
「反射神経」という言葉があります。反射神経とは何か、またその効果的な鍛え方についてご紹介します。
反射神経ってなに?
私が小学生の頃、運動がよくできる子のことを、
「あいつは運動神経がいい」
とか、
「あいつは反射神経がいい」
と言ったりしたものです。
しかし、そもそも、反射神経とは何を指しているのでしょうか。
結論から言うと、「反射神経」という組織は人体には存在せず、恐らく「反射」のことを指しているのだと思います。
生物学で言う「反射(Reflection:リフレクション)」とは、「受けた刺激が大脳を介さずに、神経中枢から筋肉などに反応となって伝わること。」と定義されています。
「大脳を介さず」とあるので、意識されずに、勝手に外界の刺激に対してなされる反応のことです。身近で分かりやすい反射の例は、「膝蓋腱反射:しつがいけんはんしゃ」でしょう。
膝のお皿のすぐ下の少しへこんだところを、打腱器や指先などで軽く叩くと、膝がピクツ反応する、アレです。
膝蓋腱反射をやったことがある方は、まさしく、大脳を介さず出る無意識の反応というものを体験的に理解されていると思います。
脊髄反射のメカニズム
無意識に起こる脊髄反射のメカニズムは、まず、感覚器官(皮膚刺激など)で感じた刺激が信号となり、人の体の中で
- 感覚器官→
- 感覚神経→
- 脊髄→
- 運動神経→
- 末梢運動器
の順で伝わり、脳が刺激を意識していないうちに筋肉に反応を起こします。
これが反射(=脊髄反射)のメカニズムです。
この反射は、生体が身の危険から体を効率的に守るために存在するものだとされています。(熱いものから反射的に手を離すなど)
熱いものをふいに触ってしまった時、その信号が大脳に到達し、「あ、熱いものを触った・・かも?!やけどする!」と感じてから手を離すのでは既に遅く、大やけどを負ってしまう可能性もあります。
しかし、大脳へ信号か送られる経路をショートカットしてしまい、脊髄で反射させることでより早い反応が出るようにするための機能が脊髄反射です。
反射神経のトレーニング方法
反射神経とは、上述のように脊髄反射のことだと仮定します。そう捉えると、反射神経を鍛える効果は、外界の刺激に対して素早く反応できるようになることだと想像できます。
それでは、どのようにしてトレーニングすると良いでしょうか。
・・と言いたいところですが、脊髄反射の速度を上げることは、残念なことに、いくら個人が頑張っても、鍛えることは非常に難しいと思います・・・。
意識が介在しない場合の反射の速度を、反射神経と定義した場合、鍛えようがありません。
神経に信号が伝導する速度は、神経繊維の太さによってほとんど決まっており、神経性繊維を太くすることができれば「反射神経」を強くすることができるかも知れませんが、現実的ではありませんよね。
一方で反射神経を「外界からの刺激に対して意識した後に反応すること」と定義すると、鍛え方はあります。
と言うか、これでしか鍛えることができません。
先ほどの反射のメカニズムを知っていると、この経路のうちのどこかを鍛えると効果的であることがわかると思います。
スポンサーリンク
1.感覚器(動体視力など)をトレーニング
代表的なものでは、動体視力などがありますが、感覚器を鍛え、外界の刺激にいち早く気付くことができれば、早く反応できます。
例えば、スポーツで例を出すと、野球でバッティングの反応速度を早くしたいという場合、ボールのスピードに目が慣れ、脳の中でできるだけ早く、球速や軌跡を捉え、情報を処理する必要があります。
要するに刺激に対して早く反応できるようになるためには、その刺激に慣れてしまうことが大切です。
しかし、少しコツが必要です。
外界の刺激の量をできるだけ課題のものと近いものにすると、より効果的にその刺激に慣れ、反応速度を上げることができます。
つまり、動体視力を鍛えるといっても、ただ単に車や早い速度のものを見続けていてもあまり効果的ではありません。
刺激の量が一定ではないためです。
例のように、野球で球の軌跡を読めるようになり、バッティングで成績を上げるために動作視力を上げたい場合は、
- ボールと同じ大きさ位のもので
- ピッチングの球速と同じ位のもの
を見続けていると、脳がその程度の大きさの物体のその速さという刺激に慣れてきます。結果、ボールを追うことに対しての動体視力が向上し、捉えやすくなります。
よって、バッティングでの反応速度を上げたいのなら、バッティングセンターに通い、ひたすらバッティングを行うと一番効果的ではないでしょうか。
2.運動器(筋肉など)をトレーニング
外界の刺激をアウトプットする際に働くのが、筋肉などの運動器です。感覚器からの信号を受けて、その後に運動器が働きます。
よって、運動器の反応速度を上げることも反射神経をよくするために有効です。
筋肉は速筋繊維と遅筋繊維があり、速筋繊維は主に早い運動をする際に使用されるため、速筋繊維を鍛えると、 刺激に対して素早く反応できるようになります。
速筋繊維のトレーニング
速筋繊維は、
- 早い回数
- 高い負荷
でトレーニングを行うと鍛えられます。
この場合の高い負荷とは、
- 抵抗を上げること
- 速度を上げること
両方を意味します。
スクワットなどの自重トレーニングであれば、できるだけ早い速度で行うことで、負荷が高く、速筋繊維を効果的に鍛えることができます。
3.感覚器と運動器の連携を効率化する

感覚器で受けた外界の刺激を、素早く大脳で処理し、運動器に伝達するためには、感覚器と運動器の連携を強くすることでも処理速度が上がります。
つまり、神経の流れを効率よく行えるようにします。
「シナプス」という神経繊維があります。
シナプスは、神経細胞間あるいは筋繊維(筋線維)、神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位のことです。
反復して繰り返して刺激を与えることで、このシナプス、つまり神経線維が太くなり、より多くの情報をより素早く伝えることができます。
熟練した職人は、何千回、何万回にも及ぶ反復作業により、素人が同じ事を行ったときよりも、早く、多くの情報を処理し、的確な技術を施します。
よって、もしあなたが反射神経を良くしたい、と思っているなら、スポーツであれば、早く行えるようになりたい動作をひたすら繰り返し反復することでシナプスを強化し、その動作をより的確に早く行えるようになります。
やみくもに繰り返すだけよりも、フィードバックを得ながら反復することでより効果的にその動作は改善していきます。
参考)運動学習とフィードバック・フィードフォワードの効果について
フィードバックを得るというのは、具体的には野球では、バッティングフォームを誰かに見て貰ったり、動画で撮影して自分でプロの選手と比べてみる、とかですね。
要するに、なぜあなたは反射神経を良くしたいと思ったのか?その思ったきっかけになった動作を数千回レベルで反復して繰り返すことで確実に反射神経が良くなったと感じることができると思います。
”ダンス”も絶対に効果的!
”ダンス”は身体パフォーマンスを上げるのに非常に効果的です。
ダンスは身体の動きによって様々な表現をします。鏡を見ながら、「体をこの角度で、このタイミングで曲げて、肘をこの角度で伸ばすとこんな感じ」と自分の体の運動と感覚を擦り合わせる作業こそがダンスの練習そのものです。
つまり、自分でフィードバックを常に得ながらやっているはずなので、反復すれば、体の動かし方が滑らかになったり、うまく動かせるようになって当然です。
つまり、運動器と感覚の連携を良くする動きが”ダンス”でそのものあるため、ダンスを本格的にやっている方は、「運動神経が良い」、あるいは「反射神経が良い」という方が多いはず。(実際、私の周りでもダンスをやっている人はかなりスポーツ万能です。)
しかも、ダンスには早い動きも多いため、速筋繊維も効果的に鍛えることができ、刺激を受けてからの体の反応も確実に良くなります。
スポーツ万能になりたい!と思って反射神経について調べ、この記事に辿り着いた方は、ダンスを習う、もしくは習わなくても家でダンスのテレビ番組でも見ながらその動きを忠実に練習するだけでも確実にスポーツは上手になります。
少し余談ですが、平成24年から小学校の必須科目でリズムダンスが追加されましたよね。子供達の身体パフォーマンスを上げる上で非常に望ましいことだと思っています。
まとめ
「反射神経」と言う組織は人体に存在しません。
しかし、「外界からの刺激に素早く反応する」体を作る方法はあります。それは主に3つ。
- 動体視力などの感覚器を鍛えること
- 運動器(速筋繊維)を鍛えること
- 感覚器と運動器の連携を効率化すること
です。
もし、あなたが、何かしらのスポーツでより成果を上げるために「反射神経を鍛えたい」と思っているなら、結局は、熟練した職人のように、何千、何万回も上達したい動作を適切なフィードバックを得ながら繰り替えすことで最も早く成果が出始めるでしょう。
一流のスポーツ選手なら皆そう言うと思います。イチローとかだってそう言っていますよね。
私が働くリハビリの臨床で、動作(運動)のパフォーマンスを上げることが目標になる場合も多くありますが、その時に「この人は才能がある!」なんてことを思ったことがあるセラピストはいないと思います。
それよりも、「この人は熱心に地道にコツコツと練習を続けることができる」もしくは、「練習を続けるだけの体力・気力がある(リハビリの現場は高齢者の方が多いため)」と思える方のほうが、確実にその後の経過が良いです。
高度な技術を要するスポーツと日常生活の動作という程度の差はありますが、人体の運動のパフォーマンスという点では共通している部分も多いと思います。是非、参考にしてみて下さいね。