脳卒中片麻痺の歩行「分回し歩行」の原因とリハビリによる改善方法

分回し歩行


脳卒中片麻痺の特徴的な歩行「分回し歩行」の原因とリハビリによる改善方法について詳細にご紹介します。




分回し歩行とは?

歩行時に、麻痺側の足を外側に大きく回して、前に振りだす歩行のことです。

分回し歩行1
分回し歩行の足の振出し前
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分回し歩行 足振出し後
分回し歩行の骨盤の位置
分回し歩行では骨盤を挙上させる動作がみられる場合が多い。
正常歩行の骨盤の位置
正常歩行の骨盤の位置はそれほど変わらない。

多くの場合、足を前に振りだす際に麻痺側側の骨盤を挙上させる動作か、代償として内転筋群を過剰に使うため、長距離歩行すると、

変形性股関節症疼痛の出やすい場所
長距離の分回し歩行で痛みの出現しやすい部位

これらの部位に痛みが出やすくなります。

 

また、歩行中、足先が外に向くのも分回し歩行の特徴です。

 

脳卒中後遺症、片麻痺がある方に大変多い歩き方です。

 

分回し歩行は、何らかの原因により、正常歩行でのメカニズムで確保できているはずの足を振りだす際の地面との隙間(クリアランス)が確保できなくなってしまったために、無意識に行われる異常歩行の一種です。

分回し歩行の原因

それでは、なぜ分回し歩行が出現するのでしょうか。

 

簡単に言うと、上述の様に歩行中に地面に足を引きずらないようにするための歩行が分回し歩行なので、歩行中にクリアランスを確保するために重要な、膝と足部に異常がある場合に出現しやすくなります。

 

そして、その膝と足部が正常に機能しない原因は、脳卒中片麻痺の方の場合、筋緊張の異常によるところが大きいです。

 

具体的には、主に以下の原因で分回し歩行が出現します。

  • 内反尖足
  • 麻痺側下肢筋群の伸展パターン(膝が伸びたままの振出し)
  • 麻痺側下肢への荷重不足

多くの場合にこれらの原因は筋緊張の異常と密接に関係しており、これらの原因がいくつか重複するとより著明な分回し歩行が出現します。

内反尖足

内反尖足

内反尖足を呈することで、足を振り出す際の足部と地面のクリアランス(間隔・隙間)が確保できず、足を前に振り出すために外側に大きく足を回して振りだす、分回し歩行となってしまいます。

下肢筋群の伸展パターン

脳卒中片麻痺の方の特徴的な症状として筋緊張の異常が挙げられます。

下肢 伸展パターン
脳卒中の方に多い肢位「ウェルニッケマン肢位」 。上肢は屈曲し、下肢は伸展している。

上肢は屈曲パターンが出現し、下肢は伸展パターンが出現します。

 

下肢の伸展パターンは、努力性の動作をする際により強く出現します。

歩行中、麻痺側下肢を振りだす時に足が重く、力を入れて前に振りださなければならない場合、伸展パターンが著明に出現します。

歩行中、地面から足が離れた遊脚相(ISW)で膝が屈曲しにくくなることで、前に振り出すためのクリアランスが確保できなくなり、結果、骨盤を挙上させてクリアランスを確保して振り出す”分回し歩行”となります。

イニシャルスイング
正常歩行では、足が地面から浮いた時に膝関節は屈曲する。

荷重不足

脳卒中片麻痺の方は、麻痺側下肢に体重を乗せることが苦手な方が多いです。

歩行中、麻痺側下肢に荷重がしっかりと乗ることで、足を振り出す際に効率的に足を前に振り出すメカニズムが働きます。

ここでの”効率的”という意味は、「筋力をそれほど必要とせず、足を前に出せる」ということです。

 

正常歩行の足を前に振り出すためのメカニズムは、

  • 下腿三頭筋腱の粘弾性による反発力(ストレッチショートニングサイクル:腱が伸ばされて、戻ろうとする反発力)
  • 大腰筋の靭帯の大腰筋滑車によるモーメントの変換(荷重されることで大腿骨頭はわずかに前にずれ、大腰筋腱と密着し、滑車となって、足を振り出すための力となる)

があり、これらは全て足にしっかりと体重を乗せた状態で発揮されます。

 

要するに、荷重が足に乗っていないと、このメカニズムが機能しないため、筋力を必要以上に発揮させて、足を前に振り出さなければなりません。(これを努力性の降り出しと言います。)

 

 

努力性の振出しになると、筋緊張が亢進するため、より足は固くなり(伸展パターンが強くなり)、

  • 膝が曲がらない
  • 内反尖足

などの症状が著明に出現し、分回し歩行となってしまうのです。

 

よって、麻痺側下肢に荷重を乗せる練習をすることは非常に大切です。

 脳卒中片麻痺の荷重練習とは?実際にリハビリで行われている荷重練習の方法5種類

分回し歩行の問題点

それでは、分回し歩行になると何が問題となるのでしょうか?

 

  • 「歩けてるんだから良いんじゃないの?」
  • 「運動麻痺があるんだからしょうがないんじゃないの?」

イラスト

 

と思う方も多いと思います。

実際その通りです。

 

人は自分の体に最も適した歩行動作を自然と選択しています。

運動麻痺がある方にとって、「分回し歩行」は最適化された歩行の一つの形態です。

分回し歩行を改善させることで、歩くことができなくなってしまう方は、改善する必要がないかもしれません。

 

一般的に、分回し歩行は異常歩行の一つと位置付けられますが、正常と異常の違いは、「大多数の方が行っているかどうか」です。

異常歩行であるからと言って、無理に改善させる必要はありません。

その人にとっては、その方法が最適な方法である場合も多いです。

 

しかし、実際のところ、正常歩行よりも、異常歩行である分回し歩行の方が効率が悪いことは確かです。

 

では、分回し歩行では、なぜ歩行の効率が低下してしまうのでしょうか。

分回し歩行での”歩行効率の低下”はなぜ起こる?

正常歩行では、

ターミナルスタンス

股関節が伸展したこの”ターミナルスタンス”の時期があることで、効率的に足を前に振りだすための遠心力が利用できるようになります。

よって、この時期がしっかりと出現している歩行では”リラックスした歩行”が行いやすくなります。

 

しかし、分回し歩行を呈する方の多くは歩行周期の中でこのターミナルスタンスが消失してしまうか、著しく短縮されてしまいます。

これは麻痺側下肢への荷重量とも関係しています。

 

麻痺側へも荷重がしっかりと行えない方は、麻痺側下肢の支持性が低い場合が多いです。(体重を支えられない。)

 

支持性が低いと、歩行中に麻痺側へ最後まで荷重することができず、すぐに荷重を抜いてしまいます。(抜重と言います)

よって、歩行中のターミナルスタンスが短くなってしまいます。

ターミナルスタンスが消失もしくは短縮すると、振りだす時に正常歩行よりも余分に筋肉を収縮させる必要があり、エネルギー効率の悪い歩行となってしまうのです。

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分回し歩行を改善するために

分回し歩行の原因と、正常歩行の効率化のためのメカニズムを考慮すると、改善方法がみえてきます。

 

  • 筋肉の緊張が上がりにくい歩行動作をする(リラックスした振出し動作での歩行)

と分回し歩行は改善しそうなことがお分かり頂けると思います。

 

そのためには、

  • 麻痺側へしっかりと荷重し、ターミナルスタンスを作る、もしくは延長させる

ことが必要です。

 

そのためには、

  • 麻痺側下肢の充分な支持性(片脚で体重を支えられるだけの筋力)

が最低限必要となります。

 

なので、効果的な分回し歩行改善のための自主トレの練習方法は以下になります。※この練習方法はあくまで一般的な例であり、個別性を考慮したものではないことをご了承下さい。

分回し歩行改善の自主トレ方法

歩行中に努力性の歩行にならないように(力まなくても良いように)、

  • 立脚相(足が地面についている時)
  • 遊脚相(足が地面から離れている時)

それぞれ以下の方法で鍛えていきます。

立脚相の自主トレ 体前倒し運動

足趾のトレーニング
右足を麻痺側とした場合

立位で立った状態で、必ず何かを掴み、転倒しないように注意して行って下さい。

麻痺側下肢を後ろに半歩程度下げて、反対側の足(体の前にある非麻痺側の足)を挙上させます。

 

この状態で5秒程度保持し、5セット程行います。

麻痺側の膝折れがある方は膝が折れてしまう可能性があるため、一瞬非麻痺側の足を上げて降ろすだけから始めると良いと思います。

この練習では、

  • 右足の支持性を鍛える(神経と筋の協調性)
  • 内反尖足のストレッチ(分回し歩行のある方の多くは内反尖足があります。)
  • ターミナルスタンスを体に覚えさせる(運動学習)

効果があります。

 

歩行中にこの姿勢を取ることができるようになれば、分回し歩行は出にくくなります。(訓練の成果が動作の中に実際に出ることを”汎化”と言います。)

しかし、この動作が立位でできるようになることと、歩行中の一瞬でできるようになることは、難易度が違い過ぎます。歩行中に行うのは格段に難易度が上がります。

 

よって、これができるようになったからといって、歩行中に確実にできるかというと、そうでもないので、あくまで練習として行います。

この肢位自体取れない方は

この姿勢自体が取れない方は、

  • 股関節 伸展 可動域制限
  • 足関節 背屈 可動域制限

が考えられます。

 

脳卒中片麻痺になり、数年経過している方は関節も固くなっていることが多いです。この肢位が取れない場合、股関節と足関節をまず柔らかくすることが必要です。

 

股関節伸展制限に対するストレッチの方法は 腸腰筋の筋トレとストレッチの方法

足関節背屈制限に対するストレッチの方法は 内反尖足の原因とガイドラインに基づく治療法

をご参照下さい。

遊脚相の自主トレ①股関節屈曲トレーニング 

腸腰筋 筋トレ

歩行中、最も力を必要とするのが、足を前に振りだす時です。この時に使われる筋肉を鍛えることで、努力性の振出しの改善を図ります。

 

方法は、座って股関節屈曲運動を行います。

反対側の足(非麻痺側)も行い、違いを意識しながら、できるだけ非麻痺側と同じ感覚で行うようにすると感覚が掴みやすく、効果的です。

遊脚相の自主トレ②SLR

SLR

寝てこのような動作を行うことでも股関節の屈筋群が鍛えられます。この動作は歩行中の足の降り出しを寝て行っているようなものなので、より歩行動作に近く、汎化しやすいです。

参考) SLRの筋トレ・ストレッチとしての効果・意義

まとめ

分回し歩行を改善するためにご紹介したリハビリの方法は、どれも歩行中に筋緊張を必要以上に上げてしまわないことを目的に行います。

しかし、筋緊張はそう単純なものでもなく、恐怖心などの精神的なものにも深く関わっています。

参考) 筋緊張とは何か?

 

  • 今まで歩いたことのない道
  • 坂道(特に下り坂)

は精神的な緊張が高くなりやすく、上述のリハビリトレーニングを行って、平地では特に分回しが出なくなった方でも、そのような場合は出現してしまうこともあります。

 

また、下肢装具を使うのも分回し歩行改善のために非常に良い方法で、

  • 下肢の支持性を補う
  • 内反尖足を矯正する

効果が即時的に大きくあるため、おすすめです。

 脳卒中片麻痺の下肢装具療法について

 

もし分回し歩行で悩んでおられる方は、個別にお問い合わせを頂ければ、できる範囲でお答えさせて頂きますので、お気軽にご相談下さい。

 

>>次の記事は「リハビリ現場における障がい者の就職・復職事情「好きな仕事で働くことは最高のリハビリになる」

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2件のコメント

  • 菅原 鉄矢

    正常歩行の足を前に振り出すためのメカニズムは、
    下腿三頭筋腱の粘弾性による反発力(ストレッチショートニングサイクル:腱が伸ばされて、戻ろうとする反発力)
    大腰筋の靭帯の大腰筋滑車によるモーメントの変換(荷重されることで大腿骨頭はわずかに前にずれ、大腰筋腱と密着し、滑車となって、足を振り出すための力となる)
    があり、これらは全て足にしっかりと体重を乗せた状態で発揮されます。

    こちらはどの文献に載っていたものでしょうか。大変参考になり、興味もあります。是非とも教えて頂けないでしょうか。

    • hideyuki

      ご質問ありがとうございます。
      この内容は私がとある著明な先生の勉強会に参加した時に教えて頂いた内容です。文献にあるのかは分かりません。詳しくは別のブログになりますが、こちらに写真付きで詳しく解説されていますのでご参照下さい。http://ryouhoushi.net/page35

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