
肩こりの原因として、筋膜の癒着やたるみが原因である場合があります。そもそも筋膜とは何でしょうか。
筋膜とは?
筋膜とはその名の通り、筋肉を覆っている薄い膜のことを指します。
英語ではMyofascia(マイオファシィア)と言い、Fascia(ファシィア)は内臓や中枢神経にも存在し、包むものによって名前が変わりかなり広い概念のことを指します。
なので、Fascial-release(ファイシャルリリース)というのは正しい用語ではなく、Myofascial-release(マイオファイシャルリリース)であり、正確には日本語訳も”筋膜リリース”ではなく、”筋―筋膜リリース”となります。
Fasciaの概念を知っているだけでも「おっ、この分野を勉強してるね!」となるので、特に専門職の方は知っておくと良いでしょう。
筋膜は全身に連なる結合組織で、3次元的に身体全体を覆っているため、「第2の骨格」とも呼ばれています。3次元的というのは並列に正しく並んでいるのではなく、縦横無尽に走っている網の目をイメージしていただくと良いと思います。
発生学から考えた筋膜
発生学的には膜を含めた結合組織は全て中胚葉由来なので、
- 骨
- 筋肉
- 靭帯
- 関節包
も元をたどれば同じ種類の細胞ということになります。内臓や中枢神経を包んでいる膜も膜構造で一つに繋がっています。
よって、身体のどこか一ケ所に歪み(ひずみ)が生じれば、それがわずかなものであったとしても、結合組織の膜を通して全身に波及していくことになります。そのため、数年前の足の怪我が原因で肩こりや腰痛が生じる、なんて可能性もあるわけです。
筋膜の構造”テンセグリティ構造”

これも筋膜の機能を捉える上で知っておくと良い考え方です。
”テンセングリティ”とは、
- 張力(tension)
- 統合(integrate)
を合わせた造語で、全ての構造は張力と圧縮のバランスによって支えられているというものです。
人の身体で言うと、身体の一部の歪みは全身に分散するようにできているということになります。筋膜は絶妙な張力でバランスをとっており、ある一部分の張力が崩れると筋膜上の全体のバランスが崩れてしまうということになります。
筋膜の構成組織
筋膜の構成組織は、
- 強度と形態を与えるコラーゲン(膠原)線維
- 形態記憶性と伸張性を与えるエラスチン(弾性)線維
からなります。それらの隙間のことを基質(間質)と言います。
コラーゲン(膠原)と言えば関節軟骨のイメージがありますが、筋膜のコラーゲンはⅠ型コラーゲンで軟骨などのⅡ型コラーゲンとは異なるものなので混同しないよう注意して下さい。
筋膜の他には、
- 皮膚
- 靭帯
- 関節包
- 骨膜
もⅠ型コラーゲンです。
筋膜の種類とその特徴
また、筋膜は大きく5つに分けることができます。(イラスト参照)
- 浅筋膜
- 深筋膜
- 筋外膜
- 筋周膜
- 筋内膜
1.浅筋膜
皮膚と筋肉の間の皮下組織と呼ばれる場所にあります。
- 弾力性のある疎性結合組織
- 脂肪組織
で構成されています。
浅筋膜自体には血管は存在しませんが、
- 血管
- リンパ管
- 神経
などの通路を提供しており、身体を保護する役割もあります。
浅筋膜と深筋膜の移行領域は固有受容性神経終末が高密度に存在しており、赤筋の約10倍と言われています。そのため、筋膜は人体の中でも有数の感覚器官になります。
2.深筋膜
浅筋膜の深部にあります。
厚さは約1㎜で、下側の筋肉へと繋がりますが、外側は筋を連結しながら全身へと広がります。別名、”伝達筋膜”とも呼ばれています。
深筋膜は、手足などの四肢と体幹では少し構造が異なります。
四肢部
四肢はコラーゲン線維が3層構造となっており、その間に、
- 疎性結合組織
- ヒアルロン酸
があります。これらが筋膜の滑りに重要な役割を果たしています。
体幹部
体幹は深筋膜と筋外膜が融合し1枚の膜となります。隣接する筋肉の間(例えば外腹斜筋と内腹斜筋)に疎性結合組織とヒアルロン酸があります。
3.筋外膜
深筋膜のさらに深部にあり、筋と直接連結する膜です。
上述した通り、体幹では深筋膜と筋外膜は融合していますが、四肢は深筋膜とは融合せず、筋の中の筋周膜と筋内膜に連結しています。
※書籍や文献によっては筋内膜・筋周膜・筋外膜も含め深筋膜とされているものもあります。
4.筋周膜
複数の筋内膜で包まれた筋束を包む膜です
5.筋内膜
複数の筋原線維を包む膜です
筋膜のつながり(連結)
筋膜は全身を包んでいる膜であり、運動時の全身のつながりを知っておくことが重要となります。
筋膜配列は運動方向に基づいて分けられています。
- 前方運動:腕や足を前方に動かしたり、身体を曲げる時のつながり
- 後方運動:腕や足を後方に動かしたり、身体を伸ばす時のつながり
- 内方運動:腕や足を身体に近づけたりに、身体を真っすぐにする時のつながり
- 外方運動:腕や足を横に動かしたり、身体を左右に曲げる時のつながり
- 内旋運動:腕や足を内側に捻ったり、身体を内側にまわす時のつながり
- 外旋運動:腕や足を外側に捻ったり、身体を外側にまわす時のつながり
また、アナトミートレインも筋筋膜配列を知る上では重要な知識となります。
アナトミートレインとは、その名の通り”解剖列車”と訳され、筋筋膜を通して全身が複合的に繋がっているという考え方に基づくものです。
アナトミートレインの基本的な特徴として
- 筋膜の繋がりは同じ深さで直線的(急に表層にいったり、急に曲がったりはしない)
- 筋肉は互いに繋がっているわけではないが、筋膜は連続して繋がっている
- いくつかの個別に機能をもったラインが存在する
とされています。

- Superficial Front Line
- Superficial Back Line
- Deep Front Line
- Lateral Line
- Deep Front Arm Line
- Deep Back Arm Line
- Superficial Back Arm Line
- Superficial Front Arm Line
- Functional Line
- Spiral Line
※詳しくは上記著書をご覧ください。
”筋膜の癒着”とは?
身体のこりや痛みは筋肉から出ていると思われがちですが、筋膜の癒着や歪みによっても生じるとされています。
筋膜の癒着の機序
筋膜自身は、上述のように
- コラーゲン線維
- エラスチン線維
で出来ており、85%が水分です。
水分の枯渇やストレス、同じ姿勢での作業(デスクワークなど)によりコラーゲン線維・エラスチン線維の間を埋めている基質の流動性が落ちドロドロになります。
そしてゼラチンのように固まり(これをゲル化といいます)、コラーゲン線維とエラスチン線維の新陳代謝を妨げ次第に筋膜が癒着していきます。
筋膜の癒着に精神的ストレスも関与している?
「精神的ストレスで、なぜ筋膜が癒着するの?」と思われるかもしれません。
ストレスを感じた際には、人は無意識に歯を食いしばり、肩をすくめるような姿勢をとることが多いです。日頃ストレスを多く感じている人はこのような姿勢を多く取っていることが考えられます。
パニック障害や全般性不安障害などの方は顕著で不安や恐怖の症状から身体が硬直しがちになります。このようにストレスによっても姿勢が変化し、それが筋膜の癒着の原因になることもあります。
ロルフィングのマーク・カフェル博士も「筋膜は記憶の器官だ」と言っています。私たちの心のあり方、感情の動きは身体の変化を伴います。
怒りや不安があると交感神経が興奮し、体中の筋肉に力が入ります。また、喜びや悲しみは別の身体反応を引き起こします。もし怒りっぽい人がいたら怒りのたびに身体が反応し、筋膜がそれを記憶し反応しやすいように効率化します。
そうなると今度は変形した筋膜の形に合わせた心の状態や態度に現れやすくなってきます。
筋膜は過去と身体の形として記憶し、私たちのあり方を方向づける、つまりストレスによって筋膜が癒着し、癒着した筋膜がストレスを増大させるという悪循環が生まれていきます。
筋膜リリースとは?
筋膜リリースとは、単なる膜の伸張ではなく、膜の捻じれをリリース(解きほぐす)し、筋・筋膜のバランスを整える手技とされています。
筋膜リリースの対象
筋筋膜の機能異常の原因として、主に下記の3つが挙げられます。
- 筋膜の高密度化
- 基質のゲル化
- ヒアルロン酸の凝集化
これらが起きている人体の組織に対して筋膜リリースが対象となります。
筋膜リリースの目的
筋膜リリースは、交差したコラーゲン線維とエラスチン線維がからみついた状態(筋膜の高密度化)した状態を解きほぐし、基質の粘調度を変化させ筋膜の制限を解除することを目的に行います。
筋膜リリースの方法と種類について ”浅筋膜リリースと深筋膜リリース”
筋膜リリースを行う際には、”施術者の感触”が非常に重要です。
- 最初の10秒でエラスチン線維が伸びる→ここで伸びる感覚が一旦止まる
- そこから90秒から180秒待つとコラーゲン線維が伸び始める(最大で5分)
- 基質が細胞液で満たされるゾル状からゲル状へ変化(ゾル状からゲル状に変化=バターが溶けるような感触)
といわれています。
感覚的に、バターが溶けきった感触があれば、筋膜リリース終了の合図となります。
筋膜リリースを上手く行うためのポイント
- 強く速い負荷よりも低い負荷(穏やかな持続した伸張・圧力)の方が効果が高い
- 低い負荷により線維(エラスチン・コラーゲン)の伸張と基質の粘調度を変化させる
- リリースを成功させるためには治療者自身がリラックスし、治療者の手掌あるいは指腹が患者の皮膚と一体となるように注意することが大切
これらを共通の原則として、筋膜リリースには大きく分けて2種類あります。
浅筋膜リリース
浅筋膜リリースは、主に
- こぶしで優しくさする
- フォームローラーや専用のボールなどでゆっくり圧をかけて擦る
などの方法で行われます。浅筋膜は皮下組織の中にあるので、強い圧迫ではなく、軽い圧をかけて行うのがポイントです。
自分で行える筋膜リリースの多くがこの浅筋膜リリースです。
専用の商品も市販されています。
深筋膜リリース
専門職が徒手療法で学ぶ筋膜リリースはほとんど深筋膜リリースではないかと思います。深部リリース(Cross‐Hand Technique)やロルフィングなども深筋膜を対象にした筋膜リリースです。
セルフでも深筋膜リリースも行えますが、時間をかけてリリースする感覚を対象者自身が感じながら行う必要があるため、正しく行うには対象者の理解と学習も要求されます。
深筋膜リリースの基本的な3手技と手順
●長軸方向リリース
- 筋膜を感じる
- 徐々に圧の増加を感じる
- 筋膜の制限を感じる
- 筋膜のリリースと動きを感じる
●横断面リリース
上記に加え、
- 深さと腹部・背部の繋がりを感じる
- ボール様の動きを感じる
●Pull
- 筋膜を感じる
- 筋膜制限を感じる
- リリースを感じる
感じる・・・感じる・・・感じる・・・笑
これだけでもかなり繊細な治療であることが分かります。ストレッチのように伸ばして抵抗感を感じるといったものではなく、まさに「リリース」の感触を探ることが重要になります。
筋膜リリースは痛い?
筋膜の歪みや癒着を改善するという言葉を考えると、どうしても強い力が必要と想像してしまいます。
しかし、筋膜の構造を考えると、
- 周辺の血管
- 神経
- リンパ管
などを強く圧迫するとそれらを損傷してしまう危険性も考えられます。
強い圧迫は痛みを生じやすく、痛みを感じると自然と力が入ってしまって余計に筋肉をこわばらせてしまう可能性もあります。
そのため、筋膜リリースをしている(してもらっている)のに痛みを強く感じるようであれば、「圧が強過ぎ」あるいは、「伸ばし過ぎ」というサインかもしれません。
そういった点からも正しい筋膜リリースは痛いかと聞かれれば、全く痛みを伴わないと言っても過言ではありません。低い負荷で行われるため心地よく眠ってしまいそうになるくらいです。
※注)筋膜リリースと似た手技で筋膜マニピュレーションに関しては痛みを伴うこともあります。

協調中心と融合中心と呼ばれる筋肉、もしくは筋膜上のポイントを”摩擦(こすること)”によって温度の局所上昇を引き起こし、ゾル化された基質を流動化されることで正常な状態に戻す手技のこと。
炎症反応を生じさせるため基本的に痛みを伴うとされています。
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筋膜リリースを行わない方が良い場合(禁忌)
筋膜リリースは循環の改善や疼痛の軽減に効果絶大ですが、もちろん禁忌事項(やってはいけない条件)も存在します。
全身的禁忌
- 悪性腫瘍
- 動脈瘤
- 急性期の関節リウマチ
- 全身あるいは局所的感染症
局所的
- 血種がある部位
- 開放創(傷口が開いている状態)
- 縫合部
- 治癒過程にある骨折部位
上記の症状がある場合には、絶対行わないようにしましょう。筋膜リリースを行い症状が悪化した場合も、一旦施術を中止し、医師に相談して下さい。
筋膜リリースとストレッチの違いは?
セルフ筋膜リリースとストレッチは見た目は同じようなものもありますが、狙っている対象組織や目的、実施時間のなどに違いがあります。
対象
- ストレッチ・・個別の筋肉
- 筋膜リリース・・歪みや癒着が生じている筋膜
目的
- ストレッチ・・筋の柔軟性の向上
- 筋膜リリース・・筋膜の歪みや癒着の改善
疼痛
- ストレッチ・・伸張痛が生じることも多い
- 筋膜リリース:・・ほとんど痛みは生じず、心地良く伸びる感じ
実施時間
- ストレッチ・・20秒~30秒程度が効果的。長くし過ぎると筋出力低下などの影響もある
- 筋膜リリース・・最低90秒は必要
ストレッチと筋膜リリースにはこのような違いがあります。
とはいっても、筋肉と筋膜は切っても切り離せない関係で、例えば、ベッド上で前屈してる時につま先と上げるとふとももの裏にも響きますよね?
つま先の運動が、離れたふとももの裏に影響する、これはまさに筋膜の繋がりです。
なので、ストレッチでも筋膜は伸びますし、明らかに、ここまでストレッチでここからが筋膜リリースという線引きは難しいのが現状です。
しかし、
- 「ゆっくり時間をかける(最低90秒)」
- 「弱い負荷で効果が高い」
この2点が筋膜リリースのポイントなので、この2点が守られていればストレッチではなく、筋膜リリースできている可能性が高いです。
逆に、
- 「伸ばすと痛くて息が止まってしまう」
- 「圧迫がきつくて痛い」
となってしなっていると筋膜リリースになっていないかもしれません。
筋膜をリリースを行うためには、ゆっくり時間をかけて、優しく解きほぐす感覚が重要となることを忘れないようにしましょう。
筋膜リリースとマッサージとの違いは?
マッサージは、治療対象が筋肉の場合に効果的ですが、深筋膜が広い範囲で問題を引き起こしている場合には筋膜リリースが有効です。
超音波エラストグラフィーで僧帽筋を揉んだ場合と筋膜リリースした場合を調べた結果、揉んだ場合は僧帽筋のみ効果が確認できたのに対し、筋膜リリースでは僧帽筋に加え深部の肩甲挙筋にまで効果を認めました。
より深部までほぐしてくれるのが、マッサージと比べた場合の筋膜リリースの特徴といえます。
<参考文献>
- 中谷ちほさん 「ちほのイラストショップ」
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