
私は、以前後輩から「もう、理学療法士辞めようと思います」と相談されたことがあります。
なぜ、そのように後輩が思ったのか、よくよく聴いてみると、”良い療法士とは何か”考えるきっかけとなる話だったので記事にしてみます。
療法士辞めようかな・・と悩んでいる方や、良い療法士とは何かといつも悩んでいる方は是非一読下さい。
「ちょっと相談があるんです。」
と呼び出されて、病院の中の、だれもいない会議室に移動しました。病院勤務時代、私はチームリーダーという名ばかりのリーダーをやっていました。
後輩は臨床4年目の20歳代後半、男性で、私のチームの子です。チームの中での臨床経験は中堅に当たる療法士です。
僕は「ダメな療法士」です。
後輩は、ゆっくり深呼吸すると、相談内容を打ち明け始めました。
「将来も不安だし、給料が安い。それに体力的にもしんどいです。」
私はまず、よく相談してくれた!と思いました。
だいたい本気ですぐに辞めていく子は、こんな形で真剣に相談して来ないことが多いです。
この時点で私は、悩みを聞いて欲しい、辞めるのはまだこの子の中で決定事項ではなく、私の意見を聞きたいのかな、とおおよその見当を付けていました。
「分かるわ〜。俺も100%同感やわ。激しく同意。」
と言いました。
そんなこと、どの業界でもまともな労働者はみんな思ってますよ、きっと。
そんな理由で辞めると言うのでしょうか。
そんな理由で辞めてしまうなら、他のどの業界に行ってもおそらく長くは続かないでしょう。
残念ながら、仕事ってそんなもんですから。
「それだけ?」私は後輩に続きを促します。
後輩はまた話始めました。
「まあ、それは3年くらい働いたらみんな少しは思うことかも知れませんが、僕は、たまに患者さんに腹が立ってしまうことがあるんです。認知症の方とか。」
「何で言うこと聞いてくれないんだ!、なぜちゃんとやってくれないんだ!って腹が立ってしまうことがあって、もう療法士を辞めた方が良いのかな?自分は向いてないのかな?と思ってしまうんです。」
「そんなPTは患者さんにとって良くないし、僕はダメな療法士だと思います。」
半泣きになりながら、その後輩はそう言いました。
さらに続きます。
「自分は勉強会にもあまり行けてないし、みんなのように自信がないんです。
いくら自分で勉強しても、これで良いのか?他の療法士ならもっと患者さんを良くできるのではないか?
ちゃんとリハビリが出来ているのか?僕のせいでこの患者さんはちゃんと回復できていないのではないか?
そんなことばかり考えてしまって、辛くてしょうがないです。」
あなたは患者さんに腹が立ってしまったことがありますか?
言い合いをしたことは?
あるとしたら、それは何故ですか?
あなたが未熟だから?
あなたがリハビリに携わる療法士に向いていないから?
「精神的にも辛いし、患者さんにも申し訳ないので、もう辞めようかなと思っているんです。」
そう、後輩は言いました。
それなら、「私もダメな療法士」です。
少し考えてから、私は後輩にこう言いました。
「それなら俺もダメな療法士です。
俺もいくら勉強しても充実感ないし、そもそも家庭持ち一馬力療法士は高い勉強会なんか行きたくても行けないし・・。
こんなリハビリで良いのかなって毎日悩んでいるし、自分がリハビリをしていることも、患者さんを担当させてもらうことも本当に良いのかといつも思ってるよ。」
「普通の療法士はあまり口にはしないけど、みんな同じ事思っていると思うよ。
経験を重ねれば重ねる程、”リハビリって一体何なんだろう?”って思いながら仕事しているよ。いくら考えても答えは出ないし、たぶん、終わりが無くてずっと悩んでいるんじゃないかな。」
私は続けました。
「患者さんにはなんて言われるの?そんな○○くんのリハビリは。」
後輩は言います。
「ありがとう、って言ってくれています。
それが余計に自分には辛いんです。全然僕は何にもできていないのにって・・・。」
実際、私もよくその子のリハビリを遠目に見ていましたが、決して手を抜いている訳ではなく、チームの中でも熱意を持ってリハビリに取り組んでいる子だという印象を持っていました。
ただ、確かに他の子に比べて少し内気な感じの子だったので「自信がないのかな?」とは思っていました。そこまで悩んでいたんですね。
私も患者さんと激しく言い合いをしたことが何度もあります。
決して自分の主張を通したいからではなく、明らかにこうした方が患者さんのためになると思ってした提案を、「めんどくさい」とか「やりたくない」と言う理由で断れると「なんで!」って思いますよね。
めんどくさいと言って避けて通ると、後で余計にめんどくさいことになるこがと分かっていることや、やりたくないと言って今やらないと後で患者さんが絶対に後悔すると分かっていること、などは、私はしつこく患者さんに何度も提案しますし、少し強引に話を進めてしまうこともあります。
私は後輩に言いました。
「すごく良い療法士だと思うけど・・○○君は。もっと自信持った方がいいんじゃない?」
後輩は少し驚いていました。
私は続けます。
「本当にこの仕事に向いていない人は、きっとあまり何にも思っていないよ。
悩むことも少ないだろうし、患者さんに腹が立つこともない。
”仕事最近どお??”って聞いたら、きっと、”めっちゃ楽しいです!”って全力で答えると思うよ。」
「○○くんの考え方だと、ほとんどの療法士はダメな療法士になってしまうと思う。」
”何か違う療法士”にはならないで欲しい
私が見てきた”何か違う”療法士は、患者さんに真剣に向き合っていないから、患者さんに対して腹が立つこともないようです。
何をしても「俺のリハビリ、スゲー!」って自信満々で思っています。
患者さんの体と心の変化を追うよりも、自身の治療効果にばかり注目しています。痛みを完全に取れるとか、神様みたいなことを平気で自信満々に言います。
いつも、「俺スゲー!」って思えることを探してリハビリをしています。自身のスキルを上げて、俺スゲー!ってより思えるように、勉強会にも熱心に参加します。
患者さんのことではなく、自身の「俺スゲー」がけなされたり、批判されると腹を立てます。
私が考える、何か違う療法士は、全てが「自分目線」です。
自分の将来や名声、療法士としての技術と知識、果てはリハビリ業界のことばかりを考えていて、患者さんをまるで実験台の様に捉えている人が稀にいます。
技術向上を目指すのは悪くありませんが、患者さんあっての技術向上です。患者さんよりも自分が大切という想いが強いと、本当に良いリハビリはできないのではないか?と思わざるを得ません。
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ひとりよがりの発想になりがちなリハビリ業界
最近では、訪問リハビリの他事業所で、先行きが不安なリハビリ業界を懸念してか、訪問する患者さん全員分のFIMの推移を調査して、自身の業界の効果を政府に訴えるためのデータを取ろうという話があったと聞きました。
患者さんのリハビリの時間を使って、自身の業界のためにだけなることをするのです。患者さんには何にも利益がないどころか、リハビリの時間が患者さんにとっては無駄に消費されてしまいます。
普通の常識がある他分野の企業であれば、そんなことをお客さんにお願いしたりしないでしょう。前もって了承を得た一部の人にちゃんと報酬をお支払いして、データを取らせてもらうと思います。
この例では、リハビリの時間にFIMを採点するのですから、逆にお客さんである患者さんがお金を支払うことになります。
そんなおかしなこと通る訳がありませんよね。もしそれでデータを取って、FIMが大して上がっていないことも十分に考えられますが、その時はどうするのでしょうか。
完全に無駄です。
また、政府が事業所の身内が取ってきたデータを見て、「じゃ、リハビリって効果あるね!」なんて言うわけないですよね。
だいたい、新入職員もベテラン職員も、みんな同じ水準でFIMを取れる訳がないです。その時点でデータの信憑性がありません。
もし本当にやるなら、第三者の人や機関を雇い、お金を使ってFIMの研修を行い、ちゃんと被験者に報酬を払って、リハビリ提供時間以外にやらなければスジが通らないし、意味がないと思います。
それでも診療報酬がその結果の影響を受ける、なんてことはありえないと思いますけどね。時代の流れですし、日本の経済状況をみれば明らかなことです。
本気で言っているのが馬鹿らしいと思います。冗談でもつまらないですし。
”順序が逆でないか”考えること
結構こういったことが医療・リハビリ分野ではよくあります。
特に、「将来のリハビリ業界のため」という口実の元に行われることが多いです。
「先生、先生」と患者さんに言われていると感覚がマヒしてくるのでしょうか?
将来のリハビリ業界のためって、結局自身の職種・職業の安定、ひいては自身の給料のこと、結局はお金が欲しいと言っているだけのことではないでしょうか。
私にはそう思えてなりません。
将来のリハビリ業界のためにではなく、まず目の前の患者さんのためにできることを精一杯する。それが結果として、リハビリ業界のためになっていくのです。
順序が逆です。
世の中で必要なものしか発展しない
将来、リハビリ業界が衰退すると何が困るのでしょうか?そこをまず突き詰めて考えた上で行動を起こすべきではないでしょうか。
診療報酬が下がったら、日本国民はより安価にリハビリを受けられるようになります。何が困るのでしょうか?社会的に良いことではないのでしょうか。
そういった視点も持てなければならないと思います。
少し具体的な例を出します。
私の祖父は金物屋をしていましたが、今時、金物屋なんて街中にないですよね。でも、あなたは「金物屋が無くて困った!」という経験をしたことがありますか?恐らくないはずです。
時代の流れで必要がなくなったものは自然に消えていきます。それは社会的に”役目が終った”ということです。
時代に逆行する願いは絶対に叶いません。
例えば、今日本の自動車業界は、CMで「走りを極めた」などと走行性能の高さを謳った商品の宣伝をしています。しかし、実際に今「走りを極めた」車に乗りたい!と思う人なんてごく少数ですよね。
大手日本の自動車メーカーは、売れ行きが低迷してくると、ことあるごとに「昔の感覚(スポーツカーが流行った時代)をみなさんに思い出してもらう必要がある。」とよく言います。
私はこのメーカーの主張を、すごく自分本位に感じるのですが、みなさんはいかが思われますか?
あなたは、そんなスピードの早い車に乗りたいと思いますか?
私は、スピードの早い車よりも、本体価格が安くて、燃費が良くて、室内が広くてゆっくりとできる車が欲しいです。
あと家族を乗せるので、安全性能も追求して欲しいです。さらに言うと、できれば無課税車が発売されることを願っています。笑
スポーツカーなんて「こんな狭い渋滞だらけの日本で、どこでそんな速度出すの?ちゃんと考えた?危ないだけやん・・。」としか思いません。
実際に速度超過と事故の危険性が関係があることが立証されているから、警察官は貴重な税金と勤務時間を長時間使い、道路脇で「ぼぉー」と立って取り締まりを行い、法定速度というものが法律で定められているわけです。
それを「速度が出る車に乗って欲しい!」って・・・。
「お客さんの安全を第一に考えられていますか??企業に利益を上げさせるためにお客さんが存在すると思っていませんか?」と私は問いたくなってしまいます。
「安全で快適な自動車を作る」それが社会的責任として自動車メーカーには一番に求められているはずですが。
これも自分本位の考えが先行した良い例だと思います。まず世の中に認められることはないでしょう。
今、時代の波として、明らかに自動運転にみんなの目が向いているのに、日本の自動車メーカーはそんなふうに時代に逆行することばかりを祈って、叶いもしない夢ばかり見ています。最近ようやく目が覚めたようですが。
「周りの人が言っているからそうなんだ」ではなく、「本当にそうなの??」と自分の頭で考える視点は療法士にとってすごく大切で、臨床だけでなく、普段の生活でも持っておくと良い視点だと思っています。というか必須の視点です。
なのに、臨床から一歩外に出ると、そういった視点が少しも持てていない療法士が多いように感じてしまいます。
世の中、リハビリや臨床が全てではありません。
あくまで社会全体の中の一つのごく小さな一部分を構成するのがリハビリであり、臨床です。その中での業界としての立ち位置や、役目を主張するなら、社会全体を見据えた視点でないと、とても話にならないでしょう。
リハビリ職は、元は社会的に何を求められて生まれた職業でしょうか?
なぜリハビリが必要だったのでしょうか?
それを踏まえたうえで、時代の変化と共に、どういった役目をリハビリは果たしていくべきでしょうか?
今、社会はリハビリに何を求めているのでしょうか?そこに答えがあると私は思っています。
理学療法士を辞めたいと思うことは結構普通なこと
少しまた余談が過ぎてしまいました。
結論としては、
- 自身のリハビリや仕事の仕方について悩むことは療法士として普通で当たり前のこと。むしろ悩まない人の方がちょっとおかしい。
ということです。
なので、悩んでいる療法士のみなさんはそれでよいのだと自信を持って是非この仕事を続けて欲しいと思っています。
そんな療法士は、必ず患者さんに感謝される立派なセラピストに成長すると思います。
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本当に仕事を辞めたいと悩んでいる人は環境を変えてみるのもアリ
そうはいっても、もう理学療法士辞めようかな・・と真剣に悩んでいる人も多いと思います。給料安いし、将来性もいまいち、強烈な縦社会で先輩の言うことが絶対だったりする業界です。
昭和初期から変わってないんじゃないか?というような一方的な価値観・常識を押し付けてくる人もたくさんいます。笑
どこの業界でもそうかもしれませんが、一生懸命なのが裏目に出るのか、頭の固い、やや柔軟性に欠ける人は多いように思います。(もちろん自分への自戒も込めて)
私は資格を取りたての頃に、初めて就職した病院でこれでもかと言うくらいいじめ抜かれました笑。
参考)その時の話職場でいじめられていた、極貧で無能な理学療法士の話
当時は本当に、こんな仕事もう辞めてやろうかと毎日のように思っていましたが、持ち前のタフさと鈍感力をフルに発揮し、何とか続けることができました。その後、訪問看護ステーションに転職し、今ではほとんど不満のない幸せな療法士生活を送っています。もちろん思惑通り、給料も各段に上がりました。
わずか2年弱の間に、転職+ブログ収入で病院勤務時代の2.5倍くらいの給料を貰えるようになりました。
この仕事はお金じゃないと言う人もいるけれど、給料は良いほうが良いに決まっています。これは疑う余地もありません。だって、本気でお金じゃないと思っている人は給料を全額返金しているはずですものね。そんな人いないですから。
過去の私のように、職場の環境や人間関係、給料で悩んでいて、理学療法士辞めようかなと思っている人は、ぜひ環境(職場)を思い切って変えてみることをお勧めします。辞めてしまうくらいなら絶対その方が良いです。
今では理学療法士専門の転職サイトも充実しています。今の内にとりあえず登録しておいて、時期が来たら転職を本気で検討しましょう。
ランキング形式にしていますが、複数登録して情報をたくさん集めた方がより有利です。サイトによっては転職が決まった時にお祝い金が貰えたりするので登録しておかないと損です。
嫌な上司や先輩を変えることなどできません。できると思っているのなら、それは少し無謀だと私は思います。それよりも、こちらがさっさと変わった方が人生の貴重な時間を無駄に浪費せずに済みます。
自分に合った職場なら、自分の力をより伸び伸びと発揮でき、それだけで2,3倍は良い仕事ができます。これは私が転職してみて本当に心から思ったことです。
何か心の片隅にどんよりとしたものを抱えたまま仕事をこなしていても、最大限のパフォーマンスなんて発揮できる訳がありません。そして、それが自己嫌悪に繋がっていく。こうなるともう悪循環ですね。
負の連鎖を断ち切るには、環境を変えてしまうのが一番手っ取り早いです。
私は頭をこねくり回して、考えに考えて転職先を選び、結果、大成功でした。
その経験を元に、転職先を探す際の要領について、
この2つの記事に全力で書きました。斜め読みでもしてもらえれば何となく要領が掴めると思います。
色々な後輩の話を聞いていると、理学療法士やリハビリの仕事が嫌なのではなく、実は環境・職場に合っていないだけの場合がすごく多いように思います。簡単にはあきらめないで、せっかく苦労して資格を取ったのだから、ぜひ、自分を活かせる職場を根気よく探してほしいと思っています。
理学療法士を本当に辞めてしまうのは、それからでも遅くないのではないでしょうか。