
パーキンソン病の患者さんにリハビリを行う中で、「固縮」の症状を持つ方に出会うことがあります。
今回はパーキンソン病の4大徴候の1つである「固縮」の、
- 症状
- 評価・アプローチの方法
についてご紹介します。
固縮とは?症状は?
”固縮”とは一体どのような症状なのでしょうか。
文献では、
固縮とは、関節を他動的に動かした時に鉛管を曲げるような抵抗(鉛管現象)あるいはガクガクとした歯車の抵抗(歯車現象)を感じる。全身に見られるが頸部、体幹に目立ち、四肢では屈筋群、内転筋群により多い
参考)系統理学療法学 神経障害系理学療法学より
とあります。
また、別の文献では、
“関節の他動運動時に、断続的な抵抗を感じる歯車様固縮と、連続的な抵抗を感じる鉛管様固縮がある。上肢では歯車様、下肢では鉛管様であることが多い。四肢の伸筋群より屈筋群で、しかも体幹屈筋群よりも伸展・回旋筋群でみられやすい。固縮によって呼吸障害、緩慢な動作を呈するが、それらが機能障害に結びつくとは限らない。”
とあります。
参考)PTジャーナル 25巻11号「パーキンソン病Yahr分類Ⅰ〜Ⅲの理学療法」より
また、パーキンソン病の場合、この抵抗感はさらにガクガクと断続的になり、歯車様固縮と呼ばれますが、この歯車現象が出る理由は、固縮を起こす機序に振戦を起こす異常が加わったためと考えられています。

臨床での感覚としては、他動的に関節を動かす際に、「あれ?全然動かない・・」という感じで抵抗感がすごく強いのに、「自分で曲げてください」というとすんなり動く場合が多いです。
参考)固縮が主症状の一つであるパーキンソン病について詳細はこちらパーキンソン病の特徴的な症状とガイドラインに基づくリハビリの実際
固縮の原因
固縮の原因として
- 運動神経興奮性増加
- 筋活動の自己抑制機能の機能不全
- 皮質内抑制機構の問題
があります。
運動神経興奮性増加
固縮では、運動ニューロン興奮性を反映するF波(筋から誘導される活動電位の一つ)興奮性も増大し、F波興奮性増大と固縮との関連も指摘されています。F波は運動神経興奮性を反映することから、固縮は運動神経興奮性増加と関係があるとされています。
筋活動の自己抑制機能の機能不全
長潜時反応(筋を伸張した40ms後以降に生じる皮質を介した反応)の振幅及び持続時間が増大し、これが筋トーヌスとよく相関する、という報告があります。
また、パーキンソン病においては随意運動による皮質脊髄下降路の興奮や背景筋活動が随意収縮終了後に速やかに復旧せず、長時間にわたって皮質脊髄下降路の興奮や背景筋活動が残存し、その程度が固縮の程度と相関します。
これらにより、パーキンソン病において筋活動を自制する機構に問題があることを示唆し、この自己抑制機能の機能不全と固縮との関連が推測されます。
事実、脊髄レベルでは、グループⅠb群求心性線維による自己抑制の減弱が固縮と関連することが示唆されています。
皮質内抑制機構の問題
さらに脊髄上レベルでは、
- 指運動時の運動野興奮性が上肢の固縮重症度と正の相関があること
- 短潜時及び長潜時の皮質内抑制メカニズムがパーキンソン病において低下していること
が報告され、このような皮質内抑制機構の問題も固縮と関係があると考えられています。
全身的な症状として、固縮の症状が出現することにより、他動的な運動範囲が狭くなり、姿勢や身体をリラックスすることが難しくなります。
固縮による二次障害・合併症について
また、四肢の伸筋群より屈筋群で、しかも体幹屈筋群よりも伸展・回旋筋群で固縮が出現しやすいために、特徴的な姿勢である前傾姿勢を誘発しやすくなります。
また、文献より、
・6分間歩行テスト前後の膝伸展筋力では固縮の強い側について優位に筋力の減衰が認められたことから、固縮筋における拮抗筋の影響により、筋疲労を強く引き起こしている可能性が示唆され、固縮による筋疲労が一因となっていることが示唆された
・膝伸展筋力の持久性低下が疲労を規定する因子となり得る可能性が示唆された
参考)パーキンソン患者の6分間歩行試験前後の膝伸展筋力・呼吸筋力と疲労の関係について 成田雅ほか より
とあるため、持久力とも大きな相関があると考えられます。
さらに固縮の経過が長くなると、
- 各関節の拘縮
- 筋力低下
を生じるため、転倒による骨折等の二次障害につながる危険性が高くなります。また、固縮による大腿骨頸部骨折人工関節置換術の脱臼リスクの高さを示す文献もあります。
パーキンソン病の方は症状への注意もそうですが、合併症(転倒による骨折、肺炎等)を予防する視点も重要です。
固縮と”拘縮”の違いは?
拘縮とは、
“皮膚、筋など関節構成体以外の軟部組織に変化が起こり関節が一定の肢位に固定するか一定の方向に運動を制限された状態”
参考)関節可動障害—その評価と理学療法・作業療法より
とあります。つまり、関節自体の問題ということになります。
参考)拘縮について詳しく拘縮とは何か?拘縮予防のリハビリとは
対して固縮は
“人の手を刺激した場合、30msec位の潜時で多シナプス性反射が記録できる。
固縮のある患者についてこの多シナプス反射を調べ、正常者に比して亢進していることを示し、大脳基底核障害が何らかの機序でこの反射経路の興奮性を高めて固縮を生じるのではないかを考えられるようになった。
つまり、基底核障害による多シナプス反射の亢進と考えられ、原因は大脳基底核の活動異常と考えられています。
また、基底核からの下行性投射は、脚橋被蓋核、さらに巨大細胞性網様核で中継され、網様体脊髄路を介して、脊髄固有ニューロンを興奮させる、あるいは抑制性のⅠb介在ニューロンを抑制することにより、α運動にニューロンが興奮するという説があります。
この事からも大脳基底核の活動異常と考えることができます。
つまり固縮と拘縮の違いをまとめると、
- 拘縮…関節構成体以外の軟部組織(皮膚、筋、関節包など)
- 固縮…大脳基底核の活動異常
ということになります。
固縮と”痙縮”の違いとは?
また、固縮と似た用語で「痙縮」という言葉もあります。
両者は被動性抵抗にて強い抵抗がある事は共通していますが、固縮よりも痙縮の方がより抵抗が感じられる理由は、反射性筋放電の亢進が関係していると考えられています。
”反射性筋放電”とは、筋の受動的伸展により、筋紡錘が伸展され、その一次終末から求心性インパルスが発し、これが単シナプス性に脊髄全角運動神経を興奮させて、その筋放電を起こすこと。
筋紡錘にはγ運動ニューロンの支配があり、それが収縮すると筋紡錘が短縮して、わずかな伸展でも求心性インパルスを発するようになるということです。
また、”固縮”と”痙縮”の違いで特徴的なのは、”痙縮”には“折りたたみナイフ現象”が出現するということです。
折りたたみナイフ現象とは、関節の運動時、最初抵抗が強いが、ある点までくると急に抵抗が抜ける現象のこと。錐体路障害が原因とされる。
前述ましたが、固縮は大脳基底核異常活動による、多シナプス活動の亢進が原因と示唆され、痙縮の原因である錐体路障害とは別の問題となります。
固縮の症状の評価・アプローチ方法について
まず固縮の症状や、基本動作や生活動作にどれぐらいの影響があるのか確認する必要があります。
安静時姿勢評価(筋の固さによる姿勢への影響を見る)
対象者に安静な姿勢(背臥位など)を取って頂き、地面に接する部分で浮いているところ(首や、腰など)やポジション・状態を確認します。
また、体幹の軸は正中に保たれているか、床面を足や手のひらで押していないか(リラックスできていない人によく起こる特徴です)などを診ていきます。

関節可動域テスト(ROM)
固縮は他動運動で確認しやすいため、Active(自動=自ら動かす)、Passive(他動=他者が動かす)で変化があるかどうかを注意して診ていきます。
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固縮症状のリハビリアプローチについて
固縮により生じやすい前傾姿勢を改善するには、体幹や四肢、頸部を含めた異常筋緊張を緩和させるアプローチが重要です。
筋緊張を緩めるためのアプローチ方法としてよく用いる方法に、”ポジショニング”があります。
ポジショニングを考えるときに重要な要素として、パーキングファンクションがあります。

全身を5つの身体部分(1.頭頸部 2.胸部 3.腰椎 4.骨盤帯 5.上肢・下肢)に分け、おのおのの身体部分が、支持面と接し、独立した重心を持った状態を示す。必要最低限の筋緊張で各身体部分が繋がれている状態。次に動くための準備状態が整っており、潜在的な可動性が最も高い状態とされる。
リハビリアプローチの例
特に頭頸部の固縮により、回旋要素が低下し、眼球運動や頸部の動きが悪くなることによる視覚活動の低下を緩和するアプローチを実施しています。
1⃣背臥位の状態から対象者の後頭隆起に両手掌を入れ、隙間を埋めるように手を置きます。
2⃣そのまま手を置いておくと、相手が頭を預けて行くように重みが手掌にかかってくるようになります。そうなると頸部の筋緊張が緩んでいる状態です。
3⃣①の状態からまず喉頭隆起を引っ張り、頸部後面筋をストレッチします。
4⃣そのあと耳垂を軸に屈曲、鼻を軸に頸部の側屈、回旋を促していきます。
大きく動かすのではなく小さな動きで行い、過度なストレッチにならないように注意します。これで立ち直り反応や平衡反応を促すアプローチも可能になります。
これを行った後に関節可動域訓練、ストレッチ等を実施すると普段のトレーニングよりもリラックスしていることが多いです。ぜひ試してみて下さい。
<参考文献>
>>さらに理解を深めるために
パーキンソン病の特徴的な症状とガイドラインに基づくリハビリの実際
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