
リハビリでは筋トレが行われることが多いです。また、患者さんから、「筋トレは毎日した方が良いの?」、「どれくらいの回数行えばよいの?」とよく聞かれます。
今回は、筋トレの原理を解説し、そこから適切な回数や頻度について詳しく説明していきます。
筋力トレーニングの目的を再確認
まずは、筋力トレーニングの目的を再確認します。
なぜ筋トレをするのか?というところですね。
筋トレを行うことにより、筋繊維が一度破壊され、その後に筋繊維の肥大、神経の促通が起こり、筋肉が収縮した時のパフォーマンスが向上します。
筋トレには”ヘンネマンサイズの法則”が適応され、
- 最大数の運動単位が同時に働く。
- 遠心性インパルスが同期する。
- 運動単位の活動リズムが同期する。
以上の項目を満たす必要があります。
少しわかりにくいですが、つまり、一度の運動で参加する筋繊維の数を増やすことが重要(最大筋力に相当する負荷が必要)ということです。眠っている筋肉を起こすイメージです。
最大筋力に満たない負荷では、全ての運動単位が参加しません。
一部の運動単位が疲労すると他の運動単位に交代し、長期的に活動できるようになりますが、これは筋持久力の範囲になり、最大筋力を増加させる筋トレになりません。
しかし、実際のところ最大筋力の負荷を与えることはかなり困難です。
本当の最大強度の負荷とは、強靭な精神力と筋活動の高度の統合を必要とし、かなりしんどい運動になります。
スポーツ選手が顔を真っ赤にして、ダンベルを持ち上げているのをテレビなどで見たことがあるのではないでしょうか?
あれくらいリキんで、頭の血管が千切れそうなくらいの負荷が本当の最大強度の負荷と思ってもらって良いと思います。
一般人や高齢者が多いリハビリの臨床において、それだけのものを要求するのは少し無理がありますよね。
また、最大負荷での運動は怪我と隣り合わせで、関節や筋肉を損傷する可能性も高いです。
(よくスポーツ選手は怪我で悩んでいますよね。)
そこで、最大筋力に近い負荷を繰り返す、と言う方法が一般の筋トレやリハビリの臨床では頻繁に行われます。
筋トレでの適切な回数は?
筋肉を収縮させる筋トレの方法の違いによって適切な回数の考え方は異なります。
等尺性運動の場合
”ダンベルを持ってキープするような運動”である等尺性運動では、回数はカウントできません。持続時間で負荷を調節します。
最大筋力の40%以上、効率良く筋力増強しようとすれば60%以上の負荷が必要と言われています。
必要な筋収縮の持続時間は負荷の量が減少するにつれて延長します。
40%の負荷では20秒の持続時間、60%以上の負荷では10秒の持続時間が必要です。
結構長いですよね。
しかし、臨床においては長時間臥床状態にあり、立って動く機会が無かった方は、リハビリの中で立ったり、歩いたりするだけでも自然と同程度の負荷が掛かることも多いです。
全身的な運動による筋活動に伴い、局所の栄養状態の改善も相まって、ある程度は自然に回復していくと言われています。
等張性運動の場合
”ダンベルを上げたり降ろしたりする”ような等張性の運動では、等尺性の運動よりも負荷量は考慮しやすいです。
等張性の運動では回数がカウントでき、RMと言う概念が適応できるからです。
筋トレは何回やったら良いのかと質問される方は、こちらの等張性運動の筋トレのことをイメージされているのだと思います。
等張性運動でも、1RM(1回しか運動が行えない位の負荷)を基準として、等尺性の運動と同じく、約60%以上の負荷が必要だと言われています。
それでは、実際のところどうやって筋トレの回数を設定したら良いのでしょうか?
特によく行われる徒手抵抗の場合で考えてみます。
以下の表を見て下さい。
■1RMに対する負荷量と可能反復回数
1RMに対する負荷量 | 反復回数 |
100% |
1 |
95% | 2~3 |
90% |
4~5 |
85% | 6~7 |
75~80% | 8~10 |
80%以上の負荷を与えたい場合、約10回、何とか繰り返すことができる運動負荷量が良いということになります。
11回以上できる運動であれば、それは負荷が少なすぎるということです。筋トレの効果は望めません。
さらに、10回を超える運動負荷では筋疲労よりも先に精神疲労が生じるとも言われており、負荷量の判定に用いるのも困難と言われています。
なので、20回、30回と回数だけ増やしてもあまり意味がないことがお分かり頂けると思います。
運動強度と運動エネルギー
ちなみに、運動強度と運動の反復回数を掛け合わせると、使用する運動エネルギーを計算できます。
■等張性筋力増強運動の負荷量と運動エネルギー
運動強度 | 運動エネルギー |
1RM | 100x1=100 |
3RM | 95x3=285 |
5RM | 90x5=450 |
10RM | 80x10=800 |
1RMの運動エネルギーを100%とすると、3RMなら95%の負荷を3回ということになり、285%の運動エネルギーを使用するという事になります。
臨床においてよくあるのが、療法士は筋力訓練をむやみやたら反復して行ってしまい、無駄に疲労を蓄積させてしまうことがあり注意が必要です。
以上のことを理解した上で、筋トレの頻度と回数について考えていきます。
筋トレによる「筋肥大と超回復」
上記のことを理解して頂けると、筋トレとは、最大負荷に限りなく近い負荷量で運動を行い、筋繊維を破壊し、眠っている筋肉を呼び覚ますことであることがご理解いただけると思います。
筋トレによる大きな負荷で筋繊維が破壊されると、超回復と呼ばれる現象が起きます。
超回復とは、以前と同じ負荷で筋繊維が破壊されない様に筋繊維を太く、強くする生理的現象のことです。
この超回復によって、筋肉が元の状態に戻り、さらに強い筋繊維に成長するまで、最低2~3日かかると言われています。
この時に起きるのが一般的に言われる「筋肉痛」です。
筋肉痛は筋繊維がパワーアップしている証拠なんですね。
筋トレの頻度「筋トレは毎日ではなく、週に2.3回で良い」
よって、筋トレによる筋肥大効果を狙うなら、「毎日筋トレを行うのが良いか?」という質問に対して、「最低3日程度開けて、筋肉が回復するのを待ってから、適切な負荷の筋トレを行うと良い」が答えになります。
よって、ちゃんと負荷を考慮した筋トレを行うならば、「週に2.3回の頻度で良い」ということになります。
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筋トレを効果的に行うコツ
その他にも筋トレは以下の項目に注意して行いましょう。
- 高負荷で、少ない回数しか行うことのできない負荷を与える。
- 1セットの訓練では充分な刺激量を与えにくいので、数回に分ける。(3~5セット程度)
- セット間の休憩は30秒~1分程度が良いと言われている。(筋肉中のクレアチンリン酸によるATPの再合成は、30秒で約半分補充されると言われている。)
- 最大伸張位から最大短縮位に及ぶ運動(関節の運動範囲をできるだけ大きく動かすこと)にすること。これにより多くの筋繊維に刺激を与えることができる。
今後は「筋トレも自動できる時代が来る」と思う
ここから少し私の臨床経験で筋トレについて思うことを書かせて頂きます。
筋トレって結構しんどいことなので、続けられない人がほとんどなんです。
そして続けないと絶対効果が出ない・・。
筋トレや運動を適度に行うとみなさんご存じのとおり本当に体に良いことがたくさんあります。
- ダイエット
- 健康維持・増進
- 認知機能の賦活
- 精神的なリラックス(うつ病にも効果あり)
- 活力(疲れにくくなる)
などなど。
2016年現在、日本の人口の26%が65歳以上です。
今後、少子化で総人口が減少する中で高齢者はさらに増加していきます。
2035年に33%で3人に1人、2060年には39%に達して、国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されています。
このような社会の中で、健康や運動についての社会的な興味関心はどんどん強くなっていくことが予想されています。
それに伴い、市場もそちらの方(ヘルスケア分野)に注力し、色々な商品が開発・販売されるようになるでしょう。
「筋トレは意思に関係なくできる」ようになっていく
私がリハビリの臨床で色々な方に筋トレの指導を行っていて、一番強く感じる問題点は、
「筋トレはできる人はできるし、続けられるけど、できない人は本当にできないし、やらない」
ということです。
現段階では、社会的には自身の健康に関して、運動や筋トレを自主的に行って体調をコントロールできないことは、「本人の意思だからしょうがない」という暗黙の了解があるように思います。
しかし、今後、高齢化に伴い社会保障費が増大していく可能性が高い日本で、筋トレができない・続けられない方でも何らかの方法で運動や筋トレを行って健康を自身で管理・維持していく必要があると私は思っています。
一人が健康を損なうと、みんなの共有資源である税金が社会保障費としてそこに注ぎ込まれることになりますよね。
「自分の健康が社会貢献に結びつく」
今後、社会構造の変化に合わせて、そういった認識が一般的に広まってくるのではないかと思います。
もちろん、だからといって運動したくない人に無理やり運動・筋トレさせるなんて原始的・野蛮なことをするのは社会の進歩に逆行することで、私は絶対に反対です。
まとめ
話を戻して、現在の筋トレの方法についてまとめます。
筋トレを毎日行う必要はありません。
一度筋トレをしたら、超回復を待って、2.3日おきに適切な負荷でトレーニングを継続しましょう。
適切な負荷とは、
- ダンベルなどをキープする等尺性の筋トレなら最低10秒間以上保持すること
- ダンベルを上げたり降ろしたりする等張性の筋トレなら、10RM(10回程度しか動かせない重さのものを10回動かす)
が目安となります。