新卒理学療法士がいきなり訪問リハビリに就職するのは、リスク管理ができないから辞めた方が良い?


理学療法士になって初めての就職先って迷いますよね。いくら人から話を聞いたり自分で調べても、実際の感じは働かないとわかりません。

そこで、今回は新卒で初めての就職先を訪問リハビリにするのは賢明でないのか?を実際に回復期病院と訪問リハビリで働いた経験のある私が考えてみます。




初めての就職先として訪問リハビリは人気がある

学校で専門的な勉強を終えて、無事国家資格に合格すると、初めての就職先を選びますよね。

 

この間、卒業間近の実習生を担当したのですが、

「本当は訪問リハビリに就職したいですが、リスク管理ができないと危な過ぎるって聞いたので、まずは3年くらい回復期の病院で勉強しようかと思っています。」

 

と言っていました。

なんか私としては、「本当はやりたいことがあるけど、第2希望を選ぶのが賢いとみんなが言っているからそうします。」みたいに聞こえてしまい、少し残念な気持ちになりました。

 

恐らく、あの学生さんは、訪問リハビリがこれから社会的に重要な位置に成長していくだろうことを肌で感じ取っていて、でも、自分はそこにはふさわしくないと思っているのではないか?と考えると、なんだかもったいない気がします。

 

そんなことは全然ないし、若い人の力がリハビリだけでなくどの分野でももっともっと必要です。

 

その時、

「若いんだから、どんどんやりたいことやらないと!やりたいことに全力で体当たりして下さい!!」

と言いたいのをぐっと堪えました。

なぜなら、自分は感覚的にそう思っただけで、情けないことに、根拠も的確なアドバイスも、すぐには思い付かなかったからです。

 

 

そういえば、私が学生の頃もそのように「新卒は回復期が一番勉強に適している。訪問リハビリは敷居が高い。」みたいに漠然と思っていたことを思い出しました。

 

学生たちは少ない、実際よりも本当にごく一部の情報のみで就職先を選ばなければなりません。

 

実際の現場のイメージを実習でしか持てない学生は、「訪問リハはリスク管理ができないと危ないからあまりおすすめしない」

と誰かに言われたら、その情報が全てだと思い込んでしまうのも無理はありません。

 

 

しかし、本当にそうなのでしょうか?

ちょっと考えてみましょう。

訪問リハビリが初めての就職先として適していないと言われている理由

まず、なぜ漠然と、訪問リハビリは新卒には敷居が高い、と思われているのでしょうか。

 

「新卒療法士ではリスク管理が充分に行えない可能性がある」ということでしょう。

 

では、なぜそう思われているのか。

以下にその要因と思われるものを挙げます。

  1. 病院や施設より医療機器が充実していない。
  2. 独居、他にサービスの入っていない患者さんのお宅に訪問することも多く、自分(療法士)以外の目が届きにくい。
  3. 特に自覚症状がない患者さんの場合、重篤な疾患で危険なサインが出ているのに見逃して運動やリハビリをしてしまうことになりかねない。

ということでしょうか。

本当に新卒で訪問リハビリをやりたいなら、これらの要因を潰せないものなかのどうか、本気で考えましょう。

訪問リハビリのリスク管理は本当に新卒にできないのか?

1の機器の問題に関しては、確かに心電図もないし、レントゲン、MRIなどの高度・高価な医療機器は訪問リハでお目にかかることはありません。

しかし、

  • 血圧計
  • 体温計
  • パルスオキシメーター(SPO2を測定する機器)

などの基本的な機器は訪問リハビリに従事する療法士は常備しています。

だいたいそれで充分に基本的なリスク管理はできます。

 

2の周りの目が少なく、患者さんの異変に気付きにくいという点は確かにあります。

病院では療法士以外にも、同室の患者さんや、看護師、施設でも介護士が常に患者さんの状態を把握しています。

また、自分以外の目があることで安心してリハビリ出来ますし、急変時にはすぐに誰かが駆けつけてくれる環境ではあります。

 

3の自覚症状がない患者さんに対しては、病理学を勉強し、ある程度急変リスクが高い疾病を理解しておくことと、フィジカルサインをしっかり勉強しておくことである程度は防げると思います。

そもそも、臨床経験が例え5年あっても、心疾患の患者さんを5人しか見たことがない、というのであれば、それほど大きく新卒と心疾患の患者さんに対するリスク管理の経験値は変わりません。

もちろん、プログラム立案、目標・予後設定、リハビリ内容などは桁違いに効率的で的確だと思いますが。

 

 

「新卒はリスク管理が充分にできない」と言われる理由を細かく考えてみると、確かにそういう面もありますが、絶対にできないわけではないと思います。

 

確かに、リスク管理って、バイタルを図ったりする以外にも、「なんかいつもと違う?」という感覚に近いものが大切だったりします。

実際、その人の予後とか、体調の違和感に敏感に反応できるのは、たくさん人を診てきている経験を積んだ療法士でしょう。

 

しかし、絶対にできないか?と問われれば、工夫次第で絶対にできる!と私は思います。

リスク管理が不安なら、どうすれば良いのか考える

自分の力や経験が及ばない場合、いつだって人は人に協力してもらって自分のやりたいことを成し遂げてきました。

みなさんもそうでしょうし、私もそうです。

 

自分にできないことは人に助けを乞いましょう。これは何も新卒理学療法士だけでなく、私の様な中堅療法士も同じですよね。

 

訪問リハビリ業界だってこれから大きく発展していくためには若い人の力が必要です。

お互い協力していきましょう。

 

若い人や新卒をお荷物だと思っている就職先はその程度のところで、現状しか見えていないのです。

新卒にしっかり教えることで、事業所の質も上がるし、患者さんへのサービスも良くなります。

決して悪いことだけでなかく、むしろ、教える側もメリットがたくさんあることを新卒のみなさんは知っておいて下さい。

 

だいたい、回復期病院に入職したって、最近では訪問リハビリステーションを併設していてる病院だって多いです。

回復期に入職した途端、配属は訪問リハビリ、ってことだってあり得ますよね。

それなら初めから自分がやりたいフィールドで華々しいスタートを切りましょう。

 

人の力を借りて創意工夫すれば、これ位の問題はなんとかできるのではないのでしょうか。

 

例えば、急変リスクが高い疾患の患者さんであれば、始めの内に先輩に同行訪問をお願いし、フィジカルサインや急変時の対応方法などをしっかりと確認しておくことで、リスク管理の脆弱さはある程度防げます。

 

歩行時は、機能的評価をしてその患者さんが倒れやすいと思われる側に付きましょう。

それが分からなければ先輩に同行訪問して貰ってどちら側に付けば、あるいはどのようにすれば「転倒に対するリスク管理ができている」という状態なのか教えて貰いましょう。

慣れるまでは、急変リスクの少ない比較的元気な患者さんばかりを担当させて貰えるようにお願いするのも良いかもしれません。(就職先が願いを聞いてくれない可能性もあります。しかし、向こうもトラブルは避けたいので、決して悪い話ではないはずです。)

新卒の人は、訪問リハビリを本当にやりたいなら一緒に是非やりましょう!

私は以前回復期の病院に勤務しており、5年働き、昨年訪問リハビリに転職しました。

回復期病院のことも訪問リハビリのことも現場レベルではそれなりに知っています。

 

結論から言うと、

訪問リハビリは、リスク管理がしにくい状況であるという事を肝に銘じて、しっかりと理解している新卒療法士なら、充分訪問リハビリでもやってけますよ!と言いたいです。

 

「そんなこと言って、もし患者さんに何かあったらどうするの?」と思われる方もいると思います。

 

他分野の企業を見て下さい。日本で「新卒お断り」なんてところありますか?京都の舞妓さんの一元さんお断りじゃあるまいし・・。

私は、リハビリ分野って、個人の努力が足りない、意識が低いと個人を攻撃しがちな傾向があるように思いますが、本当に個人だけが悪いのでしょうか?

 

組織として、業界として、教育体制は充分なのでしょうか?

やれることを全てやって、しっかりと機能するシステムを作ったうえで、それをやらない個人に対して、もっと頑張れ!というのなら分かります。

 

また、ベテラン療法士だからリスク管理がバッチリであるという保証はどこにもありません。全くできていない療法士もいるかも知れませんよね。

 

なら、なぜ、新卒はダメなのか。答えられないと思います。ベテランも新卒も同じではないでしょうか。

それよりも、リスク管理が充分にできない新卒でも業務をこなせるように教育体制を整えていくことが、組織として、業界としてこれからは大切ではないでしょうか。

 

誰がやっても、ある程度のレベルでこなせるような業界を目指すべきです。どんどん新人が増えている業界なのですから。

特に、リスク管理などという重要で、生命に関わりかねないことを個人の力量に依存していてもよいのでしょうか?

すごく疑問です。

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だからといって、新卒の人は就職先や組織、業界だけに努力を要求し「あんたとこの教育制度やシステムが悪い!」としか考えられないような人間にはならないで下さい。

それでは、「最近の新人はダメだ!意識が低いし、やる気がない!」と一方的に相手が悪いと思い込んでいる思考停止状態の療法士と同じレベルになってしまいます。

人と人は相互関係で成り立っています。一方的に相手が悪いと言う場合もありますが、多くは”お互い様”です。

 

相手のせいにばっかりしていては、人間として成長しません。

 

 

上述のように、自分でできる限りの努力をして下さい。

そして、それに答えるように組織・業界も教育制度を構築していくのがベストではないでしょうか。

あなたは療法士として、人として、何ができますか?

最後に、この記事を読んでくださった新卒の方に少し話をしておきたいことがあります。

 

私には忘れられない療法士がひとりだけいます。

実習中に出会ったSV(スーパーバイザー)のPTの先生です。

その方は精神障害や発達障害を抱える方の入居施設で一人でリハビリをしていました。

 

その施設は、ど田舎の小高い山の上にあり、あきらかに昔に建てられた決して綺麗ではない小さい施設です。

そこに入居している方達は、

  • 精神障害のため、自殺未遂により両下肢が不随になってしまった人
  • 精神発達遅延により、ほとんど両親が施設に寄りつかない人
  • 精神障害ですぐに暴力を振るう為、他の人間が全く寄り付かない人
  • 他の施設でほとんどずっと寝ていたため、両下肢を曲げた姿勢のまま拘縮してしまっている人

など壮絶な経験をしてきている方たちばかりでした。私が実習をしている間、家族さんや外部の人が来ることはなかったです。

 

あなたが療法士になって、そこでその患者さん達を担当することになったら、どんなリハビリをしますか?

リハビリを一生懸命して、機能回復し、動作レベルが多少良くなったところで、この方たちは家に帰れる見込みがありません。帰れるところがありません。

そんな問題でここにいるのではないからです。

QOLを上げたくても、お金もなければ、外出も自由にはさせて貰えません。

 

 

でも患者さん達は、家に帰りたい、とことあるごとに言っています。

 

触ろうとしたら殴られる、徒手ではもうどうしょうもないくらいキツイ拘縮が両足にあるおばあちゃん、触るだけで嫌がり、眼を離すと自殺してしまうかもしれない人・・・。

 

あなたは、”ムリです。リハビリなんてできません”と諦めますか?

 

 

参考に、そこで実際に働いていたSVのPTの先生は、どんなリハビリをしていたのかご紹介します。

 

ひたすら笑顔で、時間の許す限りみんなに話し掛けまくって、面白おかしく一日中笑い転げていました。ただそれだけです。

盆踊りの曲を爆音でかけて踊り、その後を車椅子の両足に拘縮があるおばちゃんが笑顔で追いかけてくる。

そんなのが日常でした。

 

すぐに怒って人を殴ってしまう患者さんにも平然と話掛けて、大笑いしていました。その人はなぜかそのSVに対して暴力行為はありませんでした。

私や他の職員の人はまともに近づけませんでした。

 

「先週自殺企図を図った」とそのSVが言っていた患者さんも、笑顔でSVと話して、笑い合っていました。

 

 

その施設では、決まった時間にリハビリの時間があり、そのためのプラットホームが施設の大きな部屋の真ん中に置いてあります。

そのSVはひたすら話しをして、爆笑しながら、患者さん達に個別にリハビリを行っています。

 

周りで、ほとんど全員(十数人くらいです。)の患者さんがその様子をニコニコしながら見ています。

 

リハビリが終った患者さんも、そのままプラットホームの横で車椅子に座って次にリハビリされている人をニコニコしながら見ています。

いつまでも、いつまでも、そのSVの周りには施設の患者さん達がいるのです。

みんな、SVと一緒にニコニコしています。

 

 

私は正直、その施設に始めて行った時に感じた暗い雰囲気が溜まらなく辛かったです。

こんなこと言って良いのか分かりませんが、「どうしようもない・・・」そんな空気が常に漂っている様に感じました。閉塞感というのでしょうか。

 

しかし、その先生がリハビリを始めると、まるでそこだけ太陽が差しているかのように、パッと場の空気が明るくなりました。

その明かりにつられるように、患者さん達は各々の部屋から出てきて、ずーっとニコニコとそのリハビリを見守っています。

 

 

 

そのSVの先生に、「どう考えてリハビリをしているのですか?」と聞いたことがありました。

SVの先生は、「あなたは何ができると思います?一人のPTが、リハビリでここの患者さん達に。私に教えて下さい。お願いします。」

と言いました。

 

 

その先生は、あれだけ、患者さんの前では笑って楽しそうだったのに、実は自分のリハビリのやり方を模索して、必死に悩んでいました。

 

SVは言いました。

「私も必死に始めはPTらしいことをしていました。いや、しなければならないと思っていました。」

「でも、ここで私の知識と技術を使って何ができるのか、3年考えて悩み、色々試しましたが、答えは出ませんでした。実際、前任者もリハビリがちゃんとできないからと言って辞めていったそうです。気持ちはすごく良く分かるんです。」

 

「でも、やっぱり私はここの人たちに何かしてあげたかった。自分の力で何かを変えてあげたかった。

そこで、私は、ここの人達に精一杯笑顔を提供しようと思ったんです。

もう、いいやって。私はPTらしくあることを辞めようと思いました。私のリハビリを受けて、体ではなく、心が楽になったと言ってもらえるリハビリをしよう、そう思ったんです。」

 

「私はあなたに手技や技術を教えられるような良いPTではありません。でも、これが私のリハビリです。私にはこれしかできなかったんです。すいません、勉強にならないかもしれません。でも、少しでも何か学んで帰ってくれれば、と思っています。」

そう言って、太陽の様な明るい笑顔でそのSVの先生はニッコリと笑いました。

 

この先生は、自身でおっしゃっていたように本当に”良いPTではない”のでしょうか?

私は充分に立派な療法士であると思いますが、みなさんはどう思われますか?

 

 

 

療法士として働いていると、どうしようもなく辛い、残酷な現実に直面することがあります。

知識・技術を総動員して色々試しても、何の効果があるのかも分からず、悩むことなんて日常茶飯事です。

 

その時にあなたは諦めてしまいますか?もう無理だと言って投げてしまいますか?

 

もう一つだけ例を挙げさせて下さい。

 

私が病院時代に担当したことがある患者さんは、重度片麻痺で右半身が全く動かなくなって入院してきました。

毎日毎日練習して、3か月掛かってやっと寝返りだけができるようになって喜んで退院しました。

 

しかし、退院3か月後にまた再発して、今度は左半身が重度麻痺になりました。両片麻痺です。

両手両足、ほとんど動かすことができません。

再入院してきた時、患者さんと私は目が合った瞬間、思わず、二人して涙ぐんでしまいました。

「あんなに頑張ったのに・・・」

そう思うと胸が張り裂けそうでした。

 

 

その患者さんは私がリハビリのために部屋へ行くと、「もう死にたい。」と泣きながら言うようになりました。再入院する前はそんなことを言う方ではなかったのに、です。

私は自分の無力感に悩まされながらも、何とか、ギリギリのところで精一杯励ましてリハビリをしていました。

 

こんな患者さんを担当したら、あなたはどんなリハビリをしますか?どうしますか?

 

 

 

長々と書きましたが、私が伝えたいのは、「どんな環境で、どんな患者さんを担当することになっても、絶対に諦めないで下さい。」ということです。

患者さんと一緒に悩んで、苦しんで、一緒に何かを見つけようと精一杯努力して下さい。

私はこのSVの先生からそういったことを教えて頂きました。

 

なので、訪問リハビリが本当にやりたいなら、ちょっと誰かに何か言われたぐらいで諦めないで下さい。

もがいて何とかならないか、方法を探してください。

 

それがこの仕事に最も重要な素質であると個人的には思っています。

知識や技術は続けていれば、ある程度は自然に身に付いて上達していきます。

 

とにかく、いつでも患者さんの傍にいて、”諦めない、往生際の悪い人”でいて下さい

それが私が新卒の療法士に望むことです。

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