
脳卒中は脳細胞に損傷が残り、後遺症が残ります。
リハビリなどを行っても、「完全に後遺症が綺麗さっぱりなくなる」というのは現代の医療ではかなり困難です。しかし、今注目されている再生医療で、脳卒中が完治する日もそう遠くないかもしれません。
脳卒中治療の未来
医療業界の進歩は日進月歩です。私がたまに眺めているサイトで、「未来年表」というものがあります。
このサイトでは、新聞の記事を元に、各分野の研究者が未来に起こると予想していることがまとめられています。
その中で、
2017年 患者の骨髄幹細胞を使って脳梗塞を治療する再生医療のための治療薬が量産化する
出典:日本経済新聞 2014.2/13(資料元:札幌医科大学、ニプロ)
2020年 損傷した脳細胞を再生させ運動、認知、言語機能などを回復させる脳梗塞の治療薬が発売される
出典:日本経済新聞 2015.10/3(資料元:大日本住友製薬、サンバイオ)
という記事がありました。
2020年には、再生医療により、脳梗塞の治療薬が開発され、発売されるかもしれないということです。
一方で、ウィキペディアで現在の再生医療の要である、「IPS細胞」について検索すると、
脳卒中
2011年、Matthew B. Jensenらのグループにより、ヒトのiPS細胞を、人工的に脳梗塞を起こしたラットに移植することで神経細胞に分化させることに成功した。
しかし、梗塞の縮小は見られなかった。
その後も研究が進められ、慶應義塾大学により、脊髄損傷に引き続き本格的な臨床研究が始められることになった。
まず平成27年(2015年)にラットでの実験を開始し、平成32年(2020年)には人間での臨床治験を始める計画である。
引用)wikipedia
と記されています。
色々調べてみると、さすがに未来年表に記されている通り、あと5年程度(執筆時は2016年です。)で脳梗塞が完治する時代になるとは考えにくいですが、再生医療によって、脳卒中完治への道筋が見え始めていることは間違いないように思います。
再生医療とは?
そもそも、現在では、人体を構成する細胞の内、脳細胞や中枢神経などは再生が不可能と言うのが脳科学では常識として認識されています。
中枢神経などに損傷がある、脳卒中、頸髄損傷、パーキンソン病などが代表的な疾患で、失ってしまった機能を補う形で装具を作成したり、ロボットスーツで代用したり、後遺症による二次障害(分かりやすい例では、筋萎縮や関節拘縮など)をリハビリによって防いでいるのが現在の医療やリハビリの状況です。
参考)脳卒中片麻痺の下肢装具
再生医療では、細胞そのものを作ってしまうという発想から、広義では、人体の臓器を何かに置き換えるという方法までも含まれます。
なので、「ペースメーカー」などの技術も、広義では再生医療の分野に含まれます。
脳卒中の権威の医師が言っていたのですが、40年ほど前には「脳卒中の患者は寝かせておけ!」というのが医療の常識でした。
発症後に動くと脳細胞の損傷が大きくなると考えられていたのです。
現在では全く逆で、「どんどん動かせ!」と言われています。
時代が変われば当然のことですが、医療の常識も変わります。
再生医療の登場によって、損傷した脳細胞を再生させ、脳卒中や頸髄損傷は後遺症が残る病気ではなくなる可能性が出てきているのです。
再生医療の要 「人工多能性幹細胞:IPS細胞」とは?
人工多能性幹細胞(いわゆるiPS細胞)が今後の再生医療の要になります。
人工多能性幹細胞が2006年に初めて作られ、脳細胞や脊髄、神経なども人工的に再生させることができる可能性が出てきました。
実際に増殖に成功し、皮膚などの一部の組織で成果が出始めています。
iPS細胞とは、
- 分化万能性
- 自己複製能
を兼ね備えた細胞のことです。
つまり、あらゆる細胞に分化でき、しかもその時だけでなく、体内に入ったあとも細胞が生き続けることができるのが、ips細胞の特徴です。
あらゆる細胞を人工的に再生させることができれば、脳卒中に限らず、「後遺症」という概念自体が無くなるかもしれませんね。
例えば、IPS細胞をナチュラルキラー細胞にすれば、癌の発生や抑止、治療に使えるでしょうし、パーキンソン病もドーパミンを作る細胞を人工的に作り出せば治療することができる可能性もあります。
まさに再生医療やiPS細胞は、人類が夢にまで見た、「あらゆる病気が治る時代」に我々を連れていってくれるかもしれないのです。
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再生医療の現状と問題点
現在、文部科学省で再生医療に関する研究費の支援が行われることが決定しており、10ヵ年計画が進行中で、国の熱の入れようが伺えます。
しかし、現時点では、未分化細胞から分化させる際に腫瘍性増殖の危惧、細胞機能の不十分さなどで、臨床適応されるには課題が山積みであると言われています。
もともと、再生医療を広義で捉えると、細胞を使ったものではなく、口腔歯科でのインプラントもそれに当たり、細胞分野でなければ臨床適応は既に始まっています。
ここ数年では、骨髄細胞を用いた治療を虚血性疾患(パージャー病など)に用いられたり、自家細胞を培養して表皮や、角膜、軟骨などに移植する治療法は主に大学病院などで既に臨床適応されています。
技術的な問題だけでなく、保険適用と、保険非適用の治療法の混合を認めない、いわゆる「混合医療」の問題も、再生医療の細胞分野が臨床適応されるにあたり問題となります。
まとめ
今回は、未来の脳卒中の治療法「iPS細胞と再生医療」についてご紹介しました。
リハビリの現場で働いていると、実際に一番よく聞く患者さんの声があります。
「医療がいくら進歩したって、動けないのに長生きしてもしょうがない。医療の進歩もほどほどで良いんじゃない?」という意見です。
実際、毎日、いつ、いかなる時も後遺症に悩んでいる患者さん達を目の前にして、そのような意見を聞くと、私達は安易に否定も肯定もできず、非常に繊細で難しい問題だと感じるばかりです。
ただ、ひとつだけ、私がそういった方にお伝えしていることがあります。
今は、「医療も過渡期である、という考え方もあるのではないか」ということです。
もっと医療が進歩した状態に目を向けると、何か救われる部分もあるのではないか、と。
昨今までは、存命や延命のための医療が先経って進歩してきたような感触がありますが、今後はより良く長く、健康に生活するための医療が進歩するのではないかと思います。
実際にその傾向はいたるところにあります。
「健康寿命」も注目されていますし、予防医学の進歩もまだまだこれからです。
参考)遺伝子治療による予防医学
人昔前は「寿命」をキーワードに医療は進歩してきました。
現在の平均寿命が毎年伸びていくような状態に社会が成熟するまでは、昔の人はみな「長生きしたい」と思っていたのではないでしょうか。
今度それが達成されてくると、上述の様な「長生きするだけだとダメだ。健康で長生きしないと。」という考え方に変わってきているのではないかと思います。
もし、再生医療が一般の方にまで手軽に行える治療法として確立されたら、いずれ、
- 「健康で長生きするのが当たり前」
- 「寿命は自分で決める」
という時代になるかもしれません。
そうなると、人類共通の積年の悩みである「体の病気の問題」を離れて、「心・精神の問題」や「生き方」が大きな問題として問われるようになってくるのではないでしょうか。
病気の問題から離れて、かなり制約の少ない中で、人の幸せを想ったり、世界の平和のことを考えたりする心の余裕が生まれてくるかもしれません。
私達の子供、孫の世代には、病気になっても治療し、体の問題で悩むことなく、心や人生、他人の幸せなどと真剣に向き合える時代が来るかもしれない、と思うと、なんだか救われる気持ちになるのは私だけではないと思うのです。
少し、現実離れした話に聞こえるかもしれませんが、現代の「スマホ」だって50年ほど前には現実離れした夢の道具だったはずです。
決して、考える価値がないほど現実離れした話ではないと私は思います。
再生医療が早く現実のものとなり、少しでも早く多くの人の病気が治る時代が来るとよいですね。