ガイドラインに基づく腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ方法

椎間板から髄核が飛び出している


腰椎椎間板ヘルニアのリハビリについて著者の臨床経験とガイドラインを元に記載しています。

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腰椎椎間板ヘルニアとは

腰椎椎間板ヘルニア(Lunber disk herniation:LDH)は椎間板の髄核が後方の繊維輪を部分的に、あるいは全体的に穿破し、椎間板組織が脊柱管内に突出し、馬尾や神経根を圧迫する疾患です。

椎間板から髄核が飛び出している

腰痛、下肢痛や下肢の神経症状などが主に出現します。

有病率は人口10万人当たり、年間46.3人とされています。好発年齢は比較的若く、20歳代~40歳代、好発部位はL4/5、L5/S1となります。

 

ホワイトカラーの職業に比べて重労働者の発生率が高いことも知られています。特に運転手や金属・機械業労働者はに多いとされています。

ガイドラインによる診断基準

ヘルニアはその発生要因や機序など不明とされていることが多く、民間療法を含め、様々な治療法が過去には混在していました。

適切な治療をするためには明確に診断基準を定める必要性があり、日本整形系外科学会にて2005年に診断基準が策定されました。以下になります。

  1. 腰・下肢痛を有する。
  2. 安静時にも症状を有する。
  3. SLRテストで70°以下陽性(高齢者では絶対条件ではない)。
  4. MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄症を合併していない。
  5. 症状と画像所見が一致する。

引用)2005年 腰椎椎間板診察ガイドライン策定委員会による診断基準

これらの条件を満たすものをヘルニアと診断します。

MRIでヘルニアが認められていても、症状が出現していない健常者「無症候性ヘルニア」が30%もいる、ともいわれています。よって、ガイドラインでは、画像所見のみではなく、臨床所見も確認し、関連していることが重要とされています。

症状(臨床所見)

ヘルニアがあり、髄核が神経根を圧迫した場合、

  • 筋力低下
  • 皮膚感覚障害
  • 腱反射の異常

などの神経学的異常が出現します。しかし、上述の症状が必ず現れるとも限らないので注意が必要です。

ヘルニアでは主に下肢痛や腰痛が出現し、この痛みの原因には、病理学的にはヘルニアによるものと、ヘルニアに圧迫された神経根及び馬尾によるものがあります。

ヘルニアを病変部位とする痛みを「椎間板原性疼痛」、神経根を病変部位とする痛みを「神経根性疼痛」と呼びます。

好発部位はL4/L5、L5/S1なので、その部位の神経根の神経学的所見を以下にまとめておきます。私の臨床経験では、L5の障害が多い印象があります。

「神経根の神経学的所見」

症状 L4 L5 S1

筋力低下

膝伸展

足関節背屈

長母指伸筋

足関節底屈

長母指屈筋

感覚障害 膝の内側~脛骨内側 足背と腓腹部外側 足外側縁と腓腹部後面

神経根緊張徴候(SLRテスト)

陰性

陽性 陽性
腱反射の低下 膝蓋腱 後脛骨筋 アキレス腱
筋萎縮 大腿 腓腹部(下腿後面) 腓腹部(下腿後面)

発生要因(腰椎椎間板ヘルニアになる要因)

結構有名な話なのでご存じの方も多いと思いますが、腰椎椎間板に長時間の圧力が加わり続けると、椎間板内で髄核が飛び出し、LDHの素因となっている可能性があります。

この椎間板内圧は姿勢によって大きく変化します。

寝ている状態が最小の圧力で、腰を曲げた立位保持や腰を曲げた座位保持で非常に圧が高まります。

ヘルニア疼痛増大姿勢
立位での椎間板内圧が高い姿勢
座位でのヘルニア椎間板圧力増大姿勢
座位での椎間板圧力が高い姿勢

この姿勢に共通するのは、腰椎が大きく後彎していることです。

よって日常的に腰を曲げた姿勢を取っていたり、座っている事が多いと発症する可能性が高くなります。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

ヘルニアの治療はほとんどが保存療法です。手術に至る症例は全体の10~15%とされています。

手術が必要な場合は、

  • 馬尾症候群
  • 排尿・直腸障害

が早期に出現した場合です。

保存療法

LDHの保存療法では、

  1. 服薬
  2. 牽引療法
  3. 鍼灸
  4. 硬膜外ブロック
  5. 温熱療法
  6. マニュピレーション(※筋肉の調整のこと)
  7. マッサージ
  8. 椎間板内注入法

などの方法が状況に応じて選択されます。

急性期に疼痛が強い場合、安静や臥床も時には有効です。しかし、急性腰痛治療ガイドラインでも提唱されているように、4日以上の臥床は却って身体を弱めることになるため、できるだけ早くなんらかの方法で痛みを緩和させ、身体を動かしていく必要があります。

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腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ

ヘルニアのリハビリにおいて、明確なエビデンス(科学的根拠)のあるリハビリ方法は今のところありません。しかし、リハビリで姿勢やそれに関わる運動療法を行うことが勧められています。また、上述のように姿勢も障害に大きく関わっている疾患のため、姿勢矯正が主となります。

評価

LDHの評価では、問診、姿勢観察とSLRテストブラガード徴候などが重要です。

問診

よくヘルニアで腰や足が痛いという患者さんに、「いつから痛みますか?」と質問すると、「先週朝起きたら痛くなっていた」と答えが返ってくる場合があります。

しかし、ここからもう一つ質問を掘り下げてみて、「痛くなる前に何か変わったことをしませんでしたか?」と聞くと、「そういえば前日に草むしりをしたような気がする」などと返ってくる場合があります。

LDHの要因として、長時間の体幹屈曲位での作業があります。

  • 長時間車に座ったままだった
  • 事務仕事を長時間行った

など、発生要因をできるだけ聞き出すように上手く質問する必要があります。

いつから症状が出ているのか、ということも重要な問診事項で、疼痛が出現して長期間に及んでいる場合、疼痛逃避による姿勢も固定しやすくなっている可能性があります。そしてそれが疼痛悪化やQOLの低下の悪循環を生んでいることが往々にしてあります。

また、生活習慣や職業も重要な問診事項になります。

患者さんがどんな生活を送っていて、どんな姿勢を日常生活で取ることが多いのか、そしてそれを改善させることはできないのか?注意深く質問の仕方を変えて問診し、観察する必要があります。

姿勢観察

LDHで症状で特徴的なのが「立位姿勢」です。腰椎が前彎しいていると疼痛が強いため、体幹屈曲位を呈するようになります。

立位姿勢で体幹の屈曲、伸展を行ってもらい、その様子を観察します。

普通は立位で体幹を屈曲させる際に腰椎の屈曲を伴った運動が起こりますが、LDHの患者の多くの場合、腰椎が動かないように固定して体幹の前後屈を行います。

具体的にはこんな感じです。

腰椎を固定させた体幹屈曲
腰椎を固定させた体幹屈曲動作
腰椎の運動を制御した体幹伸展動作
腰椎を固定させた体幹伸展動作

SLRテスト

SLR
この状態で下肢後面に疼痛が出現すれば陽性

ガイドラインでもSLRテストでの下肢挙上角度とLDHとは相関関係が認められるとしています。

下肢伸展挙上(straight leg rising: SLR)テストと安静時痛、夜間痛、咳嗽痛、鎮痛薬 の必要度、歩行障害の関係を調査した研究では、SLR テストの結果と臨床症状は正の相関関係にあり、SLR テストの下肢挙上の角度が腰椎椎間板ヘルニアの重症度を現す

引用)推奨グレードC:日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン「腰椎椎間板ヘルニア」

SLRテストをLDH患者に行うと、脚を上げる角度が30度~40度位で臀部やハムストリングス、ふくらはなどの下肢後面にピリピリとした強力な痛みが起こる場合があります。(ガイドラインでは70°以下で疼痛が出現することがLDHの診断要素となっています。)

症状が強い方ではわずか10㎝程度でも上げることもできない場合もあります。

ブラガード徴候

ブラガード徴候は先ほどのSLRテストからやや足の挙上角度を下げ、足関節を背屈することでテストできます。坐骨神経がより強力に伸張され、痛みが強く出現するため、より判別しやすくなります。

当たり前のことですが、全ての動作をゆっくりと患者の表情を見ながら行い、痛みを必要以上に誘発しないように充分注意して行って下さい。

MMT

LDHの症状である筋力低下を判断するために、MMT(Muscle Manual Test)も有効です。LDHの評価として行う際は、個別の筋肉の筋力を測定することに留意します。

股関節屈筋群、という測定方法ではあまり意味がありません。

例えば、L5主髄節とする前脛骨筋や長母指伸筋をMMTで評価し、L5支配の大殿筋や中殿筋も合わせて評価することで、どの髄節に障害が発生しているのかおおよそ推測できます。

疼痛評価

ガイドラインではLDHの疼痛について、

腰椎椎間板ヘルニア 37 例と椎間板障害 19 例の比較検討では、椎間板障害では下肢痛 は 42%、腰痛のみの症例を 58%に認めたのに対し、椎間板ヘルニアでは下肢痛は91%、 腰痛のみの症例は9%にすぎず、一般に腰椎椎間板ヘルニアでは下肢痛を呈する場合が 少なくない。問診では、この下肢痛の部位および分布領域を詳細に問診する必要がある。

推奨グレードC:日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン「腰椎椎間板ヘルニア」

このように記載されており、

L5 または S1 神経根症状を呈した腰椎椎間板ヘルニア 80 例での、発症、疼痛、労災、 側弯、局所の筋スパズム、指床間距離、下肢伸展挙上(straight leg rising: SLR)、麻 痺、筋萎縮、腱反射異常、知覚障害などとその診断能力を評価した研究では、疼痛の部位と坐骨神経痛が最も診断精度が高く、その他の項目は診断精度が低いか、まったく診断的価値がない。

推奨グレードC:日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン「腰椎椎間板ヘルニア」

とも記載されています。

それほどLDHの評価として疼痛評価は重要だと言えます。

疼痛評価では、下肢痛の有無とその分布を的確に問診し、評価する必要があります。

デルマトーム
デルマトーム

デルマトーム(皮膚分節野)を参考に、特に好発部位である、

  • L4
  • L5
  • S1

の神経支配を覚えておくとスムーズに評価ができます。

運動療法

LDHのリハビリにおける運動療法では、腰椎の前彎を促すことが有効です。腰痛に対して行われるMcKenzie (マッケンジー)の運動療法によって腰椎の前弯を促すことができます。

McKenzie (マッケンジー)の運動療法

McKenzie の運動療法は1979年に提唱された古典的な運動療法で、簡単に言うと、腰痛がある患者に体幹伸展位を取らせることで腰椎に掛かる力を軽減させようとするものです。

Mackenzie
Mackenzieでは、必ず背中の力を抜いて腰椎を前彎させます。
マッケンジー2
肘を伸ばして腰椎の前弯をより強める姿勢。あくまで生理的な前彎に留め、過剰な前彎は行わない様にします。

腰痛の大部分は、侵害刺激受容器を含む組織の構造的ストレスといった機械的根拠に基づくため、力学的な作用により治療できるとして考案されました。

Mackenzieの体幹伸展運動は筋力収縮を伴わない他動運動です。

筋力増強を伴う体幹伸展運動では、椎間板内圧は立位時の1.8倍~になる(Nachemsonの研究による)とされており、Mackenzieの伸展運動はLDH患者に最適な運動です。

腰痛体操で有名なウイリアムズの腰痛体操は屈曲方向の運動が多いです。しかし、体幹屈曲位は椎間板への圧力を強める肢位です。

考えてみると、体幹は屈曲も伸展も充分にできることで初めて本来の機能を保証されています。しかし、腰痛治療における運動療法では屈曲位を取らせるものが主流で、Mackenzieの運動療法は逆に伸展位を取らせます。

よって、屈曲の運動だけでなく、伸展の運動も合わせて行い、どちらの方向へも体幹を動かせる、という状態を作っておくことがベストだと考えています。

特にLDHの場合は、体幹屈曲位で髄核を後方へ押し出す方向に圧力が掛かるため、伸展位を取ることで、圧力を下げ、症状を緩和できる可能性があります。

 

しかし、一方でガイドラインを確認してみると、以下のような記載もあります。

McKenzieの運動療法は,急性腰痛に対しては短期間若干の効果は認められるが、慢性腰痛に対する効果は明確でない。

推奨グレードC:日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン「腰椎椎間板ヘルニア」

慢性腰痛に対する効果は明確でない、とされていますが、エビデンスはあくまで統計的科学的なものなので、全ての人に確実に共通するわけではありません。「明確でない」このような文言で記載されている場合は特にそう言えると思います。

実際に行ってみて即時効果が少しでもあれば、その患者さんがMackenzieの体操を行う価値はあるのではないかと個人的には思っています。

日常生活指導

椎間板に圧力が強く働く座位姿勢を注意してとらないようにすることでヘルニアの症状を緩めることができます。

座位姿勢の指導というと、「胸を張って」など、体幹の屈曲・伸展の角度コントロールを意識することが多いと思いますが、LDHの場合、腰椎の彎曲が重要となります。

体幹の屈曲・伸展に関係なく、腰椎が前弯していないなら圧力は椎体に加わりやすくなります。具体的にはこのように腰椎を前彎させた座位姿勢をできるだけ取るように指導します。

腰椎前弯位での座位姿勢

もちろん、本来は座位姿勢を長時間取り続けること自体が腰椎に負担を掛けるため良くありません。

可能な限り長時間の座位姿勢保持は避け、

  • 姿勢をこまめに変える
  • 立って体操をする

などで椎間板内圧を小まめに逃してあげる方がベストです。

事務職や運転を仕事とする方は実際問題簡単にできることではないと思いますが、できる範囲で行うと良いでしょう。

物理療法

牽引療法もLDHに対して行われます。エビデンスはありませんが、症状が緩解する症例であれば検討することも必要だと思います。

ホットパックも過剰な筋緊張を緩和させます。疼痛が筋にまで波及している腰痛がある方には効果的です。

まとめ

腰椎椎間板ヘルニアのリハビリにてついて要約すると、疼痛や姿勢の評価を行い、腰椎前彎姿勢を矯正していくことに尽きると思います。

これだけ巷で良く聞く疾患にあるにも関わらず、ガイドラインを見てもエビデンスの高いこれといった運動療法はなく、個々の患者さんの生活状況や様子を注意深く観察しながら適宜対応していく必要があると思います。

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