リハビリとは?目標はどこにおくべきか?


リハビリとは、簡単にいうと、社会的生活も含め、「病気になる前の生活に戻ること」を目標として運動などを行い、病気をした人の体を回復させることです。




私は回復期と言って、手術や病気を発症してから約1ヶ月位経過した患者さんを担当する病院で、理学療法士として働いています。

回復期は自宅に帰れる患者さんが殆どで、比較的状態の良い患者さんが多いところです。

また、リハビリに対しても意欲が高い患者さんも多く、それに応えることですごくやりがいのある病院です。

今回は、リハビリとは何かを改めて考えて頂ければと思い、私とある患者さんとの話をしたいと思います。

本当の問題点はどこにあるか?

80歳代の女性で、最近私の担当になった患者さんは、顔から転倒して、頸髄損傷の診断を受け、保存療法にて経過し、私の勤める病院に入院されてきました。

頸髄損傷と言ってもごく軽度でした。

病院に来られた時から両足が少し弱っている位で、訓練中は病院の中を歩行器で歩くことができました。

怪我をされる前も、老人会に週に2回参加したり、お友達と繁華街にお食事に出かけるなど、普段から活発に活動されている方でした。

色々評価をしてみると、筋力もバランス能力も平均並み、リハビリ中は一人で歩行器なしでも歩くことがすぐ出来る様になり、「体」は大きな問題もなく経過されていきました。

しかし、彼女の場合、転倒した時の恐怖が強く頭に残っており、

「また、転倒するかも・・」という恐怖と、
「寝たきりになるんじゃないか」という不安をずっと拭いきれずにいました。

屋外を一緒に歩く際も、私の側を決して離れず、しがみつくようにして歩かれていました。

普通に歩けるのに、です。

どこを目標にするか。

リハビリを始める際に、体の機能的な能力はもちろん、病前の生活や、ご自宅の状況(家の造り)、周りの家族の状況、介護認定や、介護度など、あらゆる要素を考慮して、リハビリの到達目標を決めます。

この方の場合、体や動作は入院してすぐに日常生活に戻れるレベルになりました。

しかし、心理的な”不安感”が強く、恐らくこのまま家に帰っても外に一歩も出れないだろう、と私は思いました。

私は熟慮した上で、動作的なリハビリの最終目標を
”15分程度安全に一人で歩けて、老人会に週2回参加できること”
として、

精神的な目標を
”一人で積極的に外に出れるようになること”
としました。

 

入院当初は歩行器で安全に歩けるのに、怖がって車椅子から離れることができず、説得するために1週間以上を要しました。

当面の目標として、”歩行器で病院の中を移動すること”とし、

その方の部屋に目標を書いた紙を張り出しました。

毎日声掛けして、「共通の目標を目指す仲間」、という意識を持つようにして頂きました。

また、リハビリ業務が全て終わった後に、世間話をするためにその患者さんの部屋を訪れたりしました。

「来週始めまでに歩行器で歩けるように自信を付けましょう。絶対できます。」

と、とにかく毎日事あるごとに励まし続けました。

結果、目標の日になんとか歩行器で歩くことに了承されましたが、渋々という感じで不満そうでした。

私は、その患者さんに、

 「皆さんは、歩くことが出来ずにこの病院でリハビリを頑張っています。
あなたは歩けるのだから、しっかり歩いて、この病院にいる患者さんの希望になって、夢を与えてあげて下さい。」

というようなことを言いました。

これは、その患者さんは病前から幼稚園にボランティアでコーラスを歌いに行ったり、病院では他の患者さんを励ましたり、車椅子を押してあげたりして、お世話をするのが好きな方だということが分かっていたから、そう言って背中を押そうと私なりに考えての発言でした。

人は自分のために頑張ることは意外とできないものです。

この方も、他の苦しんでいる方々のためなら尚更頑張れる方だと私は思いました。

それまではあまり多くを語らない方だったのですが、その方はそれから何でも私に相談して、不安を打ち明けてくれるようになりました。

回復期のリハビリは多くの時間を担当患者さんと過ごします。

回復期の病院は、1日1人の患者さんに1時間程度(疾患によって異なりますが、この方の場合です。)リハビリします。

それ以降、毎日、お尻が痛い、足がだるい、肩が凝る、目眩がする、頭がいたいなど、あらゆる訴えを私にぶつけてこられました。

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ご存知かもしれませんが、疼痛には心因性疼痛というものがあり、この方も明らかにその類の疼痛の症状の訴えがありました。

本当は患者さんを試すようなことは良くないのですが、私が少し難しい顔をして痛いところを触ったふりをすると、

「ましになりました!」ということも度々ありました。

これは心因性疼痛の判断に使われる手法で、

何もしていないのに、心因性の疼痛の場合、痛みが軽くなったような気がするのです。

私は毎日その訴えを聞きながら、その方を励まし続けました。

訴えが強い日はリハビリを拒否されることもありました。

それでも私がリハビリを一生懸命促すことで、ある程度の運動をして頂ける関係になっていきました。

結果、退院半月前までに無事”屋外を1人で15分歩ける”という目標を達成することができました。

退院直前には毎朝、1人で病院の周り(敷地内です。)を20分位散歩されるようになりました。

しかし、不安の訴えは消えることはありませんでした。

家に帰ってリハビリをしなくなると、寝たきりになるんじゃないか、また転倒するのではないか、とずっと訴えられていました。

私は、ケアマネージャーに連絡を取り、訪問リハビリや外来のリハビリに通うことを提案し、リハビリが続けれる環境を整えてから退院して頂くように配慮しました。

退院前、私はその方とメールアドレスを交換しました。(携帯メールを使える方でした。)

そして、
「覚えておられますか?始めに私と立てた共通の最終目標は、また老人会に通って、前みたいにあなたらしく楽しく過ごされるよ  うになることでしたよね? その目標が達成できるまで、退院しても私のリハビリは続きますよ。」
と伝え、退院となりました。

退院してからは実際に私がリハビリを出来るわけではありませんが、メールで現状を報告して頂き、私がアドバイスや励ましを続けることがこの方には必要だと思いました。

リハビリの目標を、”病前の日常生活に戻って1人で歩けること”とすることは多いと思います。

しかし、病気をして、本当に自立した生活や、その人らしい生活に戻ることは私達が頭で考えるほど容易ではありません。

当たり前ですが、患者さんは心や感情を持った人間です。

分かっていてもできない、出来るけど出来ない、ってこと、私達もありますよね?

この方の場合は、外を1人で歩ける事は短期的な目標であり、
「老人会に通って、またコーラスに参加したり、社会参加して人の役に立っていると自分で自覚できること」
が本当のリハビリの最終目標になると思いました。

退院してからも、メールで外出したりした際は報告を頂いています。

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最終目的達成までの道のりはまだまだ険しい・・

943a02d41db88bbc263f087f5fde432a_s最近、こんなメールを頂きました。

 

食事会に、行ってきました、料理も、美味しいでしたが、皆に会える喜びで泣きました、一歩一歩、噛みしめて、頑張って行きます。これからも、応援よろしくお願いします。

(※プライバシー保護のため、一部加筆・修正しています。)

 

慣れないメールで、たどたどしい文章かもしれませんが、私はこのメールを頂き、心を打たれました。

私はこう返信しました。
 

リハビリを病院で頑張った結果が、ようやく実を結びましたね。

僕は︎︎□さんが歩けるようになるためにリハビリしたのではなく、

そうやって、お友達と楽しく嬉しく食事したりして頂くために、リハビリを頑張って頂いたのです。

だから、私も我が事の様に嬉しいです!

でも、リハビリの目標はまだ、達成していませんよ。

また、老人会に前の様に通えることが最終目標です。

少しずつ︎□□︎さんのペースで最終目標達成まで頑張って下さい。

本当に少しずつで結構です。

その調子です。

陰ながらずっと応援していますよ。

 

まだ、最終目標は達成されていませんが、少しずつ私の力なしで、”自立して”目標達成の為に自分で動けるようになられています。

最終的には、私の励ましのメールなどなくても良いようにしていこうと思っています。

それが本当の、この方の自立になるからです。

その時がこの方の本当のリハビリの終わりです。

 

理学療法士の仕事は、体の機能面を見る事ももちろん大切ですが、それだけでは充分ではないと私は思っています。

機能があればできる、筋力があればできる、というのは机上の空論でしかない場合もあります。

学校を出て、勉強した知識を元に、その人に合ったリハビリを担当症例を持つ度に毎回1から勉強して実績していく事が必要だと私は思います。

それは、臨床の知識だけではなく、例えばコーチングとか、心理学とかも必要があると判断すれば勉強していく姿勢が必要です。

これからの理学療法士は、様々な知識を持ち、それらを駆使して患者さんを自立させていく力が必要だと思います。

大変ですが、それ位の価値はある仕事だと思っています。

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