全く知識のない療法士が「ピラティス」をリハビリの臨床でどう適応させるか?


私は理学療法士ですが、普段のリハビリの臨床で、「理学療法士だから理学療法で患者さんを診る」という方法にこだわる必要はないと思っています。




「患者さんの生活と人生を診て、そのために身体状態を整える」という理学療法の基本コンセプトに近い治療法であれば、貪欲に取り入れて、より効率的な治療を目指すべきだと思います。

その中で、リハビリテーションと非常に基本コンセプトが近い「ピラティス」と理学療法とを融合して、ブログで情報発信を行っている理学療法士の方がいらっしゃいます。

臨床で、従来の方法ではなかなか結果が出にくい患者さんに悩んでいる療法士の方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみて下さい。

今回対談をお願いしたピラティストレーナー”ナカタニさん”について

0011-e1444986649897ナカタニさん

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ナカタニさんが運営されているブログ:理学療法士による「RPP」

ピラティスとリハビリについて情報発信している「理学療法士によるRPP」というブログを運営されているナカタニさん。理学療法士とピラティストレーナーの資格を保有されています。

ちなみに、「RPP」とは、

  • R:「Rehabiri」
  • P:「Piⅼates」
  • P:「Prevention=予防」

を意味します。

サイトのデザインもスタイリッシュで非常にカッコいいです。

 

もちろん内容も濃く、非常に記事の質が高い!

動画を豊富に使って、

  • 体幹筋群・インナーマッスルを鍛える方法
  • ピラティスの理論を応用した自主トレ
  • 疾病・再発予防の方法

などについて分かりやすく、丁寧な文章で書かれています。

 

今回の対談は、「より具体的に、臨床でピラティスの概念を取り入れるにはどうすれば良いか?」ということを中心にお聞きしてみました。

「ピラティス」のリハビリでの臨床応用について

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まず、ピラティスの臨床応用の前にどうしても「ピラティスとはそもそもなにか?」という点を簡単に知っていただく必要があるかと思います。

ピラティスとは?

ピラティス

「ピラティス」というのは、ドイツ人のピラティスさんという人が約100年前に提唱した運動療法で、戦時中の負傷兵のベッドサイドでのリハビリテーションとして開発されたものです。

そのため、医療現場におけるリハビリテーションとして臨床応用がしやすいのは当然といえば当然です。

 

ピラティスは、単にインナーマッスルを鍛えるというエクササイズではありません。

身体と心は密接につながっています。

ピラティスは「身体と心を自分でコントロールできるようにしましょう」というセルフコントロールという概念が根本にあります。

 

ピラティスエクササイズを通して自分の身体と心に向き合い、気づきを得ながら自分で修正を繰り返し、人間の本来持ってる適切な動きを学習して健康な身体と心を獲得してゆくことです。

重要なのはエクササイズの形ではなく、ピラティスの根本にある概念とエクササイズの原理原則です。

理学療法士として医療現場で臨床的に応用がしやすいのが原理原則です。

これは呼吸やコアコントロール・関節に負担のかけない動きなどが体系化されています。

ピラティスの原理原則は超急性期や高齢者から外来・スポーツ・予防分野まであらゆる領域で応用できると考えています。

 

意外かもしれませんが、超急性期でもです。

ICUで下側肺障害に対するアプローチとして腹臥位療法を行うことがあります。

背面への換気を促す・背面で呼吸をするということはピラティス呼吸で練習していたことですのでイメージがつきやすく呼吸介助にも応用ができました。

 

ピラティスの原理原則として重要なもので比較的臨床に応用しやすいものに、

  • 骨盤のニュートラル
  • エロンゲーション

という概念があります。

ピラティスの原理原則「骨盤のニュートラル」について

骨盤のニュートラル(中間位)を保持するというピラティスの原理原則があります。

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画像引用)ナカタニさんのブログ「理学療法士によるRPP」より

腰部のニュートラルを保持するには、

  1. 腰部のインナーマッスルがバランスよく機能すること
  2. 自分のニュートラルがどのポジションかを体性感覚的に認識すること

などが必要です。

参考) インナーマッスルについて

 

普通の人でも自分の腰部のニュートラルな位置を自分で認識できていないことが多いです。 この時点でズレてしまうとどうしようもないので、まずは自分のニュートラルな状態に気づくことがスタートです。

この外観と内観のズレが関節への負担・怪我につながりますので、できるだけこのズレを修正してゆくことがポイントとなります。

次に、四肢をダイナミックに動かしても腰部のニュートラルを崩さないように意識をしてゆくエクササイズに移行します。

この時には腰部の安定性と股関節や胸椎のなめらかな可動性が重要となってきます。

参考) 脊柱の構造について

 

これらが動かないと、結果的に腰部のニュートラルが保持できずに腰部にストレスを与えてしまいます。

ピラティスの原理原則「エロンゲーション」について

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そこで、ニュートラルポジションの引き出し方が重要となってきます。

過剰にアウターを使って見た目のニュートラルをつくっても意味がないのです。 ピラティスの原理原則の一つとしてニュートラルと関連してエロンゲーションという考え方があります。

これは、「軸の伸張」ということで脊柱が上下に伸びてゆくようなイメージをつくることがポイントです。

ピラティスは重力に負けないしなやかな身体を目指しています。 エロンゲーションは抗重力筋の活動を引きだすのに非常に使いやすい考え方です。

 

この方法については、こちらの動画で説明しています。

(ナカタニさんのブログから動画を引用させて頂きます。こんな質の高い動画が他にもたくさんあるので是非チェックして下さい!)

  また、「寝たままでもできる キセキののび体操とピラテイスとの関連性について」という記事でもエロンゲーションについて取り上げていますので参考にしてみてください。(西野:この記事は本当におすすめです!エロンゲーションのことが非常にわかりやすくまとめられています。) 

ピラティスをリハビリで応用しやすい疾患・症状

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なんだかんだいって、結局一番応用がしやすいのは整形分野であると思います。

 

腰部椎間板ヘルニアの術後のリハビリでは、腰部のメカニカルストレスを軽減するために、先程ご紹介した骨盤のニュートラルとエロンゲーションが効果的です。

変形性膝関節症、脊柱管狭窄症、肩関節周囲炎

ピラティスは予防分野にも非常に相性がよいです。

などの予防にも最適です。

身体の関節にはそれぞれ役割があり、適切にその役割を果たしてもらう必要があります。この役割分担が破綻すると障害が発生するリスクが高まります。

必要なときに必要なだけ筋肉・関節の動きを引き出せるようにしてゆくことで、身体に負担の少ない動き方を学習させてゆくのです。

非特異性腰痛

もう一つ、身体と心との関係性に着目してみると非特異的腰痛へのアプローチにも応用できます。

参考)非特異性腰痛について リハビリ治療で重要な腰の基礎的知識と評価 まとめ

 

そもそも、自分が非特異的腰痛がきっかけでピラティスを始めそれによって克服しましたから。

 

非特異的腰痛は身体的なメカニカルストレスと脳の痛みに対する認識の異常が混在しています。

ピラティスによってメカニカルストレスの加わりにくい動きを学習してゆくとともに、呼吸法による精神的なリラックスや「動いても痛くない」という気づきを得てゆくことで脳の機能異常にも効果があるのではないかと考えています。

身体と心の異常が引き起こす悪循環をリセットして、好循環をつくりだすきっかけになるのではないかと思います。

ピラティスのリハビリへの応用の実際「評価とトレーニング方法について」

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非常に丁寧でわかりやすい説明ありがとうごさいます。

 ピラティスは傷病兵向けに考慮されたもの、ってところが特にリハビリ分野と共通しやすいところかと思います。

怪我してる人にガンガン筋トレしたりできないので、ピラティスの比較的穏やかな運動を促して、身体だけでなく、心のコンディショニングも視野に入れて整えるというところで、何らかの疾患を有する人が対象となるリハビリと基本的な概念はかなり共通するところがありそうです。

ピラティスの概念と原理原則は是非とも多くの療法士に知ってもらいたいところですね!

 

ここでは、あえてなんですけれども、具体的にピラティスのことをよく知らない療法士(つまり私)がピラティスを臨床に取り入れる手順を考えてみたいと思います。

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対象を考慮する

hideyuki

適応となる疾患、ピラティスの概念を取り入れて考慮すべきケースは、特に、

  • 腰部のメカニカルストレスが起因となり得る疾患
  • 心因性の疼痛が関係している場合

でしょうか?

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例としてあげて一番わかりやすいのが腰部疾患です。しかし、ピラティスの臨床応用はあらゆる疾患にできると思います。 

呼吸ひとつとっても、

  1. 換気
  2. 胸郭の可動性
  3. コアコントロール
  4. 精神面

など様々な視点から応用ができます。

hideyuki

今回は、理解しやすいように、腰部疾患へのリハビリへの臨床応用を考えたいと思います。

 

外観と内観両面から骨盤のニュートラル認識し、それを自ら保持できる、または崩れても元に戻せるというところがピラティスにおいては重要視されているのですね。

さらに、その状態で四肢の運動が行えるように促していくと、日常生活でも腰部にメカニカルストレスの少ない状態で過ごせると。

 

私も詳しくはないのですが、ボバースの基本コンセプト(概念)として、

  • 骨盤のハンドリング
  • 適性なアライメントでの感覚入力
  • 徹底した反復(動作の般化)

などがあり、近いところがあるのかなぁと思いました。

ここらはボバースのブログを運営している療法士がいたら聞いてみたいです笑。

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ボバース概念との関係性については、私も気になっている部分です。

以前リハビリ向けのピラティスインストラクターコースに通っていたときも、ボバースをガンガン勉強している理学療法士が参加してて一緒にピラティスの勉強をしていました。

ボバースで引き出そうとしている動きはピラティスで求める動きと似た部分があります。 どの切り口でアプローチしてゆくかは大きく異なりますが、結局「人」としては構造的に同じですから最終的に求める動きや活動は一緒なのかもしれないですね。

ボバースも概念。ピラティスも概念が大切です。

hideyuki

実際にどう臨床で適応していけば良いのかなということについて、目指すべきピラティスでの「骨盤のニュートラルがどんな状態か」は、こちらの記事に書いてある通りですね。

※)詳細はナカタニさんのブログ記事へ 骨盤のニュートラルとは?

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画像引用)理学療法士によるRPPより

この状態をリハビリによって目指すとします。

評価

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まずは、患者さんの骨盤がニュートラルであるのかどうか、臨床で評価する方法はこちらの記事に書いてある通り、以下の2通りですね。

  1. 背臥位で腰椎の下に手を入れる。
  2. 骨盤のトライアングルを確認する。
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画像引用)理学療法士によるRPPより

※)詳しくはナカタニさんのブログ記事へ 骨盤の前傾と後傾とニュートラルの基本

骨盤ニュートラルを保持するトレーニングとして

  1. まずは、療法士がハンドリングして、背臥位で骨盤のニュートラルを保持する練習を行っていく。
  2. そのあとに体性感覚を通して患者がその肢位を自ら保持できるように促していく。

 

骨盤のニュートラルを保持する臨床での訓練課題の難易度としては、易しい順に

  1. 背臥位
  2. 座位
  3. 立位 

で、プラスアルファそれぞれの肢位で、ニュートラルを保持したまま四肢の運動を取り入れることで、よりその患者さんに必要なインナーの筋肉に刺激を入れていく、という流れですね。

※刺激を入れていく・・単純に筋力増強だけを図るのではなく、コーディネーション、レスポンスの向上を図る。

 

課題の難易度を考慮しながら、最終的には立位での骨盤ニュートラルでの動作が出来るようにもっていくことがゴールでしょうか。

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ニュートラルの学習はまずは背臥位がよいと思います。 理由としては、背臥位では支持面が多く情報が入りやすく変化をとらえやすいからです。

最終的には座位・立位・四這いなど様々な姿勢において、必要に応じてニュートラルを作れる・保持できるようになるということがゴールとなります。

アライメント異常により、骨盤のニュートラルが取れない場合は?

hideyuki

ここで、疑問が出てくるのですが、圧迫骨折などで、腰椎椎体の器質的な変形など、何らかの不可逆的なアライメントの異常がある場合はどうすべきでしょうか?

私の臨床経験では、特に高齢者の場合、背臥位で骨盤のニュートラルを取れるとしても、立位では取れないという場合が多くあるように思います。

運動連鎖を考慮すると、臨床で遭遇することの多い、変形性膝関節症の患者さんで膝関節の骨性の制限による伸展拘縮がある場合も、立位で骨盤をニュートラルに保持することが難しいように思います。

 

骨盤のニュートラルがそもそも取れない可能性がある患者さんには、どう対処すれば良いのでしょうか?

ピラティスでは形を最重要視するわけではない

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一般的なニュートラルのポジションは一応上述のような評価方法がありますが、 大切なのは「形」を求めるのではないということです。

形を求めると「ピラティスは健常者にしか使えない!」みたいなおかしな話になっていってしまいます。

この点が障壁になっているような気がします。

ニュートラルというのは個人によって異なります。

ご質問にもあるように、圧迫骨折や膝OAの患者さんの場合には構造的に上記のような腰椎の生理的な前弯をつくることは困難です。

ニュートラルというのは中間位ということであり、その人のもつ構造の範囲内での中間位をとればいいと考えています。

圧迫骨折の人などではニュートラルゾーンが狭くなっているのです。

つまり、腰部の「過屈曲でもなく過伸展でもない領域」です。 構造的な支持物に頼るほうがインナーの筋活動が少なくて済むでの姿勢保持は楽になります。

これを繰り返していると結果的に骨・関節・椎間板・靭帯組織を痛めてしまう可能性があります。 楽しているといつか痛い目をみるのです。

そのため、「中間位を保持して関節に負担のかからないようにしましょう」ということになります。

クラインフォーゲルバッハの運動学の概念でいうカウンターウエイト(CW)ではなくカウンターアクティビティ(CA)の活動を引き出しましょうということで説明がつくのではないかと思います。

  • カウンターウェイト(CW)とは?

目的動作に伴い運動に参加する体節以外の部位を、目的方向と反対方向に移動させる事で、ヤジロベエのように重みを釣り合わせて運動の拡がりを制御する活動のこと。ウエイトシフトの方向とは反対の方向に動かすことによって、重みを釣り合わせて制動している状態を表します。

  • カウンターアクティビティ(CA)とは?

CAとは、運動の拡がりを拮抗筋の筋活動で制御する活動です。左にウエイトシフトする際には、体幹の左側屈でウエイトシフトするのではなく、右の体幹の側腹筋で制御している状態を表します。

hideyuki

  • 「ニュートラルというのは個人によって違う」
  • 「過屈曲でもなく過伸展でもない位置を見つける」

というのが抽象的で、臨床で実際に応用させるのが難しいなと感じました。

ここの部分は「その人にとって骨(腰椎)への負担がより少ない状態での運動を引き出す」という認識で良いのでしょうか?

つまり、骨盤が明らかに過剰に前傾しているなら、できる範囲で後傾させた肢位(中間位に近い肢位)でのエロンゲーションを行い、インナーを賦活していく、という理解で良いのでしょうか?

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そうですね、過剰に骨盤前傾しているのであればそれは「過剰」であり後傾方向に調整をして中間位に保持できるように学習をさせてゆく必要があります。

繰り返しますが、求めるのは、CW(カウンターウェイト)ではなくCA(カウンターアクティビティ)です。

エロンゲーションですべて解決するわけではありませんが、必要に応じて徒手的にアライメントを調整してその後にエロンゲーションを保つようにトレーニングをして自分のものにしてゆくといった感じです。

ピラティスはアートの要素をもっています。 感覚的な部分です。

この点がわかるようになるために、絶対的に必要なのがセラピスト自身が体を動かすことです。

いくら頭で考えても、自分自身が動かないとどうしようもない部分があります。

自分自身が自分のニュートラルな位置を繰り返して探すことで、理解しやすくなるのではないでしょうか。

私はピラティスを臨床応用するにはピラティスをセラピスト自身が継続的に実践することが全てだと思っています。

これは別にピラティスだけに限りません。

自分の身体を通して学んだ経験は必ず患者指導に生きてきます。

キューイングひとつにとっても言葉の選び方・トーン・タイミングが変わってきます。 むしろ、経験していないセラピストが適切な運動指導はできないと思っています。

hideyuki

なるほど。

やはり、ピラティスを療法士自身が体験し、感覚としてニュートラルな状態を知っていると個別の微妙なケースに対応する感覚が養われるということですね。

そして、その感覚を手掛かりに患者と接していくということでしょうか。

ピラティスの腰痛予防の考え方

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一般的には、腰痛=腹筋運動という認識が少なからずあると思いますが、少し専門的になると、腹横筋などの収縮を高める、ドローインなどのコアトレーニングやインナートレーニングが有効と言われています。

しかし、私はこれに対して、自身の臨床経験を通して、それぞれのインナーの協調性とか、収縮のタイミング、反応性を高めるというところが根底として腰痛予防の為に必要だと思っており、まさしく、そういったことがナカタニさんのブログ記事にすっきりと書かれており、すごく感銘を受けました。

参考)絶対見てほしい、西野おすすめのナカタニさんの記事です。 腰痛の再発予防に重要な腹横筋。ドローイン以外の効果的なトレーニング方法は?

そういったところで、骨盤のニュートラルとエロンゲーションの概念を知っておくことは療法士にとって臨床上の視点を広めるという点で非常に大切だと思いました。

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腰痛予防=体幹を鍛える=腹筋を鍛えるような考え方では限界があります。

ドローインは使っていなかった腹横筋の再教育としては有効だと思いますが 、過剰に腹横筋を固めるようなトレーニングはあまり意味がないと思います。

腰部のstabilityを高めてニュートラルが持続的に保持できるようにすることです。 息をとめて一瞬固めるようなスタティックなstabilityは通常の生活で必要ありません。

動きの中でのstabilityを獲得するには、力まずスッと座位や立位がとれる必要があります。呼吸をするたびに腹圧が抜けていて崩れていてはいけません。 姿勢保持筋は呼吸筋でもあり、作用が似ています。

呼吸を阻害しない程度に腹横筋などが適度な緊張を保って姿勢を保持できることが理想です。

この点についてはエロンゲーションを意識した状態で呼吸の練習をするとよいかと思います。 端座位でエロンゲーションの意識を保ったまま呼気をすると腹横筋の活動がわかりやすいと思います。

ピラティスと疾病予防分野について

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ピラティスは「気づき=内観」を得る、セルフコントロールの概念が特徴的だと思っています。そういった面でも予防分野とも非常に相性が良い。

社会的に予防分野への期待が高まるなか、臨床のリハビリではなかなか自主トレを継続的に行えている患者は少ないのが実情です。ピラティストレーナーとしてのナカタニさんの「予防分野」についての考えをお聞きしたいです。

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患者さんに自主トレを継続してもらうという部分は非常に重要ですが、実際にはほとんどが継続できておらずその指導に苦労している療法士が多いと思います。

自主トレを継続するには患者さんが行動変容を起こして変わる必要があります。 つまり、療法士は患者さんのマインドを変えてゆく必要があるのです。

しかしながら、その前に療法士自身が変わらなければ、上手くいかない気がしています。

それは、療法士自身が「治療してやろう」という意識でいると結局はリハビリの治療時間中に「なにかしなきゃ」と思ってしまい、徒手的治療に時間を多くとってしまう傾向にあると思います。

療法士としても徒手で患者が変化すれば、達成感や治療した感がありますし、患者さんは寝てればよくてやってもらうだけですから楽です。 そこでお互いの関係性が成り立ってしまうと、前に進みません。

すると、しばらくして「また調子悪くなってしまったから先生、マッサージお願いします」となってしまえば患者さんが一向に自立できずに療法士に依存してしまうことになります。

また、自主トレは大事だと思っていても、結局その時間も自分の治療時間に確保できずに終わりがけになってとってつけたように「じゃあこれは自分でやっておいてください」みたいな指導していては患者さんができるわけがありません。

極論をいえば、リハビリの時間は自主トレの確認をすることに重点をおいてできるだけ療法士は触らないようにするべきだと思います。

療法士自身がそうやって変わっていかなければ、患者さんの行動変容を促すことは困難だと思います。

それなのに、「患者さんが自主トレを継続してくれません」と患者さんの責任にしているのは少し違うと思うのです。

自分が患者に要求している自主トレの継続というものががいかに難しいか。 そして、自主トレの継続した結果がどれだけ自分の身体と心を変えてくれるのかという素晴らしさを療法士が実際に体験するべきです。

その経験が療法士のマインドを変え、患者さんのマインドを変えるのだと信じ、今は現場の療法士教育をしてゆこうと考えているところです。 時間はかかるかもしれませんが、少しずつやってゆこうと思っています。

※)ちなみに自主トレについてはこちらの記事にも書いています。(以下リンク、ナカタニさんのブログ記事です。)

 【退院後のリハビリ】自主トレーニングを継続してもらうために必要なこと 

 【本紹介】リハビリテーション・ホームエクササイズ  

hideyuki

なるほど~。患者自身のセルフコントロールを促すためには、従来の患者と治療者の立場・関係性自体を見直す必要がありそうですね。

これからのリハビリにとって非常に重要な概念、疾病予防についてはどのようにお考えですか?

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予防は必要ですが、実現することが非常に難しい領域でもあると思います。

普通に元気に生活している人に、「予防しましょう」は聞き耳もってもらえないことが多いでしょう。

一方で、一度怪我をしたり病気になってしまった人は多少なりとも予防の必要性を理解してくれると思います。 二度と同じような苦しみを味わいたくないという気持ちの人は、危機感があって自分を変える努力ができる可能性があります。

病院では早期退院を急かされるためADLを上げることに精一杯で十分な予防的な指導が受けられません。 そうすると自費でお金を払ってでも、再発予防のための運動療法を教えて欲しいという人もいます。

ピラティススタジオはそのような、「ポストリハビリテーション」としては最適な環境です。

予防分野の課題

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しかし、問題点があります。

  1. そもそもどこのピラティススタジオにいけばいいのかわからない。
  2.  自費でマンツーマンピラティスの指導を受けると1回あたり1万円近く必要。

自分の地域でどこに行けば予防的なリハビリテーションが受けられるかわからない。

そして、自費ではかなりお金がかかる。 これでは患者さんがせっかく意欲があっても、その時点でかなりハードルが上がってしまうのです。

もっと、「必要としている人に再発予防に対する知識や運動療法の方法を届けることができないか?」 ということを考えています。

私のブログで動画を使っているのはそのためです。できるだけわかりやすく、端的に伝えたい、良い動作と良くない動作の違いわかるようにと配慮しています。

  • ネットで予防における情報発信する人。
  • 実際にピラティススタジオなどで指導する人。

どちらも必要な存在です。 頑張っていてもお互いがバラバラな存在ではもったいないです。 これでは 結局上述した2つの問題点は解決されません。

ネットとリアルが手をとりあって、再発予防で困っている人が迷わないように道標になるような仕組みが構築されることが理想ではないかと思っています

少しでも自分のブログがその一助になることを目標として運営をしています。

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私も予防に関して、ナカタニさんと全く同感で、まだまだ根本的なシステムの構築、環境を整えることができていないと思います。

施設に国が投資するとか、費用の一部を負担するとか、費用対効果を考えると国が予防に費用を割くのは決して悪いことではないと思います。今後の整備が望まれるところです。

一方で、いくら「運動しましょう」って促しても健常者が継続して運動できるようにならないことは容易に想像できます。

従来のやり方、現場レベルの改善では予防分野の大きな発展は望みにくいところがあります。

なぜなら、既存の医療体制・システム自体が「発症後の治療」に最適化されて構築されてきたからです。

 

少し発想を変えて、今後は遺伝子検査の普及 や健康に対するインセンティブ制度導入の検討など、根本的・抜本的な改革に期待したいと思っています。

 

今回の対談でピラティスについて、ど素人療法士(私)が思った感想

今回まったく無知の私がナカタニさんとの対談にて、ピラティスについて知ったことは、

  • ピラティスが生まれた背景はリハビリが生まれた背景と酷似している。よって、コンセプトもかなり酷似している。兄弟のような関係性がある。
  • 理学療法はどうしても形やデータを求めるが、ピラティスは形よりも感覚(アート)の部分を重要視する場合もある。
  • ピラティスはセラピーを通して内観(患者自身が自身の体の変化に敏感になる)を促す←これは理学療法でも絶対に必要だがあまり語られることが少ない。

です。

以前の対談でも、理学療法士で整骨院を開業していた坂井さんが、

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整体をやってて思ったことなんですが、健康な体作りを甘く見てる人が多いんです。

整体に来ても、痛みがとりあえず取れればOKで、食事とか日常生活にまで気をつけられる人は少ないです。 整体をやってて絶望したのはそこですね。

で、ブログをやって何をしたいかというと、社会全体の健康に対する意識の底上げです。 健康な体を作るためには食事、そしてそれを吸収する腸内環境が整っていることが、まずは必要です。 それを理解して、実践できる人を増やしたいです。

とおっしゃっていました。

参考)リハ職ブロガー対談「③実積済み、ブログで療法士が本を出版する方法」

 

坂井さんは、栄養や内臓関係、便秘に関しての知識をブログや書籍で啓蒙を行っています。

ナカタニさんが情報発信されているピラティスもセルフコントロール」という大きな概念では非常に共通するものがあります。

ただ、腸などの栄養方面か、内観を通した自身の体と心のコントロール(ピラティス)か、と表現方法が違うだけです。

 

そして、私が色々な療法士ブロガーとお話した限り、この意見に反対する人は皆無です。というより、坂井さんとナカタニさんのように、皆さんそれぞれ表現の形は違えど、目指しているところはほとんど同じで、最終的にはそこ、つまり「世の中の健康に対する意識の向上」を様々な方法で訴えている人ばかりです。

 

この流れを俯瞰して考えると、実際に、世の中の予防分野の期待が高まるなか、私達療法士だけの力だけでは充分ではない、限界の時期に来ている、と捉えることもできそうです。

 

不足する部分を患者さんにも協力して頂き、共に健康維持・増進を図る、という視点が今後必ず必要になってくるでしょう。

もちろん言うまでもなく、当たり前の話ですが、セラピストが努力を放棄し、患者に責任をなすり付けるのではなく「努力の方向性を変えていかなければならない」ということです。

個人の努力だけに頼っていた従来のやり方から、様々な人たちが連携し、環境や立場の違いを活かし合うような関係性を構築する方向に努力していかなければならないのではないでしょうか。

 

今回の対談企画も「連携」をキーワードとしています。

これは何も狭い世界のセラピスト同士だけの話でなく、患者とも「連携」して、社会の健康を作り上げていく必要があり、それが今後社会的に求められてくることかもしれません。

そして、それに気付いている方はナカタニさんのようにブログなどで本気で情報発信している方が多いように思います。

 

そのための一つの具体的な方法として、療法士だけで完結する技術(療法士以外は行えない技術)ではなく、患者と一緒に取り組め、患者が一人でも続けることのできるピラティスは非常に大きな可能性を秘めたリハビリ方法だと思います。

 

私は常々、今後のリハビリの方向性として、療法士による専門性の囲い込みではなく、専門知識の一般化が重要だと思っており、その一つの具体的な解がピラティスにはある、と思いました。

 

正直、ピラティスの”アート”の部分は、ピラティスを体験していない、無知な療法士が簡単に、すぐに現在の臨床に適応させるには、やや具体性に欠けており、難しいように思います。

しかし、これはあくまで病院や施設で療法士が一方的に患者に治療を施すという形式の従来のリハビリの方法で見た場合の見解であり、「”治療”を患者と一緒に創り上げていく」という視点で見ると、まさしくそれは”アート”であり、これほど素晴らしい、上手くマッチしたリハビリ方法は現在他にないと言っても良いと思います。

そして、実際にそういったことが、これから強く求められてくるようになるのは、ほぼ間違いないでしょう。

アンテナを広く持つと、日本の経済状況しかり、みなさんも周囲のあらゆるものがその方向に向かっていることを感じるはずです。

 

皮肉な話かもしれませんが、専門職が「より良い、本当に患者のためになる治療」を目指すため、従来の治療者と患者という関係性・図式すらも放棄した時(専門職としての旧来の無用なプライドを放棄した時、と言い換えることもできるかもしれません)、ベクトルは同じ方向を向き、初めてより一段高い「本当の根源的な治療」の形が見えてくるような気がしてなりません。

 

今回ご紹介したピラティスの内容に関して、その可能性のごく一部でしかありません。

ナカタニさんのピラティスの話の中には、

  • 呼吸関係のリハビリについて
  • 精神面のコントール

などの専門的な話も出てきていましたが、記事のボリュームの関係で全てを掘り下げてお聞きすることはできていません。

是非詳しく知りたい方は、ナカタニさんのブログ「理学療法士によるRPP」を読んでみてくださいね。

また、ポストリハビリや予防のための運動療法を指導しているピラティススタジオがありましたら、ナカタニさんのブログまで是非お気軽にご連絡下さいとのことです。ブログ内でご紹介して下さるそうです。是非ご検討下さい。

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