
変形性膝関節症や、膝関節に疼痛のある方に有効なリハビリの大腿四頭筋のトレーニング方法である「パテラセッティング」
効果的に行うには実は少しコツがいります。リハビリの臨床で明日から使える、効果的な実施方法をご紹介します。
パテラセッティングとは?
大腿四頭筋を鍛えるトレーニング方法の一つです。大腿四頭筋は、ふともも前面にある筋肉で、
- 大腿直筋
- 外側広筋
- 内側広筋
- 中間広筋
の総称のことです。
参考:リハビリの専門家が説明する,大腿四頭筋の筋トレとストレッチの方法


パテラセッティングとは、後述のように、鍛えたい足の膝の下に枕やタオルを入れ、グッ~!と床に押し付けるように膝を伸ばして行うトレーニング方法のことです。リハビリの現場では非常に有名で、多用されるトレーニング方法で、それほど需要があるトレーニングだと言えます。
なぜリハビリの臨床で多用されているのか?
これほど有名なトレーニングでリハビリの臨床で多用されるにはそれなりの理由があります。
理由1.疼痛が出にくい
パテラセッティングは、大腿四頭筋の等尺性の筋収縮を促すため、変形性膝関節症などで疼痛がある方にも実施しやすいトレーニング方法です。
変形性膝関節症などで膝が痛い方は、とにかく膝の関節動かすと痛みが出現することが多いです。
そういった方に、疼痛を誘発しやすい関節運動を伴うことなく実施できる運動がパテラセッティングです。
変形性膝関節症で疼痛がある方の割合は、全体の約20%といわれています。しかし、臨床でリハビリを行う方は比較的重症の方が多いので、結構な割合で膝関節に疼痛を訴えられる方が多いのです。
理由2.肢位に囚われず、手軽に実施できる。
仰臥位はもちろん、膝関節伸展位で保持できる肢位であれば実施可能なので、立位や腹臥位でも簡単に行うことができます。また、トレーニング機器を必要としないため、せいぜい、
- タオル
- セラバンド
などがあれば手軽に実施することができます。
理由3.負荷量の調節が容易
大腿四頭筋の等尺性収縮を促す、パテラセッティングでは、負荷量を収縮時間で調節することも多いので、負荷量の調節が簡単です。
理由4.特別な物品を必要としない
タオルを使う場合もありますが、後にご紹介する方法であれば、特別に道具を用意する必要がありません。時間を充分に取れないリハビリの臨床において、まさしく「時は金なり」です。手軽な方法で有用なものは当然重宝がられます。
パテラセッティングの適応
大腿四頭筋を鍛えたい方や変形性膝関節症による疼痛がある方に実施すると効果的です。変形性膝関節症の疼痛は骨の変形に伴う物理的ストレスによるものであることが多いので、例えば立ち上がり動作や、歩行などの膝関節に荷重がグッとかかる時に疼痛が発生しやすいです。
特に歩行中では歩き始めに疼痛を訴えられ、しばらくすると軽減することが多いので、”Starting Pain”と呼ばれます。

詳しくはこちら→変形性膝関節症のリハビリ 評価・運動療法 まとめ
肢位別パテラセッティングの実施方法
肢位別にパテラセッティングの実施方法をご紹介していきます。
基本的にはどの肢位でも膝関節を伸ばしてそのまま保持するだけです。目安としては10秒から20秒位を10セットです。
背臥位

膝関節の下にタオルを丸めて入れるか、タオルがなければ写真のように手をグーにして膝関節の下に入れて、「私の手を地面に押し付ける様に、膝をグッーと伸ばして下さい。」と患者さんに指示して下さい。
立位
平行棒などにセラバンドを巻き付けて利用する方法、壁にボールを押し付ける方法などがあります。
私は、ボールを壁に押し付ける方法をよく行います。(セラバンドを平行棒に巻き付け、結ぶ時間を短縮するため)
腹臥位
腹臥位で床から膝頭を地面から離すように指示するだけです。
股関節が内外旋している状態で始めると、膝関節に回旋ストレスが加わるので疼痛を誘発しやすくなります。股関節は正中位で行うようにして下さい。
腹臥位が取れる方は、背臥位よりも腹臥位でパテラセッティングを行う方が負荷が高いとの報告もあります。つまり、効果的な場合も多いそうです。
しかし、実際のリハビリで実施している人はあまり見かけません・・。恐らく腹臥位を取れる患者さんが少ないからだと思います。
パテラセッティングでは内側広筋を意識することが重要
変形性膝関節症の方の場合、下腿のアライメントが内反していることが大変多いです。(日本人はほとんどの方が内反変形だそうです。)いわゆるO脚ですね。
O脚になると、立位や歩行で荷重した時に膝関節の大腿四頭筋のうち、内側広筋の収縮が物理的に入りにくくなり、萎縮が起きやすいと言われています。

理学療法士同士の会話を聞いてみて下さい。「アライメントが~」などと頻回につぶやいている場面が多々あります。アライメントは直訳すると”配列”の意味で、私達理学療法士はこのアライメントを常に意識しながらリハビリを行っています。骨や筋肉が何百も精巧に組み合わされている人体を臨床で相手にするとき、骨のアライメントを整えて運動をすることが大変重要です。
なぜなら、抗重力位で狙っている筋肉に収縮を促すことができるかどうかは、ほぼアライメントで決まるからです。
内側広筋の筋力低下は膝関節の完全伸展が困難な、Extension Lagの原因と言われ、膝関節最終伸展域の運動を行うために需要な役割をする筋肉です。膝関節周囲の固定性を高める運動が変形性膝関節症の方には重要ですが、この内側広筋を鍛えると効果的に膝関節周囲の固定性を高めることができます。
変形性膝関節症の方にパテラセッティングを行う際、この内側広筋を意識してトレーニングすると効果的です。
内側広筋の解剖
大腿四頭筋を構成する筋の一つで、大腿四頭筋の内側部に位置します。
・停止:大腿四頭筋の他の筋と合流して大腿四頭筋腱となり、膝蓋靱帯を経由して脛骨粗面の前面に停止する。
一部の線維は膝蓋骨を経ず、内側膝蓋支帯を経由して脛骨内側顆へ停止する。
・支配神経:大腿神経 (L2-L4)
・栄養血管:大腿動脈
・作用:・股関節:屈曲、・膝関節:伸展
・拮抗筋:ハムストリングス
パテラセッティングで内側広筋を選択的に収縮させる方法
普通に何も意識せずにパテラセッティングを行うと、大腿直筋か外側広筋が優位に働きます。変形性膝関節症の方に実施するのであれば、ぜひとも以下のやり方で、内側広筋を意識して収縮させて下さい。
1.股関節内転・内旋で行う
肢位に限らず、股関節内転・内旋位でパテラセッティングを行うと効果的に内側広筋を収縮させることができます。立位でも同様です。
つま先を少し内側に向けると自然と股関節が内旋・内転することが多いです。
2.膝蓋骨を内側へ徒手的に偏移させる
膝蓋骨を徒手的に内側へ偏移させながらパテラセッティングを行うことでも、選択的に内側広筋に収縮を促すことができます。
3.足関節を背屈させながら行う
患者さんには膝関節だけでなく、足関節を背屈する様に促して下さい。より内側広筋に収縮が入りやすくなります。
まとめ
私が理学療法士になりたての頃は、膝関節に限らず、患者さんに疼痛が出る運動を行ってもらうのが可哀想で、申し訳なくて、どうしたら良いのか非常に悩んだ記憶があります。
しかし、関節運動で疼痛が出現する場合は、等尺性の運動を行うことでかなり疼痛が出にくいことが分かってからは、疼痛をあまり気にすることなく運動を促せるようになりました。
運動して欲しいのに疼痛で実施できない・・と悩む理学療法士は、今回の記事を参考にして欲しいと思います。
ベーシックな運動やストレッチにこそ、臨床経験やそのセラピストの質が現れるものだと私は思っています。内側広筋を鍛える目的でパテラセッティングを行う際は、股関節内転・内旋位で、膝蓋骨を内側に偏倚させ、足関節を背屈させながら行ってみて下さい。
(参考文献.パテラセッティングにおける膝蓋骨の内側偏移が内側広筋斜頭及び外側広筋に与える影響 金谷幸恵,市橋則明)