
レジリエンスと言う言葉をご存じでしょうか?
どんな凄い人でも必ず失敗しています。 凄い人は何が違うのかというと、失敗から立ち直る力が普通の人と違います。
レジリエンスとは、もともと環境学で生態系の環境変化に対応する「復元力」を表す言葉として使われていたものです。
それが発展し、最新の現代心理学で「精神的な回復力」や「困難に打ち勝つ心の力」、「挫折から回復・復元する弾力性」を表す言葉として使われ始めました。
困難に直面したとき、頭の良さ(IQ)や学歴に関係なく、失敗を恐れずに果敢に挑戦できること、それがレジリエンスです。
ビジネスの場面を想定して使われることが多いようですが、じつはこれ、リハビリで患者さんにも使える概念です。
リハビリの対象となる方は、病気や怪我で苦しんでいる方です。
つまり、逆境から立ち直ろうとしている方を対象にしています。
患者さんのレジリエンスを高めるコツを掴んでいれば、より、リハビリの成果を上げることができるかもしれません。
もちろん、これは自分の仕事にも活かせる概念です。
昨今の技術の進歩や情報の革新は凄まじく、昔であれば一つの技能を身に付ければそれで長い間仕事をこなしていくことも可能でした。
しかし、現代では、様々な分野の様々な知識を持ち、横断的に仕事を考え、想像し、こなしていくことが求められています。
要するに、周りに合わせて変化していくことこそが、今後の仕事をしていく上で必要なことになってきます。
変化に失敗はつきものです。どんな凄い人だって人知れず失敗を繰り返しています。
失敗を恐れていると変化することができなくなります。
よって、「失敗しても変化を続けられる人が持つ力」に最近関心が向けられているのです。
その中での一つのキーワードがこのレジリエンスです。
障害受容の過程
人は障害を負った時、下記のような心理的過程を経て、現実を容認して行くと言われています。
①否定(これは私ではない)
② 回復への期待(私は病気だ。しかし、すぐに治る)
③ 悲嘆(すべてが失われた)
④ 防衛
a(健康的:障害をものともせずにやっていこう)
b(神経症的:障害の影響を否定するために防衛機制を多用する)
⑤ 適応(皆と少し違っているだけで悪くはない)
この障害受容の段階を早く進めて、現実に立ち向かう前向きな姿勢を身に付けてもらうことがリハビリでのレジリエンスです。
脳卒中の患者さんであれば、プラトーは6か月と言われています。
その中で、上記の過程を経て障害受容に至るまでの期間が短いかどうかでリハビリの効果は大きく変わります。
レジリエンスの高い方が、よりリハビリを積極的に受けることができるでしょう。
リハビリと意欲の関係は様々な文献で述べられており、「回復期の入院時の意欲が、積極的なリハビリに重要」とされています。
参考)http://www.congre.co.jp/jpta48/jpta48_ver4/pdf/P-B_shinkei-006.pdf
わざわざ文献で確認するまでもなく、臨床で数年働いていれば、リハビリへの意欲が患者さんの回復に大きく影響することは誰でも納得できる事実です。
それではレジリエンスを高めるためにはどのようなことに注意して、リハビリを行っていけばよいでしょう。
レジリエンスを高めるために必要な要素
逆境をものともせず立ち向かっていく、そんなハートを持つためには多少の知識が必要なようです。
以下にその要素を順番に記載していきます。
これらは全て後天的に努力すれば獲得できるとされています。
思考の柔軟性を持つ
どんな状況にあってもネガティブな面だけを見るのではなく、その中にポジティブな面を見る。
これがレジリエンスの根幹です。
短所は長所にもなり得るし、物事を注意深く観察すると表裏一体だという事にみなさん気付かれるでしょう。
断定的な見方をする人や自分の力を過小評価する人、目の前の失敗にとらわれすぎる人は逆境に対して挫けやすくなってしまいがちです。
リハビリを受けられる患者さんはご高齢の方が多く、なかなか思考の柔軟性を高めることは難しいかもしれません。
しかし、目の前の病気や疾患から療法士が一時的に目を逸らすように先を提示することで、リハビリへの意欲は高めることができます。
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感情をラベリングする
一昔前に心の知能指数「EQ」という概念が流行しました。
EQは、純粋な頭の良さ「IQ」よりも社会生活において大切だと言われており、自分の感情に自ら気付き、コントロールし、他者との調和を図る社会的な力のことです。
意外と自分の感情が何なのか分からず、何となくイライラしている人って多いです。
レジリエンスもEQと同じように「まずは自分の感情に気付くこと」が大切だと言われています。
誰でも、何かネガティブなことが起きた時にはどーんと気分が沈みます。
その時に気分は右肩下りで落ち込みますが、ある一点を境に徐々に回復していきます。
この一点が、「底打ち」と言われ、この時にラベリングをすることで早く気分を回復させることができます。
ラベリングとは感情を自覚し、その感情にラベルを貼るように名前をつけることです。
頭の中でモヤモヤしたものに対して、「これは悲しみ、これは嫉妬、これは寂しさだ」とラベリングしていくのです。
人間は認識できないものに対処法を見出すことはできません。
不定型な問題を言語化し、見える化する技術がラベリングです。
患者さんの話を傾聴し、それはどんな感情なのか言葉にして考えてみて下さい。
気晴らしを意識的に行う
ラベリングして嫌な出来事を認識できたら、次の段階では一度そこから離れることが必要です。
しかし、頭で考えても簡単に断ち切れるものではありません。
そこで「気晴らし」を効果的に行うことが必要です。
コツとしては体を使ったスポーツ、散歩などがおすすめです。
化学的に立証されている「気晴らし」には下記の4種類があります。
◇科学的に有効と言われている「気晴らし」
①ダンス、ジョギングなどの運動系
②好きな音楽を聴く音楽系
③ヨガや瞑想、散歩など、呼吸を意識した静かな環境に身を置く呼吸系
④日記や手紙などを書く筆記系
リハビリをする患者さんは①の運動系をリハビリの中で行っています。
音楽を聴きながら体を動かすスリングセラピー(レッドコードセラピー)なども①と②が融合して良い気晴らし効果が得られそうですね。
不安になったり、やる気が出ない時にとりあえずこれらの気晴らしを試してみると、気持ちが少し楽になります。
そこから初めて逆境からの立ち直り方を冷静に考えることが可能になります。
思い込みに気付く
ラベリングし、感情を捉え、気晴らしできたとしても、ふとした時に嫌な感情がフラッシュバックのように脳裏をよぎることがあります。
ネガティブな事柄は、実はただの「現実」です。本来はなんらネガティブでもありません。
ただの現実をネガティブなこととして捉えるのかポジティブなこととして捉えるのかは、受け止め方によって変わってきます。
今までの人生で構築してきた「思い込み」によって現実は解釈されます。
代表的なネガティブな解釈に繋がる思い込みと、それによって派生する感情は以下の通りです。思い込みを「手なずける」という事で、犬に例えて記載されています。
思い込みを自覚し、「解釈のクセ」を把握することで、現実をポジティブなものに変えることができます。

この思い込みは後天的に身につけてしまったことがほとんどで、克服することが可能だそうです。
患者さんの訴えを聞いたらそれがどこに属するののかこの表で確認できます。
どんな思い込みによってその感情が生じているのか、考えてみましょう。
自己効力感を高める
目標や試練、逆境が挑戦度が高くて達成することが無理だと思っていても、自分ならできる!と思える人ならば、果敢に挑戦していくことができます。
自己効力感を得る方法として下記の3つがあります。
実体験
例えば戦争で出兵した経験がある高齢者の方って、少し違いますよね。芯が強いというか。
リハビリが辛いと言っても、戦場体験に比べれば屁みたいなものです。
そんな方には、戦争での実体験の話を聞かせてもらって下さい。
当時を思い出して自信を思い出してもらうのです。
そうすれば、リハビリ程度の試練は自分ならできる!と思って取り組んでくれるのではないしょうか。
お手本
これは誰かがやっているのをお手本にして、「自分もできるかもしれない」と信じ込むことです。
患者さんで仲良しの方がリハビリで歩く距離を競い合っている場面に遭遇したことがあります。
負けず嫌いの性格の患者さんに有効ではないでしょうか。
励まし
励ましを受けると、自己効力感を得ることができます。
高齢者の方は自宅で、「危ないから座っといて」、「転んだら大変だから外に出ないで」など家族に言われていることが良くあります。
家族としては転倒して入院したら・・と考えると、こう言った発言をしてしまうのは当然かもしれません。
しかし、これは自己効力感を奪う言葉です。何もできない高齢者を作る言葉でもあるのです。
逆に、「あなたならできる」など、信じて励ます発言はその人の自己効力感を育み、逆境から立ち直る力を与えます。
家族さんが難しいなら、私達療法士が「あなたならできる」と家族さんの分まで励ましてあげてください。
そして、実際にあなたの言った通りそのことができるようになれば、強力な信頼関係が築けますし、リハビリの効果を飛躍的に高めることができます。
強みを活かす
自分の強みを理解し、それを逆境や挑戦に持ち込むことで、タフにタスクをこなすことができます。
例えば、現在私はブログをほぼ毎日続けて3か月程度になりますが、誰に褒められるわけではないし、1円も収入になっていないし、ほとんど趣味でやっている状態です。
それでも続けていられるのは、実は「自分が文章が得意だ」と思っているからではないかと思っています。
小学校の時、クラスで私の作文が推薦作文として本に載ったことがあります。
この経験が私の支えになっています。
文章が本当に上手かどうかは実はどうでもよくて、「自分がそう思っている」ということがレジリエンスに於いては大切です。
「好きこそものの上手なれ」と言うことわざがありますが、実際は上手であると思っているから好きになるのです。
できないことを好きになる人はいません。
患者さんに昔好きでやっていたことを聞いてみましょう。
裁縫が好き、ゴルフが好き、ジョギングが好き、山登りが好きなどみなそれぞれ好きなことがあると思います。
それはほとんどの場合、その人の得意分野で「強み」です。
強みをリハビリに組み込むことができれば、確実にただ歩くだけ、ただ筋力訓練をするだけのリハビリよりも意欲が上がり効果が出やすいはずです。
サポーターがいる
応援してくれている人がいると、人は逆境に直面しても耐え、早く気分を回復させることができます。
以前、人生の意味とは「戦争に学ぶ普遍の真理」という記事で書きましたが、逆境で一番先に負けてしまう人は「孤独な人」であると、心理学者のフランクリンも述べています。
誰かのために、と思うことで、人は奮起できるものです。
私の経験では、孫の結婚式に歩いて出席したいとリハビリを頑張っている方がいました。
おじちゃん、おばちゃんにとっては孫の応援があれば、何倍も頑張れるのではないでしょうか。
また、50代男性で会社の役員をしている方も「私が会社を辞めるわけにいかない」とリハビリを一所懸命頑張っていました。
その方は最終的に職場復帰を果たし、任期を無事に終えられたそうです。
サポーターは応援してくれるもの、または応援したいもののことです。それは会社のようなものでも構いません。
普段から人を助け、人の役に立っている方は、自分が逆境に立たされた時でも、強力なサポーターが周りに自然にでき、早く立ち直ることができるのではないでしょうか。
「情けは人の為ならず」のことわざ通りですね。
まとめ
レジリエンスを高めるための要素として、
① 思考を柔軟にして、ものごとの両面性を見る。
②要らない思い込みを捨てる。
③自己効力感を得る。
④ 強みを活用する。
⑤ サポーターを持つ。
があります。
この要素を満たす人を想像してみると、私は「日々勉強し、知識を付けて、人に役立つように周りに還元している人間」を想像します。やはり人の為に・・と普段から頑張っている人は周りがいざと言う時に救ってくれるのではないでしょうか。
レジリエンスを高めるための要素は患者さんのリハビリのモチベーションを維持・向上させるための要素でもあるので、効果的にリハビリに取り入れ、活用して下さい。
仕事で失敗が多い、どんくさい自分に嫌気がさしている。 そんなものは全く問題ではありません。 むしろ、動いている、変化しているからこそトラブルや失敗があるのです。 早く立ち直り、何度も何度も果敢に挑戦していけるようにレジリエンスを高めて下さい。 下手でも何でも良いから挑戦する気概だけは失わないように自分や周りの人を鼓舞して下さい。
世の中は本当に人の輪でできています。
患者さんの為に一生懸命頑張れる人は、自分の逆境の時にも必ず頑張ることができる人だと思います。