大腿骨頸部骨折のリハビリ まとめ


大腿骨頸部骨折は高齢者に大変多く、リハビリの臨床においても頻繁に遭遇する疾患です。大腿骨頸部骨折の手術、保存療法、リハビリの内容の全てをご紹介します。




原因と症状

大腿骨頸部骨折の受傷率は加齢と共に増加します。

原因としては、転倒して直接大転子を強打したり、膝を付いて大腿部をねじった際に生じることが多いとされています。

 

特に、「平地に立った高さからの転倒」のように良くある転倒で生じることが多く(全体の75%)、かなり身近な場所で頻繁に起きている骨折です。

しかも、意外なことに、屋外よりも屋内の方が受傷率が高いそうです。(60~75%は屋内)

 

女性の方が骨折する割合が2.5倍ほど高く、大腿骨頸部の強度が男性の3/2程度しかないことも一因と言われています。

年齢的には70歳以上に多く、年齢に応じて受傷率が上昇していき、85歳以上の頻度が最多となっています。

 

大腿骨の頸部骨折を受傷した患者のリハビリにおいて、最も大切なことは、何をおいても早期離床です。

特に歩行能力を獲得できるかどうかが最大のポイントとなります。

高齢者の早期離床を目指すために

早期離床を達成するためには、受傷部のみではなく全身状態を管理することがとても大切です。

ベッドサイドで、立位が困難な早期の時期でも、最低1日4時間以上は座位になる様に指導すべきとの見解もあります。

 

起立が可能になれば、

  • バランス訓練
  • 足底を接地させての荷重感覚再教育訓練
  • 基本動作・日常生活動作訓練

などを積極的に導入していきます。

それらは全身機能低下の予防・改善につながっていきます。

 

一方で、精神機能にも注意が必要です。

入院して認知能力が低下した、というのは本当に良く聞く話です。

認知機能の低下の予防にも、運動は効果的ですので、とにかくできる範囲で動いてもらうことが大切です。

 

これがリハビリの基本方針となります。

大腿骨頸部骨折の種類

大腿骨頸部骨折 種類
転子間稜を境に内側骨折と外側骨折に分類される。

まず、大腿骨頸部骨折の種類を把握します。

股関節大腿骨の関節包を境に、

  • 内側骨折
  • 外側骨折

に分かれます。

 

大腿骨を転倒により強打した場合の骨折には、外側骨折の頻度が多いです。

外側骨折は栄養血管である大腿動脈により、骨癒合を期待できますが、患部に強い疼痛が生じやすく、長期臥床状態が望ましくない高齢者では保存療法は困難といわれています。

 

内側骨折の中には、初回のレントゲン撮影で骨折が認められず、しばらくしてはっきり分かるものも多いので、痛みの訴えや脚長差を慎重に観察しておくことが大切です。

内側骨折では骨癒合が困難なため、人工骨頭置換術が選択されることが多いです。

大腿骨頸部骨折の予後と予後不良因子

受傷後1年以内の死亡率は約16%で、受傷していない一般老人の約3倍です。

 

そのうち85%が6か月以内に死亡すると言われています。

 

原因は肺炎(20-40%)が一番多く

  • 心不全
  • 腎不全
  • 敗血症
  • 肺血栓塞栓症
  • 認知症(間接的に)
  • 心疾患
  • 脳血管障害
  • 高血圧

の順で予後不良となります。

大腿骨頸部骨折の治療法

治療法は、

  • 保存療法
  • 固定術
  • 人工骨頭置換術

の3つに分かれます。

保存療法

頻度としては少なく、安定した骨折の場合に選択されることがあります。

  • 免荷
  • 牽引による安静・経過観察

などを行います。

固定術

外側骨折では血行も良く、骨癒合も良好なため、

  • CHS(Compression HIp Screw)
  • Ender nail

などの固定術が行われます。

最近は、CHS(compression hip screw)やガンマネイルの出現により、Ender法は減ってきています。

実際私も担当したことがありません。

CHS(Compression HIp Screw)

CHS

CHSは荷重時に骨頭に挿入したラグスクリューが骨幹部に固定したバレル内の中空のチューブに沿ってスライドし、骨折部に圧迫が加わるため固定性が良いと言われています。

image4 - コピー
引用)金原出版株式会社 ここがポイント整形外科疾患の理学療法 改訂第2版 冨士武史 他

リハビリの進め方は手術後の固定性、骨癒合の状態により様々なため、医師と相談しながら進めていく必要があります。

理想的に行われれば、手術直後から荷重は可能とされています。

 

不安定型の骨折や、骨粗鬆症を合併している場合はラグスクリューが骨頭を貫いたり(骨頭穿通と言います。)、骨頭が内反してしまうことがあります。

これらの再損傷してしまう可能性のある患者の場合、荷重、SLR、可動域訓練は特に慎重に行う必要があります。

骨頭穿通や再骨折は下肢長の変化や疼痛の出現、ガクッとした感じと共に動きが変わる、などの症状があります。

その場合はすぐに医師に連絡を取り、適切な対応を検討する必要があります。

ガンマネイル(γ-nail)

ガンマネイル

最近のガンマネイルはCHSよりもさらに固定性に優れています。

  • CHSに比べて荷重軸が股関節の支点に近く、負荷が少ない。
  • 荷重が大腿骨の中心を通るため、骨へのストレスが小さい。

などの利点があり、比較的多く施術される術式です。実際私も多く担当してきました。

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人工骨頭置換術

内側骨折では骨頭壊死の頻度が高いため、人工骨頭置換術が選択されることも多いです。

現在では、一軸性のmonopola typeよりも、臼蓋への負担が少ない、二軸性のbipolar typeが主流です。

bipolar type
引用)金原出版株式会社 ここがポイント整形外科疾患の理学療法 改訂第2版 冨士武史 他

リハビリの目的

  • 早期離床・早期歩行
  • 患側股・膝関節の可動域と筋力の増強・維持
  • 疼痛の軽減を図る
  • 患側下肢と両上肢の機能維持
  • 杖などの歩行補助具を使用した安全な歩行の獲得
  • 呼吸機能の改善・維持
  • 日常生活動作の自立

リハビリの評価

  • 認知機能検査(HDS-R、MMSE)

認知機能の低下は機能的予後に大きく影響します。

  • 内科的合併症の有無

心疾患、肺疾患、腎機能障害、糖尿病(DM)、貧血などが手術の適応や合併症に関係します。

  • 社会的因子

同居家族が多く、家族の適切なかかわりがあれば、比較的予後が良いと言われています。

  • 機能・能力評価

初期の患側下肢の評価は疼痛のため評価困難なことが多いです。参考程度ですが、握力がその人の平均的筋力の指標になると言われています。

 

下肢機能は受傷前の歩行能力、ADL、活動範囲によって推測します。

骨粗鬆症患者では運動療法や移乗で新たに骨折しないよう注意が必要です。

大腿骨頸部骨折のリハビリの実際(人工骨頭置換術の例)

手術の翌日より徐々にベッドをギャッジアップし、抗重力位で体に負荷を掛けていきます。

 

起立(立位)ができるようになったら、できるだけ早く歩行練習に移行していきます。

 

  • 関節可動域訓練

できるだけ他動的に負荷の少ないものから段階的に行っていきます。

股関節外転、屈曲や膝関節屈曲・伸展などを中心に愛護的に行って下さい。

スライディングボードなどを使って行う自動介助運動なども効果的です。

ベッドで臥床している期間が長いと、腰椎の可動性が低下し、下半身の着衣動作に影響を及ぼすこともあるため、腰背部のストレッチも行うと良いです。

 

  • 筋力増強訓練

患側足関節の自動運動は術前より行っておくとベストです。(循環障害や深部静脈血栓症DVTの予防の意味もあります。)

大腿四頭筋の等尺性運動も術前から可能です。

※参考 パテラセッティングの方法

運動療法では、疼痛と腫脹の程度を確認しながら、、関節拘縮予防効果の大きい(関節可動域を目いっぱい動かす)等張性運動に移行していきます。

 

特に股関節周囲筋(屈曲、伸展、外転)と大腿四頭筋の筋力が低下しやすいので重点的に筋力トレーニングを行います。

 

  • 荷重・歩行練習

CHSの一部と人工骨頭置換術では術後1~2日後に荷重・歩行練習が可能とされています。

しかし、実際は痛みが強い場合も多く、数日経過してから荷重練習を開始するケースが多いと思います。

リハビリでの注意点

人工骨頭置換術では脱臼に注意が必要です。

実習で耳が痛くなるほど言われたことだと思いますが・・。

THAと同様に股関節の屈曲、内旋、内転位で脱臼する可能性があります。しかし、THAよりは脱臼する可能性が低いと言われています。

 

特に認知症がある患者さんの場合、禁忌肢位を無意識に行ってしまうこともあるため注意が必要です。

 

一般的に歩行レベルは病前が独歩なら杖、病前が杖なら歩行器、と一段階低下することが多いと言われます。

どれだけ歩行能力を低下させないかが療法士として腕の見せ所でもあります。

まとめ

大腿骨頸部骨折の患者さんは臨床で本当に頻繁に遭遇するので、臨床経験を積めばある程度自然にリハビリの方法や予後も体感的に理解できるようになります。

 

今回の記事を参考に、患者さんをできるだけ早く元の生活に戻してあげられると良いですね。

<参考書籍>

>>次の記事は「変形性膝関節症のリハビリ ガイドラインに基づく評価・治療について」です。

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