
これから理学療法士を目指したいけど給料が気になる方、あるいは既に理学療法士として毎日一生懸命働いていても、給料が少なくて割に合わない・・と思っている方も多いのではないでしょうか。
企業経営の指標として、『人件費率』というものがあり、適正な人件費(給料)のおおよその割合は決まっています。
今回はその算出方法と、療法士の妥当と思われる給料についてご紹介します。転職したいと思っている、あるいは理学療法士になろうと考えている方は絶対知っておいた方が良い内容です。
さて、理学療法士の給料はなぜ安いのでしょうか?
「理学療法士の平均給料は390万円で昇給が少ない」・・・なぜ?
理学療法士の全国平均給料は390万円(年収ラボより)となっており、実際に理学療法士として働いている私からしても、感覚的にその程度が妥当だと思います。
「理学療法士の平均年収390万円で、就職してからの昇給が少ない」大体、どのホームページにもこのように書いてあります。
しかし、なぜ理学療法士の給料はそんなに安いのか?というところは書かれていません。
普通に考えると、「超高齢化時代に突入する日本で、リハビリの需要はどんどん増えていくのに、なぜ給料が安くて昇給も少ないの?」と思っても不思議ではありませんよね。
実は、ちゃんとした仕組みがあって、この390万円という平均給料になっています。
この仕組みを理解することで、給料に不満を持って病院や施設で働いている理学療法士も納得できるかもしれないし、あるいは、もっと違う方法で収入を上げようと前向きに考えることができるかもしれません。また、これから理学療法士という職業に就こうと思っている人が、よりこの仕事について深く考えるきっかけになるかもしれません。
理学療法士の学校に通うと最低3年、平均的には4年は専門的に勉強する必要があります。それから就職して、やっぱりなんか違う・・となってしまうと本当に掛けた時間とお金がもったいないですよね、
人件費率とは
まず、知っておいて欲しいことは、組織における「人件費率」についてです。
人件費率とは、経営者が経営する時の指標として使うもので、人件費÷売上で算出されます。賃金・賞与、福利厚生など全てを含むものを『人件費』といいます。売り上げはそのままの意味で、その組織の収入のことですね。
以下に人件費の一般的な割合を記載します。
小売業の平均売上高人件費率
- 調剤薬局 21.2%
ガソリンスタンド 7.7%
家電小売り業 13.9%
魚屋 19.1%
肉屋 19.5%
酒屋 9.0%
化粧品小売 26.2%
アパレル 20.3%
花屋 29.4%
時計、メガネ屋 27.5%サービス業の平均売上高人件費率
- 美容業(エステ) 49.8%
美容室、理容室 54.3%
パチンコホール 4.8%
広告制作業 25.6%
広告業 20.4%
受注開発ソフトウェア業 45.6%
情報処理サービス 55.1%
経営コンサルタント 54.1%
建築設計 42.8%
訪問介護、ヘルパー 65.5%
ビルメンテナンス 57.5%
人材派遣業 62.4%
病院(入院施設無し) 51.9%
病院(入院施設有り) 49.6%
歯科医 54.4%
獣医 45.8%
鍼灸師、按摩マッサージ師 54.4%
クリーニング 44.9%飲食業の平均売上高人件費率
- ラーメン店 35.2%
料亭 37.3%
中華料理店 39.7%
居酒屋 36.2%
食堂、レストラン 33.3%
そば・うどん 38.5%
寿司屋 32.8%
キャバクラなど 56.4%引用)社長が見るブログ
他のサイトでも検索してみましたが、およそこんな感じです。(この数字が本当か確認したい方は、ご自身で一度「人件費 割合」でググってみて下さい。およそ同じはずです。」)
見て頂くと分かりますが、
- 小売り
- 飲食業
- サービス業
の順に人件費率が上がっている傾向が伺えますね。(キャバクラは異常に高いですが、ちょっと特殊で飲食業よりもサービス業に近いですよね。)
これは「コストの違い」に起因します。
小売業などの「モノを直接販売する」仕事は、物品の仕入れが必要で、在庫も抱えざるを得ないため、どうしてもサービス業と比較するとコストが掛かってしまいます。
結果、売上のうち人件費にかけられる割合が落ちてしまい、小売業で一番高い花屋でも29.4%です。ガソリンスタンドに至っては消費税より安い7.7%です。
酒屋とガソリンスタンドが著しく低いのは税金も関係していそうです。これらの職種はよっぽどたくさん、商品(モノ)を販売しないと利益が出にくいと言えます。
このデータを見ると明らかですが、介護職や整体師などの職業はモノをそれほど買う必要がなく、人が中心に行うサービスなので、人件費率(売上に占める人件費の割合)がすごく高いです。美容師とか「手に職系」は高い傾向がありますよね。
少し極端な表現ですが、整体師や私たちのような理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストは、「手に職系」であり、極論を言ってしまえばベッド一つあれば開業できますしね。
療法士一人が年間で売り上げる額はおおよそ一千万円!
上述の表を見ると、私達療法士は病院で働いている場合、売上の内、50%程度は貰えるはずとなります。では、療法士がひと月働いて、病院に収める売り上げはどれくらいでしょうか?
病院や施設で働く療法士の場合で試算してみます。
売上の元になる診療報酬額を以下に記載します。(2017年現在)
「脳血管疾患等リハビリテーション料」
- 1 脳血管疾患等リハビリテーション料(I)(1単位)
- イ ロ以外の場合 245点
- ロ 廃用症候群の場合 235点
- 2 脳血管疾患等リハビリテーション料(II)(1単位)
- イ ロ以外の場合 200点
- ロ 廃用症候群の場合 190点
- 3 脳血管疾患等リハビリテーション料(III)(1単位)
- イ ロ以外の場合 100点
- ロ 廃用症候群の場合 100点
「運動器リハビリテーション料」
- 1 運動器リハビリテーション料(I)(1単位) 175点
- 2 運動器リハビリテーション料(II)(1単位) 165点
- 3 運動器リハビリテーション料(III)(1単位) 80点
引用)医科診療報酬点数表
ちなみに、1点は10円です。
脳卒中の患者さん(脳血管系疾患Ⅰ)を40分(2単位)リハビリしたとすると、245×2=490点、つまり4900円の売り上げになります。1日18単位のリハビリをこなすとしたら、245円×18=4410単位。
1点は10円なので、
脳卒中の患者さんばかり診ている療法士は、1日で4410単位=4万4100円の売り上げを挙げていることになります。
実際には脳卒中の患者さんだけを診るという事はないと思うので、半分が整形疾患の患者さんだと仮定すると、
- (245×9)+(175×9)=3780単位
療法士一人当たり一日に3万7800円を病院に売上として収めている、ということになります。
月単位でも計算してみます。
1日18単位で3万7800円の売り上げ、完全週休二日で計算、月20日出勤するとします。
- 3万7800×20=75万6000円
療法士一人当たり月に75万6000円の売り上げです。
これを年間で計算すると、12か月でなんと、9百7万200円の売り上げです。およそ1千万円プレーヤーですね。
療法士が30人いる職場なら、リハビリ業務だけで年間2億7千200万円程度の売り上げが病院に入ってくる、ということです。(もちろん単純計算なので、それ相応の患者さんがいることが前提です。)
100人近く療法士がいる病院もあるので、リハビリによって年間9億円近く病院に入っているところもあります。
医療保険は大体3割負担なので、9億円の7割、およそ6億3千万円、その規模の病院には国がお金を払っていることになります。(生活保護の方もいるだろうし、本当に概算ですが。)そりゃ診療報酬下げられるわ・・・って思いませんか?
実際は諸々の加算などがあるので、もう少し売上げがあるのではないかと思います。加算に関しては企業努力の範囲なので「頑張ってください!」と職場に言うしかありませんね・・。
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人件費率を試算して出てくる療法士の適正な年収
私達療法士はサービス業に分類されるので、上記の表より、人件費率約50%程度が正当な報酬と言えるのではないでしょうか。なので、9百7万200円の半分、おおよそ年収453万円が正当な報酬と言えそうです。
上述のように、全国の療法士の年収の平均は、年収ラボによると390万となっています。差額、約63万。平均給料390万円の売り上げにおける人件費率を計算すると約42%です。約8%低いです。(消費税分くらいですね。)
・・・・しかし、重要なことが抜けていました。
人件費には福利厚生も含まれるため、実際の給料以外に正社員の厚生年金なども組織が払っています。その割合(福利厚生費)がおおよそ全職種で平均して15%程度とのこと。(知り合いの詳しい方に聞きました。)
それを考慮して計算し直すと、療法士の適正給料は、453-(453×0.15)=385万円
年収ラボに記載されている療法士の平均給料390万円は、まぁ、妥当であるという結果になりました。
これで分かったことは、この平均給料以下で働いている療法士の職場は、何かしら問題があるのかもしれない、ということです。
現在、平均年収以下(390万円以下)で働いている療法士は職場が本当に適正な報酬を検討してくれているのか、一度上述の考え方に習って計算してみると良いと思います。
人件費率を考える際のポイント
介護職もこれだけ人件費率が高い(上述のように、訪問介護、ヘルパー の人件費率65.5%)のに、給料が低いから離職率が高い、って良く言われていますよね。
なぜでしょうか。
ポイントは、
- 労働組合の有無
- コスト
です。
労働組合の有無
介護・医療従事者の働く職場って、一般企業よりも労働組合がないところも多いです。労働組合がないところは給料交渉がほとんど不可能です。結果、なかなか働く人たちの給料が是正されません。
もちろん全ての労働組合が正しい働きをしているとは言えないので、「労働組合があるから安心」ってわけではないですよ。でも、ないよりはましでしょう。
コスト
あとはコスト。
例えば介護職では訪問介護・ヘルパーが人件費率が高いのですが、これは病院・施設系に比べてコストが明らかに少ないからです。訪問系の仕事は、事務所に籍をおいて、訪問先で仕事をするので、施設系の様に設備投資が必要ありません。
言い方は悪いですが、ボロボロの家賃3万円のアパートを事務所にして、訪問介護のヘルパーを派遣することもできるわけです。同じ理屈で人材派遣業も人件費率62.4%と高いですよね。
病院では院内を掃除・清掃するにも専門の業者を入れたり、最新の設備を購入したりしてそれを維持しなければなりません。何かとコストがかかります。ヘルパーの事務所だったら、最新のMRIの機械を購入する必要もないし、事務所の掃除は自分たちで終業10分前にやれば十分です。
理学療法士・作業療法士が転職先を探す時に絶対に考えておきたいポイント2つ!
以上のことから、就職・転職する際には、
- 労働組合があるか
- コストがどれくらい掛かっていそうか
のポイントを調べておくと人件費率の高いところ=正当に評価してくれるところに就職しやすい、と言えそうです。
リハビリだったら、大げさな機器が必要でなくて、さらに療法士を派遣する訪問看護ステーションの訪問リハビリなどがコストが低いです。
是非実際に調べてみて下さい。比較的給料が良いはずです。
参考)『体験談』訪問リハビリへの転職「訪問看護ステーションの選び方と求人の探し方について」
同じ訪問リハビリでも、病院に併設している訪問看護ステーションは母体である病院の運営にコストがかかるため、あまり給料が良くないでしょう。
一方で、経営状態の悪い施設系は給料が少ないはずです。
経営状態が悪いというのは、この場合(人件費率を考慮する場合)、コストが掛かり過ぎているということです。
具体的には、
- やたら最新の設備がある。(売上に貢献するような設備なら良いですが、そうでもないものに投資している)
- 代々の親族経営で医師が経営者(経営に関して多くの場合医師は・・それ以上は言えませんが。。親族経営の場合は病院を私物化してしまうことも多い…かも知れません。)
- 経営者がワンマン(売上・人件費率、費用対効果関係なく、自分の好きなものに投資する。周りの反対意見は関係なし。)
- 設備がやたらキレイ、掃除が異常に行き届いている(維持費がかかり過ぎ。もちろんある程度は必要ですが程度の問題。)
こういったところは給料が安い可能性があります。
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未来の療法士は、「職場を選ぶ」という意識を強く持つべき
巷では将来、「診療報酬が下がって療法士の給料が減っていく」と言われていますが、それはある程度仕方のないことです。時代の流れですから。しかし、実際に療法士の給料を決めているのは国ではなく、所属する組織です。これを忘れないで下さい。
診療報酬ばかりが話題になりますが、施設系で働ている療法士は、人件費率は適正かということを考えて、あまりにも不当な給料しか支払われていない場合は、ほかの職場を探すことも検討すべきべきだと思います。
医療従事者は、本当に優しい人が多いので、こういったいわゆる「裏側」をあまり気にせず、患者さんの為に精いっぱい頑張っている方が多いと思います。患者さんのみを「凝視」している状態です。だって、私達がこの仕事を目指したのは「仕事を通して人の役に立ちたい」という気持ちが強くあったからですよね。
綺麗ごとではなく、決して「お金を稼ぎたいから」ではない。それは良く分かります。
でも、一方でその裏側への無知が、現在の理学療法士や作業療法士など療法士の待遇を招いているとも言えるのではないでしょうか。
不当に給料が少ない職場でも、職場が求人を掛ければ人が来ると言う現状が、そういった職場を社会的に肯定していることになります。平均給料以下の職場に就職・転職する際は、本当によく考えて下さい。
自分のことだけでなく、その選択が療法士全体、あるいはこの業界の将来を左右する可能性もあることを。不当な給料しか支払わない職場には、みんなで距離を置き、社会的にNO!という事で、この業界が正当な給料を検討するように変革していくかもしれません。
転職とは、あなたの周りの人を喜ばすことを考えて「職場を選択」するということ
もちろん給料だけを求めて職場を選ぶわけではないです。給料は一旦おいといて、勉強になりそうだからその職場に就職した、ということもあるでしょう。実際に私もそうでした。
でも、あなたもきっといつか結婚して、かわいい子供が生まれるかもしれませんよね。自分が勉強して患者さんにその成果を還元できた分、自分にも、いや自分の子供達にもその恩恵が欲しい、と思うように必ずなります。
これは仕事観の問題なので、人それぞれで、私が他人にとやかく言うことではないですが、この仕事を選んだあなたは、「自分の周りの人を喜ばすこと」が好きなはず。
その時、一番近くの「周りの人」は、愛する自分の家族です。自分の仕事を通して、患者さんだけでなく、家族をもっと喜ばせてあげたいと思うようになるはずです。その時にやはり、給料が低い職場では限界があります。
転職で人生のステージに見合った収入を得る
過去には独身だったあなたも、いずれ家族を養うようになるかも知れません。でもリハビリ業界はほとんど昇給がありません。普通に働いていると給料が上がりにくい業界です。努力は関係なく、構造上そうなっています。
じゃあ、人生のステージに見合った年収を得るためにどうすれば良いのでしょうか?一番簡単に給料を上げる方法は”転職すること”です。ちゃん転職先を選べば、翌年には確実に年収が上がります。
転職を検討されている方は、リハビリ職専門の転職支援サイトもあります。
この転職支援サイトはそこらの求人サイトとは違って、登録することで転職エージェントと呼ばれる専門家があなたに担当として付きます。
エージェントは、転職に伴う面倒なことをあなたの代わりに行ってくれます。(例えば、あなたのかわりに希望条件に合う職場を探してくれる、など。)
参考までに以下にご紹介しておきます。私も転職した際に全て登録して良い案件を探しました。(もちろん無料で登録できます。)
各サイトによって紹介している案件が違うので、全て登録して案件を比較検討するとよいと思います。転職は情報量が多い方が断然有利ですし、サイトによっては就職お祝い金がもらえたりします。 スマホで5分あれば登録できるので、使わない手はないでしょう。
病院の多くが赤字経営な今、医療業界の経営手法は見直されつつあります。社会保障費や診療報酬は、この超高齢化社会に急速に突入している日本では下げられるのが妥当な見解だと私は思います。
療法士は年々増えていると言われていますが、あと10年もすれば、若者の人口は急激に減っていきます。給料の下がった療法士に成りたいと人が殺到すると私は思えません。
入ってくるお金が減り、働く人もいなくなるかも知れない病院は、人件費率を上げて(給料を上げて)人を呼ぼうとするかもしれません。
診療報酬は減り、でも人件費率を上げたい。そうすると、病院に残された手段はコストを下げるしかありません。
これからは、親族経営の医師が経営するのではなく、きちんと「経営のプロ」を置いて、人件費率の適正化やコストダウンをしっかり行って経営を健全化していくことが社会的に求められてくるでしょう。
これは私見で具体性もなにもないですが、先ほどの考察でいくと、遠隔診療を行う病院でもあれば、大幅にコストを下げることが可能かもしれません。もし、そのような技術が開発されれば、需要もあるため爆発的に広まるでしょうね。
今後、地域のリハビリにおいて訪問看護ステーションの訪問リハビリではなく、病院併設型の訪問リハビリを国は広めたいようですが、遠隔診療とセットでそれが実現するなら、人件費率も上がる可能性が高く、療法士の未来も明るいのかもしれません。
>次の記事は「理学療法士の転職を絶対成功させるための3つのステップ」です。
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