リハビリでのバランスにおける姿勢制御「足・股関節戦略,ステッピング戦略,臨床でのトレーニング方法」

バランス,足関節戦略,股関節戦略


人体は実に巧妙にバランスを制御し、動作を円滑かつ安全にコントロールしています。

今回はその中でも、立位時の姿勢制御における、

  • 足関節戦略
  • 股関節戦略
  • ステッピング戦略

についてご紹介します。




人体のバランス能力には実に様々な要素が深く関わり合い、緻密に制御が行われています。

人のバランス能力を構成する各要素と立位における姿勢制御の関係

まず、人体のバランス機能について理解するためには、システム理論を知っておくと良いと思います。

 

この理論は、「各器官の相互関係で人体における姿勢制御が成り立っている」としています。

 

 

具体的にどういうことでしょうか?

 

人が坂道を登ろうとしている時のバランス保持・姿勢制御で考えてみましょう。

上がり坂で真っ直ぐ立って歩くためには、体を少し前に倒す必要がありますよね。

姿勢制御ができない二足歩行のロボットが登り坂を上ろうとすると、後ろに倒れてしまうことは想像できると思います。

 

では、どのくらい体を前に倒すと良いのでしょうか?

それをどうやって人は計算しているのでしょうか?

 

外界の情報、つまり、この場合は傾斜した斜面であるという情報を、まず視覚から確認します。

視覚から取り込まれた坂道の勾配の視覚的情報は、小脳に送られ、小脳では今まで経験して学習した坂道でのバランスのとり方を参考にして、今目の前にある坂道では果たしてどれくらい体を傾ければ良いのか、ある程度推測し、計算します。

 

それから、坂道を実際に登り始めると、前庭系により平衡感覚の情報(身体が傾いているという情報)が加えられ、末端の効果器である筋肉を上手く調整し、坂道の傾斜に適した体の前傾角度を保ち、上手く姿勢を制御しながら登っていくことができるわけです。

 

しかし、例えば、

足関節に背屈制限があったり、

小脳の障害で、今までに学習したパターンとすりあわせる能力が欠如している場合、

坂道を登ろうと思っても、後ろに倒れそうになってしまったり、あるいは体を傾け過ぎて前に倒れてしまうかも知れません。

 

つまり、システム理論では、これらの、

  • 視覚情報
  • 体性感覚
  • 前庭神経
  • 筋肉・関節など末梢の効果器
  • 小脳などの中枢性の制御

が相互に関係しあってバランス能力を現実に適した最適な形で保っている、としています。

よって、この要素の内、一つでも掛けてしまうと、適切に姿勢を制御する能力が低下、あるいは消失してしまい、転倒しやすくなってしまいます。

 

これらの各要素や小脳の機能について詳しくは、こちらの記事 リハビリにおけるバランスとは何か?に記載していますが、それら以外にも、立位時、人は意識的・能動的に行われる姿勢の制御によってもバランスを取ることができます。

人の立位時の姿勢制御の3つの戦略

姿勢制御とは、そのままですが、姿勢を即座に変化させることで、空間における体の位置を制御することを通して、姿勢の安定化を図ることです。

これらの姿勢制御の方法は、姿勢戦略(戦略=ストラテジー)とも言われ、

  • 股関節を中心に行われる股関節戦略(ヒップストラテジー)
  • 足関節を中心に行われる足関節戦略(アンクルストラテジー)
  • ステッピング戦略(ステッピングストラテジー)

の3つがあります。

これらは独立して使われることもあれば、それぞれが共同してお互いに働きあってバランスを調整することもあります。

 

どれも臨床において非常に大切な概念ですので、以下にそれぞれ詳しく説明していきます。

股関節戦略(ヒップストラテジー)とは?

ファンクショナルリーチテスト

股関節戦略を説明するのに、最も分かりやすく、頻繁に例として出されるのが、バランス能力の評価方法のひとつ、ファンクショナルリーチテスト(FRT)です。

このテストは、足の位置を変えずに、できるだけ手を前に伸ばして、指先をどれくらい前方に伸ばせるか距離を計測するテストです。

(※参考FRTの評価方法について 足の指を鍛えてバランス能力改善!

 

このテストは、手の指がどれだけ前に伸ばせるかという距離を測るのと同時に、足関節と股関節の屈曲の程度を確認しておき、どちらの戦略も上手に使えているか確認しておく必要があります。

 

自身でやって頂けると一番よくわかると思いますが、精一杯手を前に伸ばそうと思うと、必ず股関節を屈曲させて、お尻を後ろに突き出すような姿勢になるはずです。

 

これが股関節戦略(ヒップストラテジー)です。

もうひとつ例を出すとすると、あなたが歩いていて、急に前の道がなくなったとします。(現実的にはあり得ないですが。)

 

そうすると「おっとっと!」となり、前に落ちてしまわない様に、股関節を屈曲させてお尻を後ろに付き出すような姿勢を取るはずですよね。

これも同じく股関節戦略により、無意識に落っこちてしいまわないようにバランスを取っています。

 

つまり、股関節戦略とは、バランスを保つ(安定させる)ために、股関節を屈曲させたり、伸展させたりすることを言います。

股関節戦略の特徴

股関節戦略を人が用いる場合は、大きく不安定な状態に置かれた時です。

股関節は骨盤帯にあり、骨盤帯には静止立位時、重心があります。

重心とは人の最も重いところと言えば理解しやすいでしょうか。

 

人が倒れてしまわない様に大きく姿勢を変化させたい場合、例えば、先程のファンクショナルリーチテストであれば、股関節戦略を使わなければ、上肢の重さが体の前に掛かるため、人は簡単に前に倒れてしまいます。

そこで、股関節を屈曲させ、お尻を後ろに付き出すことで、重心をやや後方に移動させ、バランスをとり、体が倒れてしまわないように安定させているということです。

 

これらの戦略は全て立位時に働くものなので、股関節を屈曲させると、足関節も自然に底屈します。逆に股関節を伸展させると足関節は背屈します。

 

よって、股関節戦略は足関節戦略と同時に働くのが普通です。

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足関節戦略(アンクルストラテジー)

足関節戦略
画像引用)http://buzz-plus.com/article/2015/02/18/michaeljackson/

足関節戦略とは、股関節戦略が股関節を操作するのと同じく、足首を操作してバランス安定を保つ戦略です。

先ほどのファンクショナルリーチテストでも、足関節戦略は使われています。

 

足首の底背屈や内外反によって、体を傾けることで姿勢を変え、転倒してしまわないように姿勢の安定を図る戦略です。

足関節戦略の特徴

足関節戦略は、

  • 高齢者が苦手としやすい
  • 小さい外界の変化に対応する
  • 外界へのクイックな反応が可能

という特徴があるとされています。

足関節戦略を高齢者が苦手とする理由

股関節戦略と比較して、足回りの筋肉、具体的には、

  • 下腿三頭筋
  • 前脛骨筋

などの筋力が弱いと、この足関節戦略の力を充分に発揮することができません。

 

また、足関節は背屈可動域制限を呈する場合が多く、足関節戦略を物理的に行えない方も多いです。

また、高齢者は円背姿勢になりやすいことも知られています。

円背

円背姿勢では、後方に重心が位置しているため、足関節を底屈させてしまうと、後方にかなり不安定になります。

この姿勢では、股関節戦略によって、体幹を屈曲させることはできますが、立位時に足関節はほとんど動かすことができません。

 

よって、高齢者は比較的足関節戦略を取りにくいと言われています。

 

また、股関節戦略では、人体の中でも大きな部位である股関節を動かすというダイナミックな動きが必要なため、クイックな反応は苦手ですが、足関節反応では、動かす部位が少ないため、比較的クイックな反応が可能です。

ステッピング戦略(ステッピングストラテジー)

例えば、あなたが立っていて、後ろから誰かに急に「どん!」と押されたとしましょう。

前方に転倒してしまわないように、勝手にどちらかの足が一歩前に出て、踏ん張って耐えると思います。

 

これがステッピング戦略です。一歩前に足を踏み出して姿勢を整える戦略のことです。

 

先ほどのFRTでも、手を前に伸ばし過ぎて、支持基底面を重心が超えてしまうと、足が前に出て、ステッピング戦略により支持基底面を前方に拡大させ、転倒してしまわないようにするはずです。

 

日常生活では、先ほどの例の様に

  • 後ろから押されたり
  • 何かしらの外力が急に加わったり
  • つまずいたり

して、急速に支持基底面を超えて重心が偏移してしまった場合に用いられます。

リハビリにおける臨床での姿勢戦略の考え方

おおよその姿勢戦略の概要が掴めたでしょうか?

 

臨床では知識を持っているだけでなく、使える様にすることが大切です。

具体的には臨床でどのように姿勢戦略を考慮していけば良いのでしょうか。

 

まず、対象とする方が高齢者である場合、先ほどのFRTなどの評価を行い、股関節戦略と足関節戦略が適度に使えているかどうか確認して下さい。

稀に変形性股関節症などで足関節戦略は使えているのに股関節戦略が上手く使えていない方もいますが、足関節戦略が機能しにくくなっていることが確認できる場合が多いと思います。

 

また、足関節戦略が使えないと、運動連鎖が破綻し、必然的に股関節戦略も稚拙になるので、足関節戦略が非常に大切なことがお分かり頂けると思います。

足部の機能は十分か?

もし足関節戦略が上手く機能していないと判断した場合、まず、足関節の機能の確認をしていきます。

 足部の構造と解剖

 

  • 背屈可動域はどうか
  • 前脛骨筋や下腿三頭筋の筋力はどうか
  • 足部の構造はどうか(アーチ)

確認してみて下さい。

 

また、運動連鎖により、膝関節に障害がある場合も足関節戦略が機能しにくくなります。

膝関節の機能評価も大切です。

運動連鎖は姿勢制御だけでなく、姿勢と動作の関係を考える時に必須の知識ですので、ぜひ理解しておきましょう。

運動連鎖を考慮し、問題点がないか各部分を評価して下さい。

 運動連鎖OKCとCKCとは?

 

また、姿勢制御において足部の内、足趾も重要な役割を持ちます。

先ほどのFRTをして頂ければわかりますが、前方に重心が偏移した時、必ず地面を掴むように足趾が屈曲すします。

足趾の筋力低下や変形がないか必ず確認しておきましょう。

 足の指を鍛えてバランス能力改善!足趾把持力強化トレーニングの方法

 

脳卒中の既往がある方は、筋緊張の亢進に伴い、足趾が屈曲しているクロートゥが頻繁に見られます。

クロートゥがある方は、足関節戦略が効果的に使えていない場合が多いです。

転倒歴はあるか?どんな状況で転倒しやすいか?

姿勢戦略を考慮する場合、転倒歴を問診し、過去にどんな状況で転倒しているか確認することも一つの参考になります。

つまずいて転ぶことが多い方は、歩行時の足の振出し時のクリアランスに問題があるかもしれません。

 

そういった方には、ステッピング戦略を引き出してあげるリハビリを考えると、より転倒しにくくなるかもしれませんよね。

でも、そういった方でも、歩行時、軸足の足関節戦略が上手く機能していないために、反対側の足のクリアランスが確保できていない場合も考えられます。

評価して精査していく必要があります。

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足関節戦略を促すリハビリトレーニングの方法

足関節に機能的に大きな問題なく、その方にとって足関節戦略が転倒予防に効果的であると判断した場合、足関節戦略を促すトレーニングを行います。

 

代表的なトレーニングが、バランスクッションを使った足部のトレーニングです。

バランスクッションの上で立位保持練習を行うことで、積極的に足関節戦略をトレーニングすることができます。

バランスディスク使い方 立位保持

不安定なバランスクッション上で、足関節の

  • 底背屈
  • 内外反
  • 足趾の屈伸

を繰り返しながら重心を支持基底面内に抑えるトレーニングを行います。

 

慣れてきたら、片脚立ちをするとより負荷が強くなります。

バランスディスク 片脚立ち

もちろん、転倒しやすいトレーニングなので、平行棒の中で行うか、部屋の隅の壁に囲まれている場所で行い、リスク管理に留意してください。

 バランスディスク(バランスクッション)の選び方とトレーニング方法

 

 

また、その他のリハビリで行われる代表的なバランストレーニングについては、こちらを参考にして下さい。

 リハビリで行われる代表的なバランストレーニング8種類

まとめ

姿勢制御は能動的に自ら姿勢を変化させることで、バランㇲを保ち、転倒を予防することができます。

立位時の姿勢戦略には、

  • 足関節戦略
  • 股関節戦略
  • ステッピング戦略

の3種類があります。

それぞれに特徴があり、高齢者は足関節戦略が苦手な場合が多くあります。(もちろん全部がそうではありません。評価が必要です。)

運動連鎖により、足関節戦略を機能させることで、股関節戦略も効果的に行えるようになることが多いです。

足関節戦略をトレーニングで引き出す代表的なトレーニングが、バランスクッションの上での立位保持や片脚立ち練習です。

 

臨床でバランス能力の低下が疑われ、転倒歴がある患者さんなどには必須の知識ですので、是非今回の記事を参考にしてみて下さいね。

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