
普段の運動不足を気にされている方も多いと思います。
私たち療法士は運動や筋肉について勉強しています。
患者さん達も体の不調により「運動したくてもなかなか続けることができない」と悩んでおられる方がたくさんいらっしゃいます。
私達療法士がどのようにそのような患者さん達に運動を継続して頂き、運動不足解消を図っているかをご紹介します。
運動不足による弊害
運動が不足するとどのような症状が出るのでしょうか。
日常生活の中で運動が不足すると、
極端な場合、俗に言う「廃用症候群」のような症状が出現します。
廃用症候群は実に様々な障害があります。
廃用性筋萎縮 |
筋肉がやせおとろえること |
関節拘縮 |
関節の動きが悪くなること |
廃用性骨萎縮 |
骨がもろくなること |
心機能低下 |
心拍出量が低下する |
起立性低血圧 |
長く寝た後、急に立ち上がるとふらつく |
誤嚥性肺炎 |
食べ物が誤って肺に入ることによりなる肺炎 |
血栓塞栓現象 |
血管に血のかたまりが詰まりやすくなること |
うつ状態 |
精神的に落ち込むこと |
せん妄 |
軽度の意識混濁のうえに目には見えないものが見えたり、混乱した言葉づかいや行動を行うこと |
見当識障害 |
今はいつなのか、場所がどこなのかわからないこと |
圧迫性末梢神経障害 |
寝ていることにより神経が圧迫され、麻痺がおきること |
逆流性食道炎 |
胃から内容物が食道に流れ込んで、炎症がおきること |
尿路結石・尿路感染症 |
腎臓、尿管、膀胱に石ができること、また細菌による感染がおきること |
褥瘡(じょくそう) |
床ずれ |
一般的に良く知られているところで言うと、
- 筋力低下(著明な場合は筋萎縮)
- 関節の拘縮
- 床ずれ
でしょうか。
しかし、実際には、立位を取らないと心臓も血液を送り出す力も弱くなり、内臓にも大きな負担になります。
高齢者が2か月程度寝ていれば、余程体力のある方でないと歩けなくなるし、立つこともままならなくなります。
また、起立性低血圧と言って、久しぶりに立位を取ると、心臓が頭に血液を送ることができず、意識を失ってしまうことも良くあります。
また、寝たきりの生活は脳への刺激が著しく低下するため、体だけでなく、精神や認知、脳の活動にも著しい悪影響を与えます。
廃用症候群はほぼ運動量がゼロの場合なので、日常生活の中で掃除、炊事、洗濯、育児などを行っておられる方なら特に運動をしなくても夜には疲れてぐったり、という方も多いと思います。
そういった方でも、運動不足により、
- 糖尿病
- 肥満
- 成人病
- 血管障害(脳卒中、心筋梗塞など)
などの疾患のリスクは高くなってしまいます。
運動不足の解消にはどれくらい運動すれば良いのか?(1日の運動量の目安)
「1日一万歩歩きましょう。」
このようなスローガンを聞かれたことがあると思います。
しかし、実はこれには科学的な根拠はありません。
厚生労働省が推進している「健康日本21」でも、1日の歩数目標は男性 9,000歩、女性 8,500歩です。
ウォーキングで運動不足解消を図る場合は、これが目安になります。
では、歩行・ウォーキング以外の運動ではどの程度の運動が1日に必要でしょうか。
科学的根拠のあるデータでは、国立健康・栄養研究所のデータが参考になります。
<18~64 歳の身体活動(生活活動・運動)の基準>
強度が 3 メッツ以上の身体活動を 23 メッツ・時/週 20行う。具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日 60 分行う。
参考:3 メッツ以上の身体活動(歩行又はそれと同等以上の動き)
- 普通歩行(3.0 メッツ)
- 犬の散歩をする(3.0 メッツ)
- 掃除をする(3.3 メッツ)
- 自転車に乗る(3.5~6.8 メッツ)
- 速歩きをする(4.3~5.0 メッツ)
- こどもと活発に遊ぶ(5.8 メッツ)
- 農作業をする(7.8 メッツ)
- 階段を速く上る(8.8 メッツ)
<65 歳以上の身体活動(生活活動・運動)の基準>
強度を問わず、身体活動を 10 メッツ・時/週行う。
具体的には、横になったままや 座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日 40 分行う。
参考:3 メッツ未満の身体活動
- 皿洗いをする(1.8 メッツ)
- 洗濯をする(2.0 メッツ)
- 立って食事の支度をする(2.0 メッツ)
- こどもと軽く遊ぶ(2.2 メッツ)
- 時々立ち止まりながら買い物や散歩をする(2.0~3.0 メッツ)
- ストレッチングをする(2.3 メッツ)
- ガーデニングや水やりをする(2.3 メッツ)
- 動物の世話をする(2.3 メッツ)
- 座ってラジオ体操をする(2.8 メッツ)
- ゆっくりと平地を歩く(2.8 メッツ)
引用・参考)国立健康・栄養研究所 運動ガイドライン
要約すると、
- 若年者は毎日60分程度は歩く程度の負荷の運動を行う
- 65歳以上の高齢者は日常生活の動作を毎日最低40分以上行う
ことが推奨されています。
私も恐らく1日1時間も歩いていません・・・。
運動不足解消の方法
「運動をするぞー!」と意気込んでもなかなか継続することができないのが普通です。
3日坊主は何もあなただけではありません。多くの人がそうです。
なので、継続するために、日常生活の中に意識しなくても行える運動を組み込んでいくことをお勧めします。
- できるだけ歩く様にする
- 階段を使う
ここらへんは言われなくても、運動不足かなー?と思っている方は自然にそうしようと思うところではないでしょうか。
できるだけ歩くようにして、上述のデータに習って、若年者なら1日の合計の歩く時間が60分を超えるように目指しましょう。
それ以外では、
- 床の物を拾う時にスクワットをする
- テレビを見ながらなど、”ながら運動”でのランジ
などが日常生活の動作の中で取り入れやすい運動だと思います。
日常生活の中に取り入れる”スクワット”
床の者を拾う際に腰を屈めて拾うと腰に負担が大きいです。
私は一時期酒屋さんでアルバイトしていたことがあり、そこのオーナーに「重い酒の瓶が詰まった箱を、どうやって腰を痛めずに毎日運べるのか」聞いて教えて貰った経験があります。
酒屋さんは重い荷物を腰を屈めて持たず、必ずスクワットの要領で腰は真っ直ぐのまま、足を曲げて姿勢を低くし、床に置いてある箱を運ぶ様にしているのです。
腰痛の予防にもなり、運動不足解消にもなるので、オススメです。
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日常生活の中に取り入れる”ランジ”
ランジとは、足を大きく踏み出して足やお尻を鍛えるトレーニングの方法です。
(写真はフォワードランジ。前に踏み出す運動です。横に踏み出すサイドランジもあります。)
よくテレビなどでは、踏み台運動・ステップ運動を「ながら運動(テレビを見ながらなど、何かをしながらできる運動)」としておすすめされていますが、踏み台を出してくることすら面倒なことってありませんか??

なので、より手軽な”ながら運動”として「ランジエクササイズ」をおすすめします。
踏み台昇降運動と同じような部位の筋肉を鍛えることができ、若干カロリー消費は少ないですが、踏み台も要らず、ただその場に立って前に足を踏み出すだけです。
私はテレビを見ながら、かつ、子どもを抱っこしながら行っていますよ。
二重で”ながら”です。
ランジについて詳細は手軽にできて効果絶大!ランジエクササイズの方法と効果
運動を継続するにはどうしたら良い?
運動は短期的に気が向いた時に行うだけではほとんど意味がありません。
「継続してなんぼ」です。
なので、如何に継続する仕組みを作るか?を考えなけれなりません。
リハビリで入院中は積極的に運動をしてくれていた患者さんも、家に変えるとめっきり運動をしなくなった、と言う話を良く聞きます。
私達療法士は、患者さんに運動を続けてもらえるようにあの手この手を考えます。
以下に患者さんに私が提案して、運動を継続することができた方法をご紹介します。
ウォーキングを続けるコツ
運動不足を解消する方法として一番お勧めなのが、歩くこと=ウォーキングです。
ウォーキングはは有酸素・全身運動であり、体に適度な刺激となるため運動不足解消に効果的です。
しかし、毎日続けることが難しい側面もあります。
自分で毎日15分は歩くぞ!と決心しても、人間は誰しも甘えてしまいます。
今日は体調が悪いし、時間がないから・・明日今日の分も30分歩けば良いか・・などとついつい歩くことを先延ばしにして、結局歩かなくなってしまう、ということが良くあります。
患者さんにもそういった相談を良くされます。
その場合、私は「道連れ」を作って下さいとお伝えしています。
道連れというと少し言葉が悪いですが、近所のお友達やご家族を誘って一緒に歩くようにすると継続できる場合が多いです。
できれば、「何時にどこの公園で」と外で待ち合わせる形で約束して下さい。
そうすれば、「義務感」や「相手に悪い」という気持ちが芽生え、少し気分が乗らなくても自然と待ち合わせ場所に向かうようになります。
そして、おしゃべりをしながら一緒に歩いていると気持ちも高揚してくる場合が多いです。
一人でやろうとするから甘えが出やすい訳で、二人以上になると、義務感や強制感が少し強くなるので運動を続けやすくなります。
苦しい、めんどくさいのは始めだけです。
習慣化してしまえば、なんてことはありません。人はそのようにできています。
半年も続ければあまり苦にならなくなるので、最低半年は何があっても続けるという気持ちで望むと良いのではないでしょうか。
家で筋トレ・ストレッチなどを続けるコツ
これもなかなか継続して行うことができません。
患者さんと一緒に取り組む中で、継続させる方法で効果があると感じたのは、
- 効果を実感しながら行うこと
- 強制的にできる環境に自らを置くこと
です。

例えば、「ヒップアップ(お尻上げ)を1日20回5セットを毎日必ず行って下さい。」
と言うだけでは、ほとんど100%に近い方がそのうちしなくなります。
なぜなら、目的が分からないし、続けたところでどうなるのか、自分の体がどう変化するのかイメージが持てないからです。
運動による効果を自分で実感できるようになると、眼に見えてモチべーションが変わるのが分かります。
大胸筋を鍛えてバストアップしたいなら、バストのサイズを測っておき、運動を続けて効果を検証するのです。
それで少しでもバストアップが図れているなら、この調子で続けよう!と思えるはずです。
ダイエットでも同じです。
運動で消費するカロリーと食事などで摂取するカロリーを記録しておき、1か月後にはこれくらい減っているはず・・と目標を立てて行うと、断然モチベーションが違います。
何となく少しやせた方が良いかな?という気持ちで始めると、まずうまくいかないでしょう。
なぜ痩せたいのか考え、そこから痩せたい体重と期間を定め、できるだけ緻密に計画を立てて実行していくと効果が実感でき、運動を継続しやすくなります。
もし、それで思った通り体重が減らなければ、何かが間違っているのです。それを分析し、再度目標を設定し直します。
ここら辺はダイエットに限ったことではなく、仕事でも同じPDCA(プラン→実行→チェック→アセスメント)サイクルです。
私は患者さんに自主トレをお願いする時は、できるだけ具体的に期間や目標を一緒に考えて設定して行ってもらいます。
また、ジムなどのスポーツ施設に予約してしまい、運動する環境を自分に無理やり作ってしまうことも効果があります。
私も一時期ジムに通っていましたが、行きさえすれば、みんな運動しているので、流されるように運動をしていました。
まとめ
運動不足の解消には、日常で運動を継続することが必須です。
運動を継続できないのは、大きく分けて、
- やり方・方法の問題
- モチベーション・目標設定の問題
に分かれるかと思います。
その時に、やらなければと思う感覚(義務感)と楽しむ感覚とのバランスがすごく大切だと感じています。
ある程度の義務感は必要ですが、それが強すぎてもモチベーションが続かないでしょう。
義務感を少し持って運動を始め、気付いたら運動することが気持ちよく、楽しくなっていた、というのが一番成功するパターンです。
「健康」は自分の人生を大きく左右する重要な要素なので、運動習慣を一度持てれば、それは人生で大きな宝となります。
それ位の価値のあることを手に入れるのだから、ある程度苦労もするし、失敗もするのが当たり前だと思いませんか?
運動習慣を持てるかどうかは運に作用されるようなものではないので、失敗したって何度でも計画を練って粘り強く行えば必ずいつかは成功します。
運動不足解消のために、コツコツと地道に改善を繰り返し、適度な運動習慣を持てるように頑張りましょう!