脳卒中片麻痺の街中での歩行「エスカレーター・坂道・階段はどうやって歩いたら良いの?」

脳卒中 街中での歩行 エスカレーター


以前担当していた脳卒中片麻痺の患者さんから久々に連絡があり、「エスカレーターはどうやって乗ったらよいですか?」と質問を頂きました。

みなさんは、片麻痺の方がエスカレーターにどうやって乗れば安全だと思いますか?

今回は、脳卒中片麻痺の方が難渋しやすい場所での歩行の方法についてご紹介します。

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脳卒中を発症後、しばらく急性期の病院で入院し、病態が安定したら回復期の病院でリハビリを集中的に受けたという方が多いと思います。

回復期の病院は「自宅復帰」を基本的な目標としているので、自宅に階段がある方は、運動麻痺がある手と足でどのように階段を上がったり、降りたりするか?といった練習をされた方も多いと思います。

 

しかし、よく患者さんにお話を伺ってみると、

  • 「街中の坂道が怖い」
  • 「エスカレータの乗り方が分からない」

という話をお聞きします。

 

確かに、これらの練習は病院で行われないことも多く、ネットで調べてもあまり十分な情報が少ないような印象があります。

今回はなぜそのように感じてしまうのか?、どうすればよいのか考えてみます。

脳卒中片麻痺の方が街中で歩きにくい場所はどこ?

それでは、脳卒中の片麻痺により運動麻痺がある方は、街中のどのような場所を歩きにくいと感じることが多いのでしょうか。

私がリハビリにおける臨床で患者さんからよく聞く場所を以下に挙げます。

坂道

街中には坂道がたくさんあります。

坂道といっても様々な種類があり、このような普通の坂道から、

ふくらはぎのトレーニング

道の真ん中が盛り上がり、両脇の歩道が斜めに傾いてるかまぼこ型の坂道などがあります。

 

普通の坂でも、進行方向によっては上の写真のような坂を横に横切るように歩かなければならない場合もありますし、単純に

  • 「坂を上る」
  • 「坂を下りる」

ということだけを安定して行えるだけでは、応用的動作が求められ、柔軟に対応する必要がある街中では、不安要素が残ってしまいます。

 

さらにその道路によっては路面の状況という要素も加わって、アスファルトがデコボコしていたりすると、さらに安定して歩行するための難易度が上がってしまいます。

階段

脳卒中 階段の上り方

街中には階段も至る所にあります。

駅、デパート、スーパー、ご飯屋さんなどです。

 

友人の家に遊びにっても、2階がリビングというお宅も都市部の住宅では最近増えているので、階段を上り下りしなくてはならない場合もあります。

 

 

エレベーターが設置されている駅も増えてきていますが、地方の駅などは未だに階段しかない場合も多いです。

 

入院中に、病院で階段の上り下りの練習をされた方も多いと思いますが、

  • 手すりが片側しかない
  • 踏み面(ふみづら=足を乗せる面)が狭い
  • 蹴込み(けりこみ=段差高さ)が高い

など、街中の階段は様々でなかなか練習通りにいかないことも多いです。

応用的な階段昇降動作を強いられる場合も多いのです。

エスカレーター

脳卒中 エスカレーターの移動方法

地面も手すりも動いているエスカレーターは、「恐怖の対象」になってしまってもおかしくない。

リハビリで階段を上る練習を行うことは良くありますが、エスカレーターの昇降を練習した方はかなり少ないのではないでしょうか。

基本的な構造は階段と同じですが、エスカレーターは地面が動いています。(手すりも動きます。)

運動麻痺がある方にとって、地面が動いているエスカレーターは普通の階段よりも大変難易度が高く、とても怖いと思います。

恐怖の対象になり得る場所です。

なぜこれらの場所に恐怖を感じるか?(歩きにくい原因)

それでは、片麻痺の方は、なぜこれらの場所が歩きにくいと感じるのでしょうか?

 

いつもお伝えしていることですが、原因を理解することで対処法が見えてきます。

 

単純に、「麻痺側の足の筋力が弱いからじゃないの?」と思われるかもしれません。

確かにそれも大きな要因だと思います。

 

しかし、それに加えて、麻痺側下肢に体重を適切に乗せることができない」ということも一つの大きな要因です。

言い換えると、「重心移動が稚拙で上手く行えないこと」が原因で転倒に対する恐怖感や、歩きにくさを感じるのだと思います。

(筋肉の緊張・痙性が高く、内反尖足になる方は内反尖足により地面との接地面が適切にコントロールできないことに起因している場合も多いです。)

これは足の筋力とは全くの別物の要素が大きく関係しています。

 

 

 

歩行における重心移動の大切さをより実感して頂くために、一つ例を挙げます。

例えば、片脚立位保持

このように右脚を上げて片脚立ちをする時に、右足に体重を乗せたままで右足を上げてみましょう。

 

具体的には、下の写真のような姿勢を取って頂き、この状態で右足を地面から浮かせてみて下さい。

片脚立位

右足を軸にした「休めの姿勢」から、右足を地面から浮かせることができるか?

恐らく、筋力に関係なく、マッチョなボディビルダーでも、一流のスポーツ選手であろうと、右足を浮かせることができないはずです。

(ジャンプをすれば少しは浮くと思いますが・・)

 

ヒトが生物として、重力の働く地球で活動する以上、体重の移動・重心移動を適切に行わなければ思うように活動することはできません。

この場合だと、反対側に休めの姿勢(左足を軸にした休めの姿勢)を取ると、驚くほど簡単に右足を地面から浮かせることができるはずです。

 

歩行動作とはまさに、無意識でこのような体重移動を連続させて行っている動作であり、言い変えると、「片脚を上げて」前に出す動作を連続して行っている動作が歩行動作です。

 

街中の上述の歩くのが嫌な場所・歩きにくい場所では、平地よりも重心移動の円滑さがより緻密に求められるため、重心移動が稚拙になりやすい脳卒中片麻痺の方は恐怖感を持ちやすいのです。

なぜ体重移動が上手くできないのか?

簡単に言うと、脳卒中片麻痺の方は、麻痺側下肢を感覚的に信用することができません。

これは、発症当時の記憶が脳に残っていることが多いため、信用して麻痺側の足に体重を預けるということが簡単には行えないためです。

ボディイメージといって、自身の体のイメージが発症後塗り替えられてしまうのです。

 

さらに、障害された脳の部位によっては感覚障害を併発される方も多いです。

(体性)感覚障害と一言で言っても、

  • 触覚
  • 温痛覚
  • 運動覚
  • 位置覚
  • 振動覚

などが障害される場合がありますが、これらは全て、いわば動作時の「センサー」の役割を果たしています。

歩行時には、

  • 足が地面についたときの足裏の振動
  • 関節にかかる体重の圧力
  • 体重を支えるために収縮する筋肉の収縮の程度

など、あらゆる情報をこれらのセンサーが敏感に感知して、脳が適切な体重移動のタイミングと量を今までの経験から即座に判断しています。

 

この感覚が少し鈍るだけで、歩行に合わせて体重移動を適切に行うことが難しくなります。

 

具体的には、

  • 素早く体重を移動できない
  • 麻痺側下肢へ体重を完全に移動しているつもりでも反対側の足に残っている
  • 体重移動のタイミングがずれる

などの症状が出現します。

 

これらの中でさらに問題を複雑にしているのが、これらの症状が出ていても「本人が自覚することが難しい」ということです。

 

感覚障害のあるなしに関わらず、上述の様に脳卒中片麻痺の方はボディイメージが変化しているため、麻痺側の足に体重が乗っていない状態が、「普通」だと無意識に認識するようになるためです。

 

発症前までは、立っている時に5:5の体重分布(普通はこんなにきれいに左右対称になりませんが、あくまで例です。)であったのが、発症後7:3位になっていても、それが「通常」であると脳が認識してしまうため、体重移動が上手く行えていない場合でも、それに気づきにくくなってしまうのです。

「街中を安心して歩く方法」エスカレーター・階段・坂道はどうしたら安心して歩ける?

それでは、街中で歩きにくい場所を今より少しでも安心して歩けるようになるためにはどうしたらよいでしょうか。

 

原因が分かれば対処方法が見えてきます。

「体重移動を上手くできるようになること」が解決策になります。

 

しかし、こう言われても、「それができないから困っているんだ!」という方も多いと思います。

 

なので、もっと具体的な解決策を提案させて頂きたいと思います。

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解決策のヒントは階段昇降のリハビリの中にある!

病院のリハビリで頻繁に行われている階段昇降練習。

実はこの中に体重移動を円滑に行うためのヒントが隠されています。

 

階段を昇る際は、

  • 強い方の足から先行させて昇り、

階段を降りる際は、

  • 弱いほうの足から降ろす。

 

と言う風にリハビリで練習したと思います。

 

「どっちだったっけ??」といつも悩んでしまう方には、おすすめの良い覚え方があります。

 

階段昇降は「行きは良い良い、帰りは怖い」

これで覚えて下さい。

 

「行き」は階段の昇段のことで、「良い良い」は良いほうの足から昇る、という意味です。

降段の時はその逆になると覚えておけばOKです。

臨床でもこの覚え方をお教えすると、実際多くの患者さんがすぐに覚えて下さいます。

 

この階段動作、このようにマニュアルの様に形式的に「覚えて下さい!」とリハビリで言われた方も多いと思います。

 

しかし、これには実は深い訳があります。

 

これらの昇降手順には、体重の移動と密接な関係があります。

そして、それを理解すれば、頭を悩ませる街中のエスカレーター、坂道にも応用することができます。

体重が強く、長く乗る方を強い足にする

階段で昇段時には、先行する足にグッと全体重を乗せ、さらに、残った足と体を上に引き上げなければなりません。

 

逆に降段時には、自由の利きにくい麻痺側の足をひとつ下の段にゆっくりと丁寧におく、という動作が必要です。

この時に体重を支えているのは、上の段に残っている強いほうの足です。

 

つまり、昇降動作どちらも全体重が乗る方を強い足に任せているのです。

 

これを逆にしてしまうと、昇段時に全体重を弱いほうの足で持ち上げなければなりませんし、降段時には全体重を弱いほうの足で支え、ゆっくりと強い足をひとつ前の段に乗せなければなりません。

 

つまり、体重が乗りやすい方に強い足を持ってくるようにすると不安感が少なく、しっかりと移動できるのです。

エスカレーターでは「常に弱い方の足」を先にする

エスカレーターの登りの場合は、原則としてい方の足を先に乗せる様にして下さい。

そして、その状態でしっかりと手すりにつかまり、一瞬だけ片足立ちをするイメージでいると、自然にエスカレーターの流れに乗れます。

 

降りる時も同じように、弱い方の足から降ろして下さい。

 

覚えにくい方は、階段の時の覚え方とセットで「エスカレーター、行きも帰りも怖い怖い」で覚えて下さい。

 

なぜかと言うと、エスカレーターの登りも下りも、始めの部分は平地になっている(段差がない)場合がほとんどだからです。

よって、エスカレーターで問題になるのは、階段のように段差があることではなく、可動部と地面をまたぐという行為です。

 

エスカレーターの場合、段差は全く気にする必要はありません。

可動部(動き始める部分)をまたぐことに全神経を集中させて下さい。

 

よって乗る時も降りる時も、強い方の足で体をしっかりと支えて、麻痺側の足をゆっくりと先に可動部(降りる時は地面)に乗せるようにして下さい。

その時に、エスカレーターは左右どちらにも必ず手すりがあるので、掴まってまたぐようにして下さい。

 

これは敷居や段差をまたぐ方法をリハビリで教えて貰ったことがある方は、全くおなじことなので理解しやすいと思います。

(麻痺側から先に足を出してまたぐ、と聞いたはずです。)

 

※追記:理論的には上述の内容で良いと思いますが、動く地面に弱い方の足を先に乗せるのは心理的に恐怖感がある方も多いようです。

麻痺側の足で少し片脚立ちができる方は、良い方の足からエスカレーターに乗せ、降りる時も良い方から降ろすようにすると良い場合あります。(今回の記事は麻痺側の足で片脚立ちがほとんどできない方を対象として書いています。)

坂道では傾斜の下にある方に強い足を置く

かまぼこ型の坂道を歩行する場合は、強い方の足が坂の下に来る方向に位置を取って歩くと安定して歩くことができます。

 

少し文章では分かりにくいと思うので、下の絵をご覧ください。(自作の絵なので下手で申し訳ありません・・。)

かまぼこ型の坂の歩き方

かまぼこ型の坂を歩く場合、坂の左手側を歩くと傾斜が左下に向かって強くなるため、左足に体重が乗り続けます。

逆に右手側を歩くと、右足に体重が乗り続けます。

 

さらに、体幹の筋肉に麻痺がある方は、坂の傾斜によって、坂の左側を歩いていると知らないうちに左側に体が少し傾いているはずなので、余計に体重が左足に掛かります。

もし左片麻痺なら、かなり歩きにくいはずです。

 

よって、右片麻痺がある方は、道の左側を歩くようにする、逆に左片麻痺の方は道路の右手側を歩くようにすると安心して歩くことができます。

 

実際には道路交通法では左側通行であったり、なかなかうまく歩く側を変えることができない場合もあると思いますが、このことを知っていると、状況に応じて工夫する知恵が生まれやすいのではないかと思います。

まとめ

歩行と重心操作(体重移動)は大変密接に関わっています。

 

歩きにくいと感じる時に、「弱い方の足に体重が掛かりやすい環境・状況になっていないか?」を確認してみることをおすすめします。

 

そして、少し工夫すれば、弱い方の足に乗っていた体重を強い方の足にに少しでも乗せることができる場合も多いです。

 

 

こういったお話をすると、「でも、弱い方の足を無理してでも生活の中で使わないと衰えたり、余計に歩けなくなったりしないのですか?」と聞かれることが多いです。

 

しかし、まずは「安心・安全に生活が行える」という状態を整えてから、次のステップとして生活の中でのリハビリを考えていくべきです。

「生活の中にリハビリの要素を入れる」という考えは正論で私も同意しますが、あまりにも転倒リスクが高い方法や、本人が恐怖を感じる方法で取り入れるのは全くおすすめできません。

 

無理に恐怖を感じながら、必死にそれを抑えて歩いていても、歩くことが嫌になるだけで、期待するようなリハビリ効果などないと思って頂いて構わないと思います。

 

それよりは、普段は安心して歩ける方法で必要に応じて快適に歩き、リハビリをする時に徹底的・効率的に弱ってしまった足を鍛える方がよっぽど効果が出やすいと自身の臨床の経験から確信しています。

 

弱い方の足がリハビリで充分に鍛えられてから、生活の中でのリハビリを意識して行っていけば充分遅くありません。

今回の記事を参考にして頂き、快適に安心して外出するために少しでもお役に立てると幸いです。

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