リハビリでのQOL向上のために大切な「ICFの参加」ってどうやって評価するの?

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リハビリの最終的な目標は、可能な限り、患者さんのQOL(Qolity Of Life=人生の質)を高めることにあります。
人生の質は、心身機能や身体構造、活動レベルのみで決まるものではありません。
社会的存在である人として、どのように社会参加しているのかが重要です。



問題点の抽出に使われる「ICF(国際生活機能分類)」

患者さんをリハビリしていく時に、問題点の抽出を行います。

問題点抽出の方法として、ICIDHとICF(国際生活機能分類)があります。

ICF
ICF(国際生活機能分類)

最近では、障害よりも、その人の活動や参加(社会的な活動)に焦点を当てた、ICFが臨床でよく使われます。

 

その中で、「参加」の部分は特に非常に重要なのですが、意外と語られることは少ないように思います。

心身機能や身体構造の面の問題点を多く抽出できるセラピストも、こと「参加」に関しては、少し他と毛色の違った知識を必要とするため、追究して言及できる方は少ない印象があります。

 

今回はICFでの「参加」をリハビリでどう考えていくか?というテーマで記事を書いていきます。

参加制約の評価の重要性

例えば、片麻痺の程度(機能障害)と要介護度(活動制限)が同じでも、ベット上で上だけを眺めている生活と、たとえ車椅子であっても、散歩に出たり、友人に会ったりして生活を楽しんでいる患者さんとでは、どちらのQOLが高いのかは明らかですよね。
 
社会的存在である人間の、社会参加レベルの不自由を参加制約といいます。
参加制約の評価は、本人が障害を抱えながらも、新しい人生を生きていくことを援助するリハビリにおいて極めて重要な役割を持っています。
 
機能的な回復・向上ももちろん重要ですが、それと同等かそれ以上に、その先にある「患者さんのQOL」を考えることはリハビリ職としての社会的責任としても重要な部分です。
 

具体的にはどのような支援を行っていけば良いのでしょうか。

参加制約の評価はチームで行う

参加制約とそれに影響する因子の評価は、医療ソーシャルワーカー(MSW)の業務と考えられがちですか、
  • 医師
  • 看護師
  • PT ・OT
など患者に関わる全てのメンバーが、本人、家族、その他の面会者と接したときの情報や家庭訪問、職場訪問で評価した情報を統合することが重要です。
 
参加制約とそれに影響する因子の評価には、カンファレンスの場などですべてのメンバーが集めた情報を出し合い、患者の退院後の生活のイメージをチームとしてまとめることが大切です。
 

ICFの参加制約とそれに影響する因子の評価

参加制約に関する評価項目としては、
  • 社会参加を評価する社会参加そのもの
  • 社会参加に影響する背景因子(環境因子と個人因子)
を評価する必要があります。
 
 
参加制約とそれに影響する背景因子の列挙
Ⅰ.参加制約の評価
①生活の広がり
②社会参加、社会的役割等
 
Ⅱ.環境因子
①家族・介護者
②家屋環境・家屋評価
③生活環境、交通移動手段
④地域の社会資源の状態
⑤復職の条件
 
Ⅲ.個人因子
①経済状況
②本人の生きがい・生活歴・信条など
 
以下にそれぞれの因子について説明していきます。

ICF「参加」制約の評価

以下にICFで参加の項目を検討する時に考慮してくべきことを記載します。

生活の広がりの程度

患者さんの退院後の生活圏は狭い方から、
  1. ベッドの上
  2. 部屋の中
  3. 家屋内
  4. 庭先
  5. 自宅の近隣
  6. 車で移動するような広域圏
などかなりの幅があります。
日常生活動作が全介助レベルの患者さんであっても、車椅子に長時間座っていられるようになり、後述する環境因子、個人因子の問題を解決できれば、生活圏を広げる事は可能です。

社会参加、社会的役割

たとえ、一生懸命リハビリをして、介助を受けることでなんとか移動が可能になっても、目的や行き先がなければ、いずれ閉じこもりがちになるのは目に見えています。

 

デイケアやデイサービス、地域での集まりなど、要介護レベルとなっても参加可能な場所は最近増えてきています。

患者が家庭や社会で果たしうる役割についても評価しておく必要があります。

自己実現、自己表現など

社会への参加は、他の人々と面と向かい合った場面だけで行われるものではありません。
俳句や短歌、絵画や旅行など、最近ではインターネットなどいろいろな形の自己実現や自己表現の方法があります。
 
病前にしていたことや発症後諦めてしまったことなどを聞き出し、評価し、再開の可能性を追求していくべきとQOLも向上を検討することができます。

環境因子について

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個別性の強い、環境因子についても深く評価しておくことで、リハビリの結果の質は飛躍的に向上します。

家族・介護者

リハビリテーションでは家族の果たす役割は大変大きいです。特に私が普段行っている訪問リハビリではそれを痛感します。

 
基本的には、家族には「患者さんにとっての3つの重要な役割」があります。
①介護者としての役割
療養、訓練、生活に対する具体的な援助(健康管理、投薬、維持でき訓練、身の回りの世話)を行います。
 
②心理・情緒的支持者としての役割
本人の気持ちを理解し受け止める役割があります。リハビリテーションの可能性を信じ、能動的な援助姿勢を取ります。
 
③方針を選択・判断する役割
本人の自己決定意見を尊重しつつ、障害の予後予測を受け止め、合理的な方針の選択判断をします。
 
 
 
家族の評価は、家族構成を聞き出し、キーパーソン、主介護者の見当をつけるところから始まります。
家族関係は、もしこのまま要介護状態にとどまった場合、誰が介護に協力できますかと質問したときの反応で見えてくることがあります。
 
他の重要な家族問題(子供の受験、出産、育児、失業、倒産、単身赴任)の有無も確かめると良いです。
 
その他、面会や訓練見学の有無、その時の患者さんへの対応、病状説明時の対応などを通じて家族さんの関係性を評価していきます。
もちろん、視野が狭く、断定的かつ個人的な評価にならない様に、チーム内で相談しながら評価して下さい。

介護者としての役割

特に主介護者の介護力の評価が大切です。必要な介助量が多いほど詳しく評価が必要な場合が多いです。
 
その他にも、介助に協力できる補助的な介護者についてもどのような協力が得られるのか具体的に明らかにしていきます。
家族指導は主介護だけでなく、補助的介護者の両方に行うのがベストです。

心理・情緒的支持者としての役割

家族は本人に対する生活や情緒面で最大の援助者です。これは他人である私達が逆立ちしたって適いません。
 
しかし、実際には、長年家族の中で患者が果たしてきた役割によっては、協力を得られないことも少なくありません。
これまで本人が家族内で果たしてきた役割を考慮しながら、今後家族の誰がどのような役割を果たすそうか評価し協力を促していきます。

方針を選択判断する役割

家族は、障害を持つ患者と共に生きる者として、新たな生活に適応する必要があります。
その意味では、家族も、患者本人と並んで同列の援助対象者であると言えるのではないでしょうか。
 
本人の判断能力が乏しい場合に、予測される能力障害のゴールの説明を受け、選択肢の中から選択判断するのがキーパーソンです。

家屋環境・家屋評価

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家族から以下の様な家屋の概要を聴取します。

家屋の概要で確認しておくべきこと
  • 一戸建てか
  • 集合住宅なら何階かエレベーターの有無
  • エレベーターまでの段差の有無
  • 賃貸か、持ち家か(改造の可否に関係します。)
  • 食事をする部屋は洋室か和室か
  • ベッドか布団か
  • 床からの起立の必要性
  • 寝室・居室は1階か2階か
  • トイレは和式から洋式か
  • 風呂の構造はどうなっているか
  • 道路から建物の入り口までの段差の有無
必要に応じて見取り図を持参してもらい、必要ならば実際に自宅を訪問し家屋調査を行います。

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生活環境・交通移動手段

本人の自宅周辺の環境や外出手段を評価します。

本人を自宅に閉じこもりがちにさせないためには生活空間や生活圏を地域に広げる必要があります。

家庭復帰より1段高い地域復帰の可能性を探ります。

退院後も医療的・維持的訓練を受けることも必要です。デイケアやデイサービス、、訪問リハビリの必要を検討します。

活動制限の予測ゴールをもとに、自宅の外で利用できる交通機関を評価することが必要です。
自宅周辺の環境で確認しておくべきこと
  • 自宅周辺の道の状態
  • 散歩、屋外歩行練習をする場所はあるか
  • 外出する時の交通手段
  • 公共施設へのアクセス方法
  • 交通機関は何を利用するか
  • 外出時の介護は誰がするか
  • 費用はどれくらい必要か
  • 身体的に外出の負荷に耐えられるか

地域の社会資源の状態

訓練、生活の場となる地域の社会資源の状態について調べておきます。
利用できる社会資源は、自治体、地域によっても異なります。また年々変わっています。
自治体ごとに利用できる福祉制度についての小冊子が市役所などに置いてあることが多いですし、電話で問い合わせてみても良いと思います。
 
広報誌等も取り寄せて保管しておくと良いかもしれません。
最も一般的な方法としては、福祉事務所や在宅介護支援センター、ケアマネージャーから情報を入手する方法もあります。
 
また居住地の保健師、福祉事務所のケアマネジャーなど他の機関、施設の職員とカンファレンスを行うことで今までにない関係性を築けることもあります。
 
地域で活動するボランティア団体やNPOも増えています。
 
現場の評価にとどまらず、これからのリハビリでは、地域に眠る社会資源を掘り起こす視点が必須となるのではないでしょうか。
地域の社会資源の一例
 
  • 通院往診可能な医療機関
  • 維持的訓練場所(デイケア、デイサービス、福祉サンターなど)
  • ショートステイなどの入所可能施設
  • 在宅でのホームヘルパー、保健師、訪問看護、ボランティアの有無
  • 訪問、デイサービスでの入浴サービス
  • 居宅介護支援センター
  • 自治体の家屋改造費助成制度の有無と程度・要件

復職の条件

復職の可否は本人の健康状態や活動制限の程度のみで決まることではありません。
受け入れる側の職場の態度、余裕など環境因子により決まることも多いです。
 
職場復帰を焦る患者さんは、どうしても目線が職場に向いてしまいがちですが、まずは、家庭に復帰することを重点的に捉えて貰うようにお話しましょう。
 
家庭生活の延長として職場復帰があります。
 
実際、健常者でも仕事をすることで身体に大変な負担があります。障害がある方は更に職場で仕事をすることのハードルは高くなっています。
 
 
私も職場復帰を希望する患者さんを担当し、患者さんの会社と連絡を取っていたことがありますが、できることなら、MSWなどの専門家に話し合いを進めて貰うのが望ましいでしょう。
 
予後を安易に話してしまうことは避け(私達は予後予測の専門家ではありません。)、リハビリでの回復の程度を伝えるのみにしましょう。
 
それまでにその職場で障害がある方が復職した例や、本人の業務内容について聴取して下さい。
 
復職後のフォローも視野に入れた関わりが非常に重要です。
職場復帰のために確認しておくべきこと
  • 病前の仕事を遂行する能力
  • 配置転換、フレックスタイムなど企業側の配慮の可能性
  • 通勤手段、雨天の通勤
  • 職場の改造は可能か(手すり、段差解消、車椅子使用可能な環境か)
  • 仕事が本人の身体に与える影響

 個人因子について

個別性が強く、個人因子に関しての評価は個人情報やプライバシーの問題を多く含んでいます。

それらの取り扱いを熟慮した上で、患者さんと信頼関係を築き、気長にできる範囲で情報を収集する姿勢が必要です。

 

また、どうしても聞きにくい場合には、チームに相談してみると良い情報を持っている場合があります。

 経済条件

金銭的に不安があると、安心してリハビリに臨むこともできません。
 
なかなか介入するのは難しいところですが、必要であれば、MSWさんなどを通して、経済的な状況や保険の状態などを把握しておくと参考になります。
 
もちろん、プライバシーに深く関わることなので、本人に直接聞く場合は、相応の配慮が必要なのは言うまでもありません。
経済状態で確認しておくべきこと
  • 加入している年金の種類
  • 生命保険の障害特約・住宅ローンの有無
  • 有給休暇の日数
  • 加入していた健康保険に、傷病手当金はあるか

本人の生きがい

今までどんな生活を送り、何を大切にしてきたのか、本人の生きがいを聴取します。目標を設定する上で必須の情報です。

本人の生きがいの評価は、患者さんの人生の評価という側面もあるため、本人の人格や価値観を尊重し、節度を持って行います。

 

医療従事者特有の価値観の押しつけや、パターン化(信じている宗教に関する反応など)は当然排除して望まなくてはなりません。

 

疾患を発病し、障害を負ってしまうことは大変なショックです。

タイミングによっては、生きがいを聞き出すことは大変難しいでしょう。

 

しかし、普段から頻繁にコミュニケーションを取っておけば、何についてよく話をされるかなどの情報である程度の興味や関心、価値観を推測することはできるはずです。

 

また、患者さんが本当の新たな生きがいを見つけることができるのは、数か月から数年経ってから、というケースも珍しくありません。

待つことも重要なことです。

 まとめ

リハビリにおける機能障害・身体構造の評価は、今回ご紹介した、社会参加の評価と比べると割と短時間でできるものが多いです。

 

自身の経験では、実習生の症例発表を聞いていると、ICFの「参加」の部分が評価できていない場合が多いように思います。

限られた期間で、患者さんと信頼関係を築き、これらの個人情報を直接聴取するのはいかに難しいかという良い参考になります。

 

そういった場合はチームに頼るのが一番効率よく情報収集ができるでしょう。

 

実習生の方は、今回の記事を参考に、チームに積極的に質問してみて下さい。症例発表の質が大きく変わると思いますよ。

 

臨床で私達は、普段から信頼関係を築き、長い目で見て少しづつ患者さんの個別的な問題を解決できるようにしていきたいものです。

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