
臨床のリハビリでよく用いられるテクニックに”PNF”があります。概念だけでもちょっと知っておくと、意外に臨床に応用することができ、治療のバリエーションが広がると思います。
PNFとは
PNFは「神経-筋促通法」とも呼ばれ、主に固有受容器を刺激することで神経筋機構反応を促通する方法と定義されています。固有受容器には、筋の伸張を感知する筋紡錘などの組織が含まれていますが、PNFでは皮膚の感覚器にも刺激を与えることを意識して行います。
具体的には、
- 触覚
- 圧覚
- 運動覚
- 平衡感覚
- 聴覚
- 視覚
などの感覚を刺激します。
受容器としては、
- 筋紡錘
- 腱紡錘
- 関節受容器
- 前庭器官
が関係しています。
特徴としては、末梢器官だけでなく、中枢神経疾患の治療訓練としても用いられることです。
PNFでは、それらの受容器に刺激を与える方法として、
- 筋の伸張
- 最大抵抗
- 関節の牽引
- 関節の圧縮
などの方法を用います。
神経筋機構に何かしらの問題があると、
- 筋力低下
- 協調性低下
- 筋の短縮や関節可動域制限
- 痙性
などの異常が表出します。それらをコントロール、改善させるために正しい操作をセラピストが外部から行います。
PNFで用いられる動きは回旋動作が主体

ヒトの自然な動作では、必ず対角線上の動き、回旋させる動きがあり、これが最も自然な動作です。野球のバッティングなどをイメージしてもらえれば分かりやすいかと思います。PNFではこの動作を基本概念として神経と筋の促通を図ります。
PNFによる神経筋の促通と抑制方法の基礎知識
PNFでは以下の基礎知識を理解しておくと便利です。
筋伸張
筋の伸張が加えられると、筋はより強力に反応します。
よって、PNFでは、開始肢位で充分に筋を伸張した姿勢をとります。
これは、
- 伸張刺激
- 伸張反射
を誘発し、神経筋の促通をより促すためです。
必ず、痛みを誘発しない程度の伸張に留めておくことに注意が必要です。
急激に加える伸張は運動の促通と強化を促し、持続的に伸張を加えると抑制を促します。
伸張刺激
筋が伸張されることによって、固有受容器の興奮性を高めることができます。
伸張反射
伸張刺激を急激に加えると、伸張反射を誘発し、筋の急激な反応を促通することができます。
しかし、もちろん痛みのない範囲で伸張を加えなければなりません。
牽引と圧縮
PNFでは、関節に、
- 牽引
- 圧縮
を加えることによって固有受容器を刺激します。私も臨床で関節の圧迫と牽引はROMの際に多用しています。
牽引は主に運動をなめらかにすることができ、圧縮は固定性を高めるため(姿勢の保持と安定性の向上)に有効です。
歩行動作の時に股関節の動きが悪い方に対して、簡易的に牽引を行うことで歩幅が拡大するなどの効果は、何度か牽引・圧縮の徒手的練習をすればすぐに実感できると思います。
よく臨床で目にするのが、立位で骨盤帯をセラピストが下方向に圧縮し、下肢の促通を行っている場面です。あれもPNFのこの理論を応用しています。
ヒトの動作の特性上、上肢帯は牽引が掛かっていることが多い一方、下肢は圧縮されることが多く、PNFでも基本的にはそのように操作が加えられることが多いです。
最大抵抗
最大抵抗とは、その患者の持っている力の最大値のことです。
PNFで促通を行う際には、全可動域の1/3が最大となるようにして、最初から最後までなめらかに抵抗をかけることが原則とされています。
PNFで神経筋を促通するには、なめらかな運動が絶対に必要なので、最大抵抗といっても振戦が出現しない程度の抵抗が求められます。これが初心者には非常に難しく、ある程度の習熟が必要です。
この最大抵抗の理論は、ベッド上の訓練だけでなく、
- 歩行
- バランス訓練
などにも応用することができ、非常に応用範囲の広いものです。
この抵抗の目的は、筋力増強というよりも、適刺激の増大を図り、患者の訓練課題の学習効果を高めることにあります。
正常なタイミング
PNFでは筋収縮の時間的経過を上手くコントロールします。
運動の正しいタイミングは、通常、筋収縮は遠位から近位に起こります。
例えば、PNFにおける上肢の伸展、内転、内旋パターンでは、遠位の、
- 手首
- 前腕
- 肩
という順に操作を加えていきます。
視覚刺激
PNFでは運動を行う際に、視覚刺激も意識します。
頭頸部や上肢、体幹上部のパターンを行う時に患者に運動の方向を目で追わせるように指示することでその運動をより意識してもらいます。
PNFの基本特殊テクニックの概要
基本となる技術は以下の通りです。
もちろん、それぞれ完璧に臨床に応用するには相当な練習が必要ですが、例えば、ホールドリラックスなど知っているだけでも比較的簡単に臨床応用が可能です。
反復収縮
古典的条件反射のひとつに、反復刺激により、神経筋に伝わるインパルスの伝導が容易になる、といわれています。
この理論を元にして、促通パターンを用いて片側方向の運動のみを繰り返して行います。
具体的には、
- 可動域の初期の運動を繰り返す
- 可動域の中間の運動を繰り返す
などの方法があります。それぞれ促通したい領域の運動を反復して行います。
反復して行うと、筋力増強と協調性を向上させる働きがあります。
スロー・リバーサル
促通パターンをゆっくりと反復することをスロー・リバーサルと言います。
これは、主に拮抗筋を促通することで主動作筋の興奮性が増大することを利用するテクニックです。
上肢の屈曲・外転・外旋パターンを促通したければ、その拮抗パターンである伸展・内転・内旋パターンをまず初めに行い、ゆっくりとした運動を反復して行います。その直後に本来促通したい方向である屈曲・外転・外旋パターンを行います。
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スローリバーサル・ホールド
上述のスロー・リバーサルは等張性収縮ですが、その途中で動きを止めて、等尺性の収縮を加える方法をスローリバーサル・ホールドと言います。動きを止める時間はせいぜい2.3秒程度です。
特に関節の固定性を向上させる目的で用いられます。
リズミック・スタビリゼーション
等尺性収縮を用いながら、拮抗する反対方向に交互に抵抗を加える手技です。
上腕二頭筋を例に挙げると、まずは肘屈曲方向に等尺性の収縮を加え、すばやく逆方向(肘伸展)方向に再度等尺性の収縮を加えます。
急激な抵抗の変化をリズミカルに行うことで、スタビリゼーションの名の通り、固定性・安定性を高めることができます。付随して、協調性の向上にも役立ちます。
スローリバーサルと似ていますが、スローリバーサルは等張性収縮で刺激を入れるのに対して、リズミック・スタビリゼーションは等尺性で収縮させるという違いがあります。
特に動作時に痛みがある部位に対して、関節をほとんど動かさずに(痛みを誘発せずに)筋力増強を図ることができるというメリットがあります。
小脳性の運動失調症の患者に用いると協調性の改善に効果があるとする報告もあります。
難点としては、やはり技術的に難しいことが挙げられます。それ相応の練習をしていないと、うまく等尺性の収縮をリズムよく与えることは容易ではありません。
ホールドリラックス
リラクセーションを得るための方法です。
筋は最大収縮後に弛緩するという特性を利用して、ターゲットの筋に等尺性の最大収縮をさせ、その後のリラクセーション効果を得る方法です。
これは臨床で比較的簡単に使えるテクニックです。ぜひとも使ってみて下さい。
筋の短縮で関節可動域制限がある時に、このホールドリラックスを行うと、比較的容易に可動域の改善効果が分かります。
例としては、ハムストリングの短縮が原因と思われる関節可動域制限がある患者に、ハムストリングを全力で収縮させ、その後に膝関節伸展のROMを行うと、効果が実感しやすいと思います。
リズミックイニシエーション
運動開始時の能力を改善するために主に用いられます。固縮などにも有効と言われています。
手順は、
- 他動的に数回運動を繰り返す。
- 次に自動介助で運動を繰り返す。
- 最後に自動運動で同じ運動を繰り返す。
運動を簡易的に学習させるような働きがあり、位置覚や運動覚が低下して運動がうまく行えない患者にも適応します。
まとめ
PNFでは、
- 筋の伸張
- 最大抵抗
- 関節の牽引
- 関節の圧縮
の生理的特徴を利用して、
- 反復収縮
- スロー・リバーサル
- スローリバーサル・ホールド
- リズミック・スタビリゼーション
- ホールド・リラックス
- リズミック・イニシエーション
などのテクニックで神経を筋の促通を図り、目的とする動作を改善させます。
今回ご紹介した理論とテクニックを知っているだけでも、
- ROM
- 筋力増強
- 協調性の向上
などに簡易的に臨床応用できます。
私の場合は、普通にROMなどを行って改善が難しそうな場合、ホールドリラックスを試したりすることが多いです。
ROMをしている時間がない場合なども、下肢の牽引を簡易的に行ってから動作練習を行うこともあります。それだけでパフォーマンスが変ります。もちろん効果的な部位に行う必要はあります。
あとは脳卒中片麻痺の方の荷重練習の際に、下肢関節への圧縮を意識して促通しながら練習を行ったり、小脳性運動失調の患者にリズミック・スタビリゼーションを応用したりしています。
PNFを極めようと思うとかなりの時間と労力を要しますが、概念と基本的手技の原則を知っているだけでも意外と臨床応用ができるので、ぜひこの機会に興味を持たれた方は試してみて下さいね。