地域高齢者の深刻な”生きがい喪失”問題・・社会問題解決に挑む「ソーシャルビジネス」とは?


社会の進化に伴い、一見すると社会はより便利に、より安全になっているように見えます。しかし、一方で課題もどんどんと増えています。貧富の差の世界的な拡大、貧困層の住むスラム街、ホームレス、子育て支援・教育、高齢者の孤独・疎外感、待機児童問題・・・。社会の中で政府も企業の力も及びにくい、そんな問題に挑む「社会起業家」と呼ばれる存在があります。

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日本の地域での福祉分野(医療・介護)では、今後地域包括ケアを構築していくという案が政府より提示されています。しかし、あくまで基本方針のみで、具体的な内容は地域毎に今後、独自に創り上げていくことになっています。

理学療法士として、現場の地域・在宅で実際に働きながら、地域の保健・福祉について色々と調べていると「ソーシャルビジネス」という言葉に出会います。

物質的豊かさと引き換えに”精神的充実”や”生きがい”を失くしていく日本

高齢者問題

地域に住む高齢者の問題は非常に深刻だと思います。

全ての人がそういう訳ではありませんが、生きがいも無く、ただ漫然と毎日を過ごしている、そんな高齢者の実態が地域には確実に存在し、実際に地域で働いている私は強く実感します。

少なくない数の高齢が「テレビのお守りをしながらお迎えを待っている。」と言います。

 

既存の社会保険制度ではハリボテの様なもので(もちろんあるだけでもマシですが。)、形だけは整っているように見えても、決して高齢者の本当の問題、核心の部分には触れられていない印象を強く受けます。

現在、日本の65歳以上の高齢者の割合は40%程度、およそ10年後の2025年には実に全人口の半分がお年寄りになります。

参考)厚生労働省

 

何とか早く手を売っておかなければ、個人の幸せを追求する社会とは程遠く、実に人口の半分にも及ぶ人の生きがいや精神的充実が得られないで”生きているだけ”という状態になるかもしれません。

 

そんな中で、ソーシャルビジネスは救世主となりえる、非常に大きな可能性を秘めたビジネス手法だと思います。

地域での私達療法士の今後の活動にも大きく関係していると思える内容だったので、以下にソシャールビジネスについてまとめてみました。

ソーシャルビジネスとは?

社会的事業という意味のソーシャルビジネスとは、以下の様な社会問題を市場として捉え、持続可能な経済活動を通して問題解決に挑む事業のことを言います。

市場として捉えている社会的課題には主に、

  • 環境問題
  • 貧困問題
  • 少子高齢化
  • 人口の都市への集中
  • ライフスタイルや就労環境の変化等に伴う高齢者・障害者の介護・福祉
  • 子育て支援、
  • 少年・生涯教育
  • まちづくり・まちおこし 

などがあります。

少し前であれば、上述のような課題の解決は、主に国や地方自治体が担ってきました。

しかし、人々の価値観やニーズが多様化し、行政だけではこうした社会的課題への対応が難しくなっている中で、社会的課題を市場として捉えて持続可能な事業を展開していくソーシャルビジネスは今後の活躍が非常に期待されている分野です。

 

こういった分野は、後ほど詳しく説明しますが、基本的にマイノリティ(社会的少数派)を対象とする場合が多くなるため、事業化するのが難しい性質があります。よって、国や地方自治体の力が及びにくい範囲に対して、市民自体が組織・運営するボランティア、自治体、NPOなどによって支えられてきたという一面もあります。

 

国の公的な施策が及びにくく、かつ、企業が収益化しにくいがために放置されてきた問題こそが、上述の社会的課題です。

ソーシャルビジネスが一般的な営利目的の企業と違うところは、利益の追求よりも、それらの社会的課題の解決に注視していることです。

一方で、ソーシャルビジネスがボランティア活動と異なるところは、社会的課題に取り組むための活動資金を、寄付や行政からの助成よりも、ビジネスの手法を活用して自ら稼ぎ出すことに重点を置いていることです。

収益を度外視したボランティアでもなく、一般企業のように収益化だけを目的としているわけではない。線引きの難しい、境界の曖昧な分野とも言えます。

 

ソーシャルビジネスの組織形態は、「特定非営利活動法人(NPO)」が46.7%で最も多く、 「株式会社等営利法人」(20.5%)、「個人事業主」(10.6%)と続きます。NPO法人が最も多く、 現状ではNPO法人がソーシャルビジネスの主な担い手となっています。

参考)NPO法人とは?

収益化が難しいビジネスモデルですが、 収支状況は、「黒字」が25.3%、「収支とんとん」が38.1%、「赤字」が27.5%で、赤字は比較的少ないですが、経営状況はぎりぎりの組織が多いと見られています。

収入源をみると、小規模組織ほど「公的機関からの委託・補助金」への依存度が高く、事業収入は少ないです。寄付割合は事業規模にかかわらず、共通して極めて少ないとのことです。

参考・引用)ソーシャルビジネスを取りまく現状と課題について

ソーシャルビジネスの定義

もちろん、政府もソーシャルビジネスを後押しする姿勢を表明しています。

 政府広報オンラインによると、ソーシャルビジネスは次の要件を含んでいること、と定義されています。

  • 社会性(上述の社会的課題を事業の対象としていること)
  • 事業性(継続的に事業を進めていくこと)
  • 革新性(新しい社会的商品・サービスやそれを提供するための仕組みを開発したり、新しい社会的価値を創出したりすること)

ソーシャルビジネスの起源

ソーシャルビジネスがなぜ起こったのか、その起源を知ると、本質を掴むことができると思います。

 

ソーシャルビジネスという考え方は、世界中でイギリスとアメリカから起こってきます。

 1997年1月、「社会起業家」という概念を世界に広げる大きなきっかけとなったレポートが英国で出版されました。シンクタンクDEMOSによる「The Rise of the Social Entrepreneur」です。

1960年代までの英国は「揺りかごから墓場まで」という言葉に象徴されるような福祉国家でした。しかし、福祉が充実すると、70年代には勤労意欲が停滞し、国家福祉に依存する「英国病」と呼ばれる状態に陥り、活力を失います。

ここで英国は、「政府が何もかも主導して福祉政策を進めると様々な弊害が出てくる」ことに気づき、社会的な課題を解決する企業家の育成を後押しするようになります。

 

政府が福祉事業でお金を出すと予算の範囲内のことしかできません。つまりお金は経費に消えてしまいます。

しかし、社会的企業(ソーシャルビジネス)にお金を出し、社会的企業が新しい付加価値や雇用を生み出すことができれば、予算を超える効果を生み出します。つまり政府の支出は社会的投資となります。

このような考え方から政府は、積極的に社会的企業を推進しました。つまりは企業を育てる、という視点を持つに至った、ということです。

現在の日本の介護や福祉業界でも似たような状況が起きていると思いませんか?

 

少し遅れてアメリカでも、1980年に発足したレーガン大統領は、ニューディール政策以来の政府主導で課題を解決する「大きい政府」から、減税と規制緩和による「小さい政府」へと転換し、民間企業を活性化させる方針を取ります。

 

ソーシャルビジネスはこのようにして生まれていきます。

世界中で経済が充実し、国の福祉政策が高まると同時に、その弊害も一層際立って目立つようになってきます。そういった問題を解決するべく、各国政府の後押しもあり、活発化してきた分野がソーシャルビジネスである、と言えます。

国への依存や国主導ではなく、コミュニティ単位で、現在は潜在化してはいるが本来「持っている力」に注目し、能力を発揮できる機会を広げていく。

(リハビリ業界で言うとICIDHは障害などできないことに焦点を当てているのに対して、ICFはできることに焦点を当ているのに近いと思います。)

そして機会を持続的に維持、拡大していくためにビジネス手法を活用する。

このような解決法は、国やテーマが違えども、現在では不可欠なアプローチになっています。市民の自発的な協力を引き出し、費用以上の効果を得ることは社会的課題を解決するためには必須なのです。

つまり、現場の状況、政府の制度・施策は国や分野ごとに異なるのですが、その両者の間には隙間があり、その隙間を埋める持続発展可能な手法が必要なことは最早自明のことになっています。

ソーシャルビジネスの事例

具体的にソーシャルビジネスを理解するために、事例をいくつかご紹介します。

グラミン銀行

グラミー銀行

貧困層にお金を無利子で少額融資を行う、「マイクロクレジット(マイクロファイナンス)」というソーシャルビジネスがあります。

1974年、インドのバングラデシュ出身の経済学者であったユヌス氏が世界で初めて立ち上げました。

 

ユヌス氏は、貧困層はお金がないために、高利でもお金を借りるしかない生活が続き、いくら頑張って働いても利息の返済で全て消えていく、ということに気づきました。貧乏であるが故お金を貸してくれるところも限られており、何かを作って売るにも元手を捻出するために、そういった高利貸しからお金を借りるしか方法がなかったのです。

それを無利子で少額貸出し(少額でも彼らにとっては大金で様々な可能性が生まれます)、仕事が終ったら返してもらう、という融資方法です。

このお金は彼ら自身によって、彼らの潜在的な能力を引き出す自立支援のために使われる目的で融資され、グラミー銀行はそのためのアドバイスや機会の提供も行います。

2006年にユヌス氏とグラミン銀行はノーベル平和賞を受賞しています。

マドレボニータ

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画像引用)マドレボニータHP

現在の日本でも産後の女性の実態を伝え、産後ケアの必要性を社会に認知してもらうため活動しているNPO法人「マドレボニータ」があります。

子供が生まれると、どうしても子供中心の生活になります。しかし、女性はいつまでたっても美しくいたいものですし、産後の体は想像以上にダメージを受けており、適切なケアが必要です。

社会通念としては、「子供が生まれたら子供のために生きるのが普通だ。自分のことは二の次にするもんだ。」という感覚があり、こういった産後女性の「健康で、女性らしく綺麗でありたい」という純粋な気持ちはないがしろにされ続けている現状があります。

そこで、産後ヘルスケアを精神面、経験面、身体的側面から総合的に学ぶ機会を与えている場が、このマドレボニータです。

それだけでなく、産後女性の研究や啓蒙活動も行っています。

 

以前の記事でも書きましたが、産後ケアの教室なのに「子供は連れてこないで下さい」と敢えて言い、女性が自ら子供を預けて、自身の人生を見つめ直す機会を与えるなど、気づきや成長を与えるような教育も活動の中で行っています。

ただのジムであれば、そういった概念は皆目なく、ただ「質の高いサービス提供でリピーターになってもらう(ひいては自身の利益のため。)」ことを目指している中、本当に客のためを想った活動が非常に好感を持てます。

「お金儲けだけで言っているのではない」ということが良く理解できると思います。

 

資本主義下のサービスを受ける時、「お客様のために」と形だけ唱えている企業は多いですが、消費者も当然裏にはその企業の儲けのために言っていることを知っており、正直実体のない、形だけの言葉である場合も多いのではないでしょうか。

しかし、ソーシャルビジネスの企業が言っている場合、多くは本当に客の成長を願っており、決して客もサービスをただ享受するだけなく、自ら動く、努力するという姿勢が必要になってきます。

 

私はいつも思うのですが、人生で本当に価値のあるものはたいがい手間が掛かってめんどくさいものです。

家族を持つこと、自分を成長させるために仕事を頑張ることなどが良い例です。決して楽ではないです。

 

しかし、”マクドナルドのドライブスルー”のように、お金さえ払えば一生ものの幸せや価値が手に入る、なんてことはありえません。

現代の賢明な消費者も、もちろん薄々そんなことには気づいていると思います。

ビッグイシュー

ビッグイシュー

画像引用)ビッグイシュー 日本版HP

皆さんも街を歩いていて、ホームレスの方が雑誌を売っているのを見たことがあると思います。あの雑誌こそが「ビッグイシュー」です。

ビッグイシューは1991年にロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊されました。ホームレスの方の救済(チャリティ)ではなく、ホームレスの方に仕事を提供し、自立を応援する事業です。

1冊は350円で販売されており、180円(おおよそ半分)が販売者の収入になります。雑誌は、以下のような「ホームレス自立のステップ」を具体的にリサーチしてから価格を設定しており、まさしく「ソーシャルビジネス」としての意味合いが強くあります。

  • ホームレス、自立への3つのステップ

自立は人それぞれ、人の数だけかたちがあります。私たちは、自立とは自らの力で生活を立てているという“自覚”と“誇り”ではないかと考えています。自立へ、私たちは次の3つのステップを考えています。
・第1ステップ 簡易宿泊所(1泊千円前後)などに泊まり路上生活から脱出
(1日20~25冊売れば可能に)
・第2ステップ 自力でアパートを借り、住所を持つ
(1日25~30冊売り、毎日1,000円程度を貯金、7~8ヶ月で敷金をつくる)
・第3ステップ 住所をベースに新たな就職活動をする
今、販売者の多くは第2ステップに挑戦中です。

引用)ビッグイシュー日本版HP

皆さんも街頭で見かけたらぜひ購入してみて下さい。すごく面白い情報がたくさん掲載されていますよ。

 

ちなみに、プロブロガーのイケダハヤトさんもプロフィール欄に『ビッグイシュー・オンライン』編集長と記載があります。

実際にブログ内で啓蒙されている高知限界集落の”まち・むらおこし”も、ソーシャルビジネスとしての視点がかなりあると思います。

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ソーシャルビジネスの課題

私は療法士として、やはり、人の役に立つこと、人に喜んでもらえる仕事にすごく興味がありますし、自身の仕事がそれを本質的に持っていることを誇りに思っています。

ソーシャルビジネスは私にとってはすごく理想的で素晴らしい事業形態に思えます。しかし、何かしら課題となる点があるはずです。少し調べてまとめてみました。

社会的認知度の不足

例えば、先ほど挙げた「マドレボニータ」でネットで検索してみると、「マドレボニータ 宗教」という検索ワードが表示されます。ソーシャルビジネスは今までのサービスと違って、教育的な思想をもっているので、そういった風に勘違いされる方も多いのだと思います。

それくらい、ソーシャルビジネスの経営方針は浸透していないと推測できます。

社会的認知度がないと、行政やパートナーからの資金調達も難航することが多いようで、経営面でも死活問題となります。

社会性と事業性の両立させるためのノウハウが少ない

新しい分野で成功事例が少ないため、事業としてのノウハウが完成されていません。 ソーシャルビジネスは上述のように、革新性を持つ事業なので、既存の市場がある今までの事業と違い、市場自体を創造していく性質を強く持ちます。よって、当然サービスの適正価格も未知数で、価格設定すら困難なことが想像できます。

また、ホームレスの方や障害者などマイノリティを対象としているため、対象自身が何を求めているのか分からない(需要がはっきりしていない)ということが多々あります。

私が日々業務で出会う生きがいを喪失した高齢者だって、「何をしたいですか?」と聞いたところで、「何もしたくない」と答える人が多いのではないでしょうか。

そんな方を対象としているため、どういった切り口で需要を発掘していくのか、非常に難しい問題だと思います。

つまり、市場を開拓しつつ、対象の支援を行い、自身が求めているものを明確にしていくお手伝いも行っていかなければならない、ということです。

 

「売って終わり」というスタイルでは当然なく、その後の対象の成長を支援していく姿勢が必要で、それは当然ながら簡単なことではありません。

まとめ

色々調べてみても、個人的には、ソーシャルビジネスは、療法士やセラピストと非常に相性の良いビジネス形態だと思います。

完全に療法士の”ドストライクゾーン”の事業形態だと思います。笑

 

今までは事業化が難しい分野であるため、放置されてきた傾向がありますが、ここ最近のICT技術の発達で、昔では困難であった、人と人とを繋ぐマッチングサービスの登場など、ネット上で様々な可能性が検証されはじめ、それに伴い今後もっと注目を集めるようになると思います。クラウドファンディングなどとも非常に相性が良いです。(イケハヤさんがブログを通してまち・むらおこしをしているように、ネットを活用することでアイデア次第で様々な可能性が考えられます。)

 

私の周りでもNPO法人でそういった事業を手掛けているところがあるようなので、実際はどのように地域で活動しているのか、非常に興味があります。今度アプローチして潜入してみたいと思っています。願わくば、療法士の新しいキャリア構築の形の人柱になりたいと思っています。笑

また、その時は当ブログでご紹介させて頂きますので、ご一読頂ければ幸いです。

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