
リハビリテーションには、様々な専門職が連携し合い、患者さんのQOL(生活の質)を上げるために、それぞれの専門性を充分に発揮し、チームワークを大切にしてケアにあたるという「チーム医療」があります。
前時代までは、医師を中心としたトップダウン型の医療が主体でしたが、昨今では医師を中心に、お互いに専門分野の情報を出し合い、チームで医療を行っていこうとする、「チーム医療」が当たり前になってきました。
リハビリテーションチームの構成員とその役割
リハビリテーションチームには、以下のメンバーが参加します。
それぞれの役割を簡単にまとめてみます。
医師(Dr)
医師は入退院の調整、他職種への指示、病状の経過を含め全体を通して目を配っています。
看護士や他の職種と連携して、医療技術だけでなく、薬剤、手術、処置などのあらゆる医学的な手立てを講じて患者さんの全身状態を管理していきます。
同時に、「評価、予後予測・ゴール設定、プログラムの立案と役割分担」など、リハビリの大まかなイメージを持ってリハビリ処方をします。
看護師
看護師には主に5つの役割があるとされています。
- 全身状態の管理
- 日常生活活動の拡大、自立への援助
- 心理的側面への援助
- 家族指導
- 絶職種との連携、調整
です。
病院においては、24時間患者さんと関わりがあり、食事、排せつ、入浴、夜間の観察など、場合によっては看護師しか関われないことも多いです。
特に、お見舞いに来ている家族さまの想いなどを聞き出しやすい立場にあり、カンファレンスなどで、他職種が気付けていない患者と家族の想いを報告し、チームの方向性を決める重要な役割を担うことも多いです。
1人の患者に対して、他人数の看護師が関わるため、看護師間の評価や援助方針を決めておくことが大切になります。
私が病院勤務をしていたころは、特に排せつに関しての関わりで看護師さんに非常に助けてもらいました。
病棟で、忙しい中でも積極的に排せつの訓練を行ったり、大変な苦労がありますが、とても重要な役割を担っています。
理学療法士
理学療法士は、動作練習や、歩行練習、温熱療法などの物理療法を用いて、病後に弱ってしまった体力を積極的に鍛えていくお手伝いをします。
回復期病棟では短下肢装具の選定や作成、歩行補助具の杖などを処方したりして、医師と相談しながら、今後の患者さんの生活を導いていきます。
作業療法士(OT)
応用的動作能力、社会的適応能力の回復を図るため、手芸や工作、その他の作業を患者さんと一緒に行っていきます。
退院する時に患者さんに何が一番印象に残ったかと聞いてみると、「OTと一緒に作った料理がおいしくて、嬉しかった!」と話す患者さんも多いです。
理学療法士と重なる部分が多く、違いをよく理解していない方も多いです。
作業療法士は、理学療法士の専門分野である、日常生活動作(ADL)だけでなく、
- 家事動作
- 職場復帰の能力の精査・向上
- 高次脳機能障害に対する対処法
なども他職種や家族に話をして、方針を決定していきます。
心理的な側面からも医療的に患者さんに寄り添い、辛い闘病生活を乗り越えるように応援することも作業療法士の重要な役割です。
言語聴覚士(ST)
失語症や構音障害などの言語機能障害の評価・訓練を担当します。
個別練習や家族への指導のほかに集団訓練などを組織する場合もあります。
患者の心理面に取り入り、失語症患者会などに関わることも重要とされています。
最近は嚥下障害に積極的に取り組むSTも多くなってきています。
医療ソーシャルワーカー(MSW)
入院費用や収入源による生活の問題の相談に乗り、社会福祉制度を活用し生活を援助します。
退院に向けて利用できる介護保険、保険福祉サービス、年金、身体障害者手帳等の制度に精通し、患者の不利益にならないように環境を調節します。
また、患者とチームにその情報を提供し理解を深めてもらうのもMSWの役割です。
病院では在院日数の制約(診療報酬上の減額措置)が日に日に厳しくなってきており、次の施設を探す相談に乗るのも仕事です。
よって、MSWは地域の他の病院や施設の状況についての情報も熟知しておく必要があります。
また個人的な問題に深く関わることから、家族の生の声を聞く立場でもあります。
親身に相談に乗りつつ、家に帰りたいと言う患者の希望にも深い理解を持たなくてはなりません。
制度上のあらゆるサービスを使いながらチームの一員として目標となる社会復帰の支援をする立場が重要です。
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義肢装具士(PO)
ほぼ全ての病院は市中の業者である義肢装具士と契約しており、歩行装具や義肢等の作成を依頼しています。
ブレースクリニック(装具診)で医師やPTと話し合い、適切な装具作成の経験を積み重ねていきます。
チームの運営について
チームに最低限必要なのは、各種相互の日常的情報交換を通じた、患者さんの評価、ゴール設定、方針の統一と立案と役割分担をした上で共同作業を進めていくことです。
チームメンバーにとって他職種に意見を求めることはリハスタッフとしての重要な資質です。
患者さんは時間帯や場面、観察する視点により様々な姿を取り、他職種からの情報がないと完全な全体像を掴むことが難しいです。
メンバーが他職種ひとりひとりを尊重し、チームワークを守ってこそ複雑な背景と障害持った患者さんに対応できます。
リハビリテーション処方箋
医師の処方がなくてはリハビリ治療は始められません。
様々な形式の処方箋がありますが、最低限の必要記載事項は、
- 処方日
- 診断名
- 障害名
- 病前の状態
- 家族構成と主たる介護者
- 合併症
- 注意事項
- 処方の目的
- 治療の部門
- ゴール
などです。
リハチームによる回診
リハ患者が一定数いる病棟ではリハチームの回診が行われることがあります。
全員で行うのが難しければ代表が集まり、実施します。
主として歩行、移乗について患者に実際に行ってもらいます。
安静度といって、病棟で患者さんが自由に動ける範囲を決めて許可を与えるのもこのような回診を経て決定される場合が多いです。
患者さんも含めて集団で認識を一致させる機会をまたとないチャンスであり、1対1の訓練では得られない効果と重要性があります。
カンファレンス(会議)
リハチームでは、カンファレンスは必須です。
評価の対象となるのは麻痺などの機能障害や食事、移乗、排泄、歩行の自立などの活動制限、家屋改造、退院後の生活、参加制約、心理状態など、全ての面です。
各メンバーは治療の進行状況を報告し、情報をお互いに出し合いながら議論を進める姿勢が重要です。
特定のメンバーの意見のみで方針が決まるようなカンファレンスであってはならず、民主的な議論ができる雰囲気が重要です。
各項目につき、可能性と問題点を議論し、プログラムを再設定して任務分担を決定します。
チームで行う家庭訪問(家屋調査)
患者と共にチームで患者の家を訪問する事は患者の問題をより現実的に見ることができ、プログラムを作る上で最も重要な取り組みのうちの1つです。
患者の生活の場での実際の動きを見ながら複数の職種がその場でカンファレンスを行えるからです。
忙しくて現地に行けないスタッフに、ビデオで報告すると、濃い情報が共有でき、非常に良い方法です。
訪問したメンバーには、他の取り組みでは得られない教育的な効果もあります。
担当者会議
カンファレンスとは別に、医師、看護師、PT、OT、ST 、MSWの代表者の会議が必要です。
職員の学習、教育、研究や今後の方針を立てていく上で、リーダーシップをとる場所として活躍します。
医師のリーダーとしての素質を磨かれる場でもあります。
患者会
会員である患者の要求をつかみ、会の活動や行事を職員が支えることで、リハビリテーションチームの目的は患者のQOLを高めることにもあることがより鮮明に意識されるようになります。
患者と職員が共に行う旅行や様々な行事は患者集団を作り上げるとともにリハチームの団結を作り上げます。
他職場との関わり
在宅介護支援センター、デイケア、デイサービス、訪問看護ステーション、ヘルパー、老人保健施設、特別養護老人ホーム等と積極的に連携し、広い視点を持って患者さんの退院後のQOLの向上を目指すのが理想です。
まとめ
専門職は自身の意見に固執したり、どうしても視野が狭くなりがちです。
しかし、チームで円滑に情報交換を進めながらケアを行うことで、圧倒的に視野が広がり、どうしても自分だけでは気付けない視点で患者さんに関わることができます。
チームメンバーでひとりひとりの人生経験がチームの議論を充実させるようにチーム医療を進めていくのが理想です。
専門職の枠を超えて、自分自身の経験を踏まえ、患者さんを自身の家族のように捉え、皆で協力して支援していこうという姿勢が大切です。
また社会的制約などもたくさんある中で、どのように問題を解決していくのか、諦めずに考え続け、各々が意見を出し続けることでケアの質は高くなっていきます。