今後確実に”触らないリハビリ”が主流になっていく理由と,具体的な”触らないリハビリの方法”

触らないリハビリの方法


「患者さんに触らないリハビリ」が今後主流になっていきます。一年ほどの前に、回復期病院から地域で働く訪問リハビリに転職して、今ではこれは確信に変わっています。




「プラットホームの土方」を目指すリハビリ

「臨床で汗を掛け、プラットホームの土方を目指せ!」そう以前の病院では教えられました。

しかし、訪問リハで勤務していると、「ちょっと何か違うなぁ・・・」という違和感が始めからありました。

 

結局何かは分からなくてずっ~と考えていたのですが、今では、触らないリハビリが今後主流になっていくことは間違いないと確信しています。

 

先日書いた記事で、 リハビリにおいて自主トレを継続させる方法という記事の中で、

  • 「湖のそばで飢えている人をどう助けるか?」

という話をしました。

 

例となる回答は主に以下の3つ。

  1. 自分が魚を取ってその人にあげる。→相手と依存の関係性を築く行為
  2. 釣りの方法を教えて魚を自分で取れるように教える→自立した関係を築く行為
  3. 釣りの方法+釣った魚を市場で販売する方法も教える→自立し、自ら発展していく関係を築く行為

現段階での病院の教え「臨床で汗を掛け、プラットホームの土方になれ!」というのは、どう考えても1の「自分が魚を取ってその人にあげる」ということを意味していた、としか思えません。

つまり、臨床経験を通して治療技術をひたすら学び、患者に施せ、ということですね。

 

この「湖で飢えた人の問題」は実はかなり奥が深い話で、子どもと親の教育の話にも使えますし、資本主義社会の欠点を突く議論にまで使えたりします。

旧来のリハビリの方法の致命的な欠点

今回のお話「触らないリハビリが今後主流になって行く理由」には、

  • 経済状況≒診療報酬
  • 社会構造の変化

などの社会的要素が大きく関係しているので、再びこの「湖で飢えた人」の話を出し、資本主義の欠点についてまずは主張していきたいと思います。

 

基本的に、資本主義社会では、金銭を支払う代わりに物やサービスを享受できますが、その作り方や方法は企業秘密として隠されていることがほとんどです。

”コーラの作り方”自体をコーラそのものと一緒に販売すれば、買う人は増えるし、スーパーで100円で売っている同じ500mlでも、例え1万円出しても買う人がたくさんいるでしょう。(人と場合によっては1000万でも安いと思うでしょう。)

しかし、この方法で一回売ってしまえば、みんな自分でコーラを作り始めてしまう可能性があるため、もう買わなくてもよくなる。販売元はそれ以降儲からない可能性が高い。長い目で見るとそんは危険な戦略は絶対に取るべきでない。

 

よって、資本主義社会では、敢えて消費者と依存を作り出す関係性を構築するために市場があり、知らず知らずに私達は商品やサービスに依存しています。

消費者を依存させる手法が巧妙で、かつ消費者の満足の高い状態を作り出し、”リピーター”とか、”ファン”というポジティブな言葉で表現されています。

冷静に眺めてみると、ただ「共に依存関係が強くあるだけ」の状態です。

 

つまり資本主義社会下の「湖の飢えた人」の話では、主に1の「自分が魚を取ってその人にあげる方法」で問題を解決してきた経緯があります。そしてそれがもっとも簡単に消費者の「飢え」を満たすベストな方法だと思われています。

 

しかし、それが故に問題もたくさん生み出してきました。

一つ例を出すと、”リピーター”や”ファン”にお金が無くなって、それ以上リピートできなくなった場合です。

お互い依存する関係で成り立っていたので、どちらか一方に決定的に何か問題が起こり、共依存の関係性が少しでも崩れてしまうと、お互い酷いダメージを受けます。

リハビリ分野も資本主義の構造の上にのっかっているので、全く例外ではなく、地域で働くとみんなすぐ分かると思うのですが、圧倒的に1の「依存関係を構築する手段」を今までそのサービス提供の方法として選択してきています。

 

そのための知識や技術研鑽のための方針として「汗を掛け!プラットホームの土方になれ!」という教育がつい最近まで(私がそれを実際に言われていたのは3年ほど前です。)なされてきたのではないかと思います。

これは既存の医療・介護業界も全く同じで、治療、あるいは介護力というものを媒介にして、患者、利用者と依存関係を作り出し、リピーターにお金を提供してもらう、という構図をもとに発展してきたと言えます。

介護保険法では「自立」の概念が謳われていますが、実質は「湖の飢えた人」の1の方法を何の疑問もなしに行っている状態で、自立を支援する立場であれば、本来は2の「釣り方を教える方法」を取っていかなければならないはずです。

なぜそうなったのか改めて考えてみると、これは決して、介護職が悪い、医師が悪いという現場レベルの手段の選択・方法の誤りの話ではなく、そもそもの土台が間違っていた、という事に尽きると思います。

資本主義の価値感の上に本当の自立の概念は存在できない可能性が限りなく高い、と言えるのではないでしょうか。

商品やサービスに依存して、リピーターになってもらってお金を落としてもらわなければ経営が成り立たないのですから、これは当然といえば当然です。そもそも、そこに大きな矛盾点があります。

資本主義の欠点を補う形で出現した”ソーシャルビジネス”の出現

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この例のように資本主義の弊害があちらこちらにみられるようになると、それを解消するビジネスも現れます。その一つとして今後活躍が期待されている分野で「ソーシャルビジネス(SB)」があります。

 

資本主義が行ってきた1の方法では矛盾が生じ、取り残されてきた分野を、積極的に攻略しようとしているのが「ソーシャルビジネス(SB)」です。

参考)SBとは?・・社会問題を解決するためのビジネス。知名度の高いところでは、ホームレス支援のための雑誌「ビッグイシュー」などが有名。他にも貧困層の支援(マイクロファイナンス)、産後女性のヘルスケア支援事業、障害者就労支援事業などが代表的。

 

SBでは「客を教育する」と言う視点がビジネスの中に含まれており、「湖の飢えた人」の話では限りなく2の答えに近いサービス提供の形がまず検討されます。(うがった見方をするとこういう側面があるがゆえに資本主義と方向性が合致せず、取り残されてきた、とも言えますが。)

例えば、あるSBの産後ヘルスケアのためのヨガ教室では、敢えて「1才以上の子供を連れて来ないで下さい」と客に伝えます。「こちらで託児所などは用意していないので、あなたは自力で子供を預ける場所を探して、子供を預けて来て下さい。」と。

 

そんなことを言われると、資本主義にどっぷり浸かった客は、「なんて理不尽で不親切なところだ。こっちは客だぞ!お金払ってんだぞ!」と思うのが普通でしょう。

しかし、ヨガ教室はこの機会を通して「困った時に子供を預けられる場所を作る方法」を客に実際に体験して教えようとしています。

このように、SBには客を教育し、サービスに頼らなくても自立できるように支援する、といった基本方針があります。

つまりは、資本主義の次の段階として、客の教育という価値を提供していくSBのようなサービスが増えてくるのではないか、ということです。自立を促すサービス、1度関われば人生が変わってしまうようなサービスの価値・質を持った事業が普及してくる。そうなると、当然リハビリ業界もそちらに便乗していくべきでしょう。

”触らないリハビリ”で患者の本当の自立を促すことが「治療」となっていく

ちょっと調べると分かると思うのですが、私達のリハビリの主な対価・収入源である国はもうお金を出せない、と言っています。リハビリの効果がどうのとかいうレベルではなく、もうこれ以上お金を出せません。

だって、これから国の税収が減っていく見込みが強いのですから、その事実だけを見てもこれは自明のことです。

たとえ今後リハビリが介護予防にむちゃくちゃ効果的だ、という結果を証明したとしても到底無理です。

未だに診療報酬を上げるためにはどうすれば・・とか、その時点の話をしている人はあまりにも情弱と言わざるを得ない気がします。恐らく医療業界の状態しか見ていないのではないでしょうか。

 

じゃあ、もっと勉強して、「専門性」を強めて、特化した分野で治療院を自費で開業する、という方法も全然ありですが、実際のところかなり経営は厳しいでしょう。

色々理由は考えられますが、一つ今回の記事に沿った理由を挙げるとすると、私たちの専門性は「治療面」には強くはない可能性が高いからです。あっても医師にはかないません。

恐らく私たちの専門性は、「個別性の評価」といったところにあります。

医師は病名の診断は出来ますが、当たり前ですが、一つの病名でも個人によって微妙に症状がそれぞれ違います。

さらに、その症状が各々の生活に及ぼす細かい影響までは把握できません。

医療知識を持って、より深く患者個々の生活に潜り込むことができる私たちは、そこに1番の専門性を発揮するでしょう。 よって、治療面に特化するとしんどそう、という想像できます。

 

診療報酬が減り、大きな流れとして、リハビリの量的な質の充実は今後望めません。

原則としてリハビリのアウトカムを人体の何らかの生理的な変化に求めている以上、一定の期間や量はどうしてもある程度必要です。

なので、そこにリハビリの質を求めてしまうと立ちいかなる可能性が高い。

 

しかし、短期間の介入でも、その人の環境や意欲、情動の面に変化を与えることは可能です。

情動や意欲が変われば、生活が変わり、ICFで言うところの参加にも影響を与え、それに付随して身体の変化が起きてきます。

良い波及効果が望めます。機能面から捉えるのではなく、逆から考えて、ドミノ倒しのような効果を狙ったリハビリを目指します。

そのためには当然その人の生活や細かい性格の特徴、環境因子などを熟知しておく必要があります。

さらに自分が行う行為の波及効果まで視野に入れた関わり方を考える必要があります。

リハビリにもお客さんを教育して自分でできるようにする、という視点が今後非常に重要で、湖の飢えた人の話では、2の「釣り方を教える」方法論を取っていかなければなりません。

リハビリの中で、自身が行っている治療の方法をどうやったら患者自身が行え、どうやったら自分で自身の身体と精神の適切なメンテナンスができるようになるか、そこを考えて実行していかなければなりません。

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”触らないリハビリ”とは実際どんな感じなのか?実例を紹介

私が病院勤務時代にこんなことを言われても、「触らないリハビリ」が一体どんなものか全く想像が付かなかったでしょう。「この人何言ってんだ?・・」って思ってしまうかもしれません。

なので、一例として、実際に私が実績している”触らないリハビリの方法”をご紹介しておきます。

症例とアプローチの方法

症例は70歳代の女性で、両膝関節OAで骨変形が重度(OPE適応レベル)です。介護に献身的な夫と2人暮し。臥床時にも疼痛があり、心因性の慢性疼痛のような症状があります。

OPEは拒否されています。

参考) 何をしてもず~っと痛い!長く続く原因不明の痛みとは?慢性疼痛の原因とリハビリにおける対処・治療法

 

週二回、1回40分のリハ介入です。

もちろん、自動、他動的に下肢を動かすと疼痛が強く、ご主人が介助の時に触ることもままならない状態でした。

痛み止めの内服はご自身の宗教上の都合から拒否されていました。

私は介入と同時に両側支柱付きの膝サポーターを主治医に打診して作成し、初めは疼痛のため過剰に緊張した膝周りの筋肉の緊張を取っていきました。

この時はまだ触るリハビリです。

やがて、手技で過剰な膝周囲の筋緊張の緩和を図りながら、「私がほぐしているのだから」動かしても痛くないという状態を本人に意識付けるように図りました。(治療の内容うんぬんよりも私が触っている、ということを”痛みが和らいでいくきっかけ”と捉えてもらえるように接していきます。)

そうすると、パテラセッティングを行っても痛くない状態になりました。

参考) 変形性膝関節症のリハビリに効果的!10倍効果が出るパテラセッティングの方法

そこで、製作依頼していた膝サポーターが完成し、動作練習に移っていきます。膝の屈伸が動作中に入るとどうしても痛いので、膝サポーターをつけて、電動ベッドの高さを上げ、端座位から膝伸展位のままでゆっくりお尻をベッドから降ろして立位を取る、という立位練習を行います。

ここからはほとんど私は触りません。

主介助者であるご主人に、同じ方法で立位練習を行ってもらうようにお伝えします。(もちろん一緒にリスク管理の方法もお伝えしています。)

ここで、自主トレとして、と言う風にはあえて伝えず「このように1日1回以上は立ってできる範囲でテレビを観るようにして下さい」と伝えます。

義務感や責任感を感じやすい患者さんの性格では逆に心理的に負担になってしまう可能性があると思ったためです。

 

そうすると、次回私が訪問した際には、「先生、1分立っていられるようになりました!」とご主人が満面の笑みで報告してきてくれるようになりました。

 

私はそれを実際に目の前でやって見せて貰います。

そして、本人、ご主人と一緒にやや大げさに喜び「すごい!すごい!」と連呼します。笑

しかし、一方で以前介入時と比べて立位姿勢の変化を再評価します。

もちろん外から見たら”ただ見ているだけ”です。

そして、次は両上肢で支持物を突っ張って支持していたのを、両手の指だけで支持するようにしてやってみて下さい。と伝えます。

こうやっていくと、ほとんど私が触らず、ご主人と協力しながら介入開始から2か月位かけて立位が安定して取れるようになっていきました。

ごくまれに「痛くてそんなことできない」と言われる場合もありますが、その時には少し、ほんの数分だけ触ります。大したことはしていません。本当に触っているだけ、です。

現在はこの段階です。

しかし、触っていた頃よりも明らかに本人の回復への意欲が強く、実際に動作も改善していっています。

ご主人との関係性も良くなっているように感じています。(以前は、痛いから触らないで!とご主人の接触を拒否することがありました。)

 

このケースは偶然様々な環境因子や個人因子が充実しているケースで合ったため、上記の介入方法で大方上手く行っている、と判断しています。

もちろん、他のケースでは、なかなか、こう上手くいくことは少ないです。しかし、こんなリハビリの方法もある、ということを知っていると、自身のリハビリ介入方法を見直すひとつのきっかけになるかもしれません。

まとめ

時代背景を考慮すると、今後リハビリに量的な質を求めることは困難になります。その時に”触らないリハビリ”の方法を検討することが必要になるかもしれません。

もちろん、従来の「治療」に焦点を置いたリハビリでの介入方法も必要で、どちらが良いという話ではありません。

ただ、これからはこういった”触らないリハビリ”の方法も大多数のセラピストが認知していくことになることは間違いないと思います。

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