
今回、拒否のある患者さんへの対応を考える際に、改めて「リハビリって何なのか?」というところを考えておくと、問題を解決するヒントになるのではないかと思います。
リハビリ職ってみんな勉強熱心です。
言われなくても勉強するし、リハビリの知識には興味がある方が多いでしょう。
しかし、リハビリ職の勉強は、手技を勉強したり、解剖・運動学などを勉強するだけではいけないと思います。
なぜ「拒否」が起こるのか
リハビリって、もうよくご存じだと思いますが、「患者さんに対して病気をする前の、元の状態に戻してあげること」が目的ですよね。
できなくなってしまった生活動作を徒手療法・物理療法、動作訓練などを行い、できるようになるためにリハ職は勉強します。
なので、「触るな!」と怒る患者さんに遭遇するとみんな困ってしまいます。
あなたにも経験ありませんか?
リハビリへの拒否が強くて何もできない患者さんに困ってしまった経験。
病気をするということはただでさえ辛く、それによって日常生活で今までできていたことができなくなると、追い打ちをかけるように喪失体験が患者さんに降りかかります。
その時に「もうどうだっていい」と投げやりになってしまう人がいても全くおかしくありません。
普通の反応であろうと思います。
そんな時、リハ職が元気一杯に「さぁ、やりましょう!」といったところで白々しいだけです。患者さんにとっては何の問題解決にもなっていませんよね。
さらに、拒否がある患者さんは、実はリハビリのことを良く知っている人が多いです。
「運動させられる」、「触られる」というリハビリに対する認識があるために、拒否している場合も多いです。
そういった方には、この一般的な「リハビリのイメージ」をあえて裏切っていくことを考えなければならないと思います。
「触らないリハビリ」もある
そもそも、リハ職は「患者さんに触らないといけない」という脅迫概念を持っていると思います。
触ってこそリハ職の本領を発揮できることは間違いないですが、実は「触らなくても本当は良い」のだと思います。
だって、目標は「患者さんが動いて、元の生活に戻れるようになること」です。
この目標が達成できるのであれば、触らなくたってかまいません。
機能的に充分な機能があるから、動けるはずだ、というのは、少し強引で無理があり、人間はその時に動き始める理由や、動機づけが必ず必要になります。
例えば、私が家で寝ていて、全ての日常生活動作に介助を行ってもらえる環境にあれば、いずれ、トイレに行くという事すら億劫になってくる可能性も充分あると思います。
今、トイレに行くのは誰も介助してくれないことが分かっているから私はトイレに行きます。
いわば、一度すべて介助して貰う経験をすると、患者さんに「自分でやらなくても何とかなる」という負の学習が進んでしまっている可能性もあります。
まずはそこに対してアプローチすることが大切だと思います。
その際には、自分でこんなことができると、こんな素晴らしいメリットがあると患者さんにしっかりと提示し、そのイメージを頭の中に描いてもらうことが重要です。
「頭では分かってても・・できません」と患者さんはよく言いますが、その時に足りないものは「イメージ」です。自分ができる、というイメージが足りないのだと思います。
発症から間もなくの間過ごす患者さんはまだ機能回復になりそうなことに貪欲に取り組もうとする意志を持っておられる方が多いですが、訪問リハビリなどで対象になることが多い慢性期・維持期の患者さんはそうでもない場合も多いです。
「何とか生活できてるし、このままでいいや」と口には出しませんが、思っていても不思議ではないと思います。
リハ職ができることは実はもっとたくさんある
徒手的に機能回復を促したり、動作練習を行うことも大切ですが、何よりも大切なことは「自分が何ができるのか」考え、視野を広く持つことだろうと思います。
今、病院型の機能回復型のリハビリよりも、在宅・地域型の活動・参加に焦点を当てた、「日常生活モデル型のリハビリ」が意識され始めています。
例えば、在宅で介入しているヘルパーさんは実は制度上の縛りがたくさんあります。
ついでに家族の洗濯物を洗ってはいけない、生活援助で介入しているため、身体の介護をお手伝いすることができない、などです。
リハ職はそんな制度上の縛りはないです。このメリットを生かさない手はないです。
リハ職が患者さんを買い物に連れていって、歩行観察、動作分析など様々な評価を行いながらリハビリをすれば、それは立派なリハビリであり、ICFでいう「活動と参加の機会を提供している」ことになります。
賛否両論はあると思いますが、この前、私は機能的にはなんとか外に出れる患者さんと訪問リハビリの時間に近くのホームセンターに買い物に行きました。
この患者さんは杖をついて外出中に一度転倒したことがあり、外出できる身体能力を持っているのにも関わらず恐怖心がある方でした。
いくらそれで「歩けるのだから歩かないとダメ!」と言ったところで、そんなこと本人だって重々分かっています。
実際にその方はお姉さんから毎日の様に電話がかかってきてそのように言われていました。
私はたった一度もそんなこと言いませんでした。
ただ、私ははケアマネージャーに連絡し、押し車を用意してもらい、それを押して外にどんどん連れ出しました。
そのために私がしたことと言えば、その人の生活を知り、興味・関心があることを熱心に聞き出したことです。ほとんど身体に触っていません
ホームセンター、スーパー、喫茶店などに行って、その方が好きそうな話題を選んで楽しくお話をしました。
言ってみれば、もうデートみたいな感覚です。笑
どうやったら相手が喜んでくれるか。それを一生懸命考えました。
そんなことを半年続けていると、その方は一人で押し車を押して、近所に外出されるようになりました。
私の目論見通り、散歩は怖いものではない、散歩は楽しいものである、というイメージが患者さんに芽生え始めたのだと思います。
まとめ
この患者さんには成功体験を経験させること、そしてそれに無意識に「怖くない、楽しいという感覚」を持ってもらうことを目標に介入しました。
これはたまたま上手くいった例ですが、これもちゃんとしたリハビリであると私は思っています。
だって、こうやって屋外に一人で出られる様になれば、機能的な廃用や筋萎縮も少しは予防できるし、なによりも本人が幸せで楽しいじゃないですか。
リハビリにおいて、変に体に触ったり、「歩きましょう!」などと患者さんが既に分かっていることを言うのは得策ではない場合もあります。
もっと、視野を広げて「リハビリとは何か」を模索していきたいと思っています。