの職場の同僚の方に対応方法を聞きましたが、リハビリ従事者はぜひ知っておくべき感染予防の知識だと思います。
疥癬(かいせん)とは

疥癬とは、疥癬虫、または俗称ヒゼンダニと呼ばれるダニの一種が人の皮膚に寄生して起こる感染症です。この疥癬虫は最大でも約0.04㎜程度で、小さいため肉眼で確認することはできません。
疥癬虫が指の間や陰部などに皮膚に付着すると、毎日2~3㎜ずつトンネルを掘り進み、このトンネルの中に産卵します。
これを疥癬トンネルと言い、疥癬に特徴的な症状です。
トンネル内に産卵された卵は3~5日でふ化して幼虫となり、10~2週間ほどで成虫になります。
適応できる温度が低く、乾燥にも弱いため、20℃で動きが遅くなり、16℃で完全に動かなくなります。人体から離れると、50℃10分間で死滅すると言われています。
ノルウェー疥癬(角化型疥癬)が特に注意を要する
ノルウェー疥癬(角化型疥癬)とは、普通の疥癬が重症化したもので、免疫力の低下した高齢者に多く発症するといわれています。
普通の疥癬は人の皮膚から落ちると感染力を早くに失いますが、ノルウェー疥癬はヒゼンダニの寄生数が多く、患者から剥がれ落ちた皮膚(角質)に多数のヒゼンダニが生存します。
よって、ノルウェー疥癬の場合、人の肌から肌を経由する直接的感染のものと、患者の衣服や寝具を介した間接的感染が発生するやっかいな感染症です。
ノルウェー疥癬は感染力が強いため、しばしば老人施設や病院で集団発生することがあります。
疥癬の症状

感染後3~4週間は無症状の潜伏期間があります。
特に皮膚の柔らかい部分である、
- 腹部
- 腋窩
- 指の間
- 陰部
などが侵されやすいです。
強い痒みが特徴的で、特に夜間に体が暖かくなると痒みが強くなり、寝れなくなるほど痒いと言われています。この痒みはダニのアレルギーによるものとされています。
感染しても上述のように潜伏期間があるため、このような症状が出ていなくても安心はできず、注意は必要です。
疥癬の診断
感染の疑いがある人の皮膚を採取し、顕微鏡で疥癬虫の姿を確認できると、確定診断となります。痒みが強いため、感染部にかき傷が多いと発見がしにくいことがあります。
疥癬の感染予防と治療法
疥癬は、感染してもノルウェー疥癬に移行しないように予防することが大切です。
免疫力の低下している患者はかゆみを訴えるからと言って、すぐにステロイド剤を投与すると免疫力の観点からいうと適切ではありません。
治療
体表のダニを駆除するために、脱ダニ剤の入ったクロタミン(オイラックス)軟膏などが処方されます。
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予防方法
ノルウェー疥癬と普通の疥癬では感染力の強さの違いにより、予防方法が異なります。
普通の疥癬
普通の疥癬は感染力が比較的弱いために患者者と接触する際は以下に注意します。
- 隔離は必要ない
- 予防衣(ガウン)、手袋は必要ない
- 接触後、手洗いが必要。手首まで入念に洗う
- 洗濯物の運搬はビニール袋に入れて、剥がれ落ちた角質が飛び散らない様に配慮する
- いつも通りの掃除方法でOK
- 同じ布団で寝ることは避ける
ノルウェー疥癬
ノルウェー疥癬では、普通の疥癬予防対策に加えて、シーツや着衣など、患者の身体に接触しているものに付着した角質から感染するため、それらの管理が重要となります。
- 患者を個室に1~2週間程度の間 隔離(同室で寝ない。ベッド・寝具ごと移動させる)
- 手洗いはもちろん必要
- 身体介護や身体接触を行う時は予防衣(ガウン)、手袋を着用。使用後はビニール袋・蓋つき容器などに入れて付着した角質が飛び散らないように管理する。直接肌に接触しない。(隔離期間のみ)
- シーツや寝具の交換をこまめに行う
- 洗濯物はビニール袋に入れて、蓋つきの容器に入れて運搬・管理
- 洗濯は普通の洗濯に加えて乾燥機を使用するか、洗濯前に50℃10分間の熱処理をする
- 発覚前にいた居室に殺虫剤を散布
- 掃除機で角質を吸う掃除を入念に行う
- トイレ・車いすなどを患者専用にする
- 入浴の順番は最後にする(脱衣所に掃除機、浴槽は使用後すぐに水で流す)
- 感染が発覚するまで同室していた者にも予防的治療を行う(接触していた職員も同様)
※)ガウンは下の写真のような使い捨てタイプを使用します。
まとめ
疥癬の予防法について記載しました。上述のようにノルウェー疥癬は特に注意が必要です。
疥癬は隔離が必要なためどうしても活動が制限されてしまいます。リハビリの観点では、必要最低限の活動制限に留め、患者の身体能力や精神活動を抑制し過ぎないように配慮することも重要なことだと思います。
画像引用1)日本皮膚科学会HP